今日、明日、って。そうやって好きを捲ってる。
今日も貴方が好きだ、そのことに安堵する私がいる。
大丈夫、今日もちゃんと好きだった。
今日も昨日も、私は貴方の物語を読んだ。
ベッドサイドに置いた貴方という物語を、私は開かずにはいられずに。毎日ただ淡々と連なる物語を流し読みして。引っ掛かりを覚えたところに付箋を付けて。静かに栞を挟んで。そうやって私は貴方を読んでいる。
私が読み始めた頃から、もう大分と時が過ぎた。
私は、読み始めた頃より少しだけ立場に責任が出てきて、読み始めた頃よりほんの少しだけ忙しくなって。そんな疎ましい変化に地団駄を踏んでいる。読み始めた頃より少しだけ、貴方を読む時間が取れなくなってきた。読み始めた頃は気が遠くなるほどあった読み始める前の分のバックナンバーも、もう擦り切れるほど読み込んでしまった。
読み始めたころ感じていた苦みはいつの間にか気にならなくなって、読み始めた頃には想像しなかったことで顔を顰める毎日で。
時間が経ってしまったことに、珈琲を啜って思いを馳せて。
物語も、もう大分と進んできた。
毎日の当たり前の日常を切り取った物語だったはずなのに、時間なんて過ぎていないようなものだったはずなのに、いつの間にか主人公も登場人物も変わってきた。私が結構気に入っていた登場人物も最近はとんと姿を見なくなったし、私が好きだった設定も終わって次に移ってしまったし、最近は新しい事件を中心に物語が進んでいく。
作者もきっと少しだけ年を重ねて、昔に比べてあんまり見なくなった言い回しもある。物語の中と物語の外、進み方は違っても、確かに時間だけは過ぎている。
だから時々、駄々を捏ねたくなる。あの設定でもっと長く描いてくれればよかったのに、とか。あの設定のスピンオフが出ればいいのに、とか。
時々口を付いてしまう。とっても失礼なことが。作者にも、登場人物にも、失礼なことが。
全部、時が過ぎたのが悪い。時が止まってくれなかったのが悪いんだよ。
私が好きになった頃から、大分と時が過ぎてしまった。物語も、私達も、時間に流されてこんなところにまで来てしまった。どんなに、もう一回何も知らない状態であの巻を、あのページを読みたい、なんて願っても、叶わなくて。
こんなに望んでいるのに、私はもう二度と初めて読むことはできないらしい。
だから。栞を挟んだページを何回も読んでいる。擦り切れるほど。もう、開き癖が付いてしまうほど。
だけど。だけど忘れないでいたいことがある。
昔のほうが、夜に本を開く時間が長かったとしても。
最近開いたとき、読み進める時間よりも栞を挟んだ場所を読み漁る時間が長いとしても。
明日の寝る前が楽しみな私は、まだちゃんと貴方が大好きだ。朝から昨日の続きをあれこれ想像している私は、まだちゃんと。他の何にも変えられないぐらい貴方が好きだ。
通学バックよりも。遊びに行くときに使うリュックよりも。どこよりもベッドサイドに置いておきたい。
一日に一回は、必ず手に取りたい。
ときには朝、準備をしているときに手に取ってしまって遅刻しかけたりなんかしていたい。
ときには夜更かしして。徹夜してって、そうやって。