自分

発達障害子育て編
相棒
息子のよきパートナーになればと思い、貰いうけた保護猫クー。
 息子が四六時中かまってあげて、いっつも息子のあとばっかり追って歩くような息子専用の猫になった。
 
 それはそれで大正解だった。
 子猫とはいえ自分を頼りにしてくれる、家族の誰にも懐かないのに、自分だけには喉を鳴らして甘えてくる。
 こんな嬉しい事はなかったかのように、息子に笑顔が戻ってきた。

 高校卒業してからずっと人にバカにされて、現実を突きつけられて、これでもかと心をへし折られ、望みをかけて石川県の学校に行っても同じで、皆んなに恨みつらみのメールを送り、自分も死ぬからと部屋に閉じこもり、生きる意味を失い、目にも心にも力が見えなかった息子に光がさしてきたように感じた。

 クーの為に猫ハウスを作るんだと、段ボールを何個も重ねてガムテープで留め、途中途中で猫が通れるようにカッターで穴を開けてあげたり、100均で猫が喜びそうなおもちゃを何個も買ったり。
 クー様様だった。

 面白くないのは先住猫のシャム。
 私にはいつも通りゴロゴロくっついてくるが、クーがたまに私達の部屋をチラッと覗こうものなら、「フシャー!シャシャシャー!」てえらい剣幕で向かっていく。
 闘牛場の牛のような鼻息で、肩で風を切りながら私の側に戻ってくる顔は、まるで百獣の王のようであった。

 それでも毎日毎日クーは、シャムのあとを追っていく。
 付いてくるなと何回も「シャー、シャー」言いながらも、毎日自分のテリトリーを巡回するシャムの後ろ1m後ろをクーが付いていく。

 シャムのテリトリーは、犬のシロの散歩コースを含めて半径50m程。
 たまにシロの散歩コースを遠出にして、1kmくらいにしても余裕で付いてくる。

 メスでありながら、おそらくこの辺を仕切っているボス猫。
 半野生の猫のようなのも自宅に来るが、シャムの姿を見ると逃げて行く。
 おそらく、長毛で外国の種も混じってるから、人間の目で言うと、ブロンズヘアの大きい女性が、シロという狼を引き連れて見回りしているとか、そういう風に見えてるのかもしれない。

 そういうシャムに、クーはめげずに付いていく健気な子猫。
 次第に「シャー」はしなくなっていって、好きにしろみたいな顔で何とかクーを受け入れてくれるようになった。

 クーのおかげで笑顔が戻ってきた息子も、少しずつ変わっていった。
 口数も多くなり、私達と話す機会が増えて、陸上も競歩は断念してまた走る方に戻りたいと。

 ホッとした。これでまた競歩を続けるとなると、今度はどこの監督や先生に迷惑かけるか分からない。
 走る事であれば、自分でずっとやってきた事だから、誰にも頼らずとも続けていける。

 招き猫クーのおかげである。
 誰かさんは面白くないかもしれないが、その存在が誰かの為になっているのであれば、多少我慢してもらわなければならない。

 その誰かさんのイライラが溜まった頃は、必ずどこからか雀を咥えて持ってきたり、ハツカネズミのような小さいネズミを捕ってきたりする。
 まるでクーに見せびらかすように。
 「お前はまだこんな事出来ないだろう」みたいなドヤ顔で。
 それはいいのだが、殺すんではなく生きたまま捕ってきて、私達の部屋にペッて離すもんだから大変。
 小さいネズミを追っかけ回して、捕まえないうち私達が寝つけない。

 そんなドタバタしながらも、何とか前に進んでるのかなと感じる日々であった。

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