四面書架① ぬいぐるみ
午前3時44分、ベッド上でぬいぐるみが死んでいる。目に生気がない。今、あるはずもない心臓を懸命に揉んでいる。ふきかえせ、息を。息を。。。
実家から行き場のなくなったぬいぐるみが多く下宿先に送られてくる。中には久しぶりに会うものもいる。彼らには名前があったはずだが、そんなものは当然覚えていない。そのため、再度、一体一体に名前を与える。思いのほか、この作業は楽しい。目の前に存在し何かを訴えかけるような瞳をもつ物体を一言で表現できた瞬間は、名状しがたい快楽が全身をおそう。彼らも実家ではひどい仕打ちを受けていたのだろう。家族の大半がミニマリストであるため、何をされていたかは容易に想像できる。脱北(北=北海道)したことによる安堵を抱いているように見える彼らからは、度重なる苦悩を経験した故なのか、往年の動物にしか出せないオーラを感じる。
そんなことはさておき、幼いころからぬいぐるみの瞳には、僕自身の気持ち、ある種の心象が表れていると思っている。一日おわりの気分が総じて+だと、彼らの瞳は燦然とひかり、-であると暗澹たる灯が瞳にやどる。
ずっと僕のことを隣で見つめていた彼らの瞳は何よりも信頼できる。僕自身は心身とも元気であるのに、そんな彼らの瞳から最近生気を感じない。
君は生きている死人だよと、瞳で訴えかけられているようだ。
たのむ。息を吹き返してくれ。。。午前4時17分。親愛なるぬいぐるみたちよ。