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「裏を取材」第5弾~作家:未苑真哉~

「小説は架空のものだけど、現実に即していなければいけない」

そう語るのは作家、未苑真哉さんです。

「現実に即していない作品は、生きている人たちに対して失礼だと思います。人間の「光と影」をはっきりと描かず、ただの言葉の羅列だけでは真実にたどり着けない」

そんな熱く滾る想いをもって書かれた作品、それが『人生投影式〈スクリーン・オブ・ライフ〉』
今回の記事では未苑さんの「書く」ことにおけるこれまでの人生についてと、著作『人生投影式〈スクリーン・オブ・ライフ〉』を書かれたその裏側に迫ります。

未苑真哉(みその・まや)
 出身:愛知県出身
 職歴:大学受験予備校に勤務、チューター職を経て現在に至る。
 資格:アロマブレンドデザイナー
 受賞歴:
 2023年 第1回文学レボリューションにて大賞受賞。
 2024年 第7回文芸社文庫NEO小説大賞にて優秀賞受賞、書籍化予定。

『人生投影式〈スクリーン・オブ・ライフ〉』
「人生投影式」、それは故人にとっての人生の大切な瞬間を映像としてスクリーンに映し出し、遺族をはじめ遺された者たちに鑑賞してもらうサービス。
過度な期待を寄せる母親に抵抗したい気持ちから、かつて「軽蔑」の花言葉がある黄色いカーネーションを贈った娘。名前すら知らなかった隣人から、なぜか農園の経営権を譲られた梨農家の女性。嫌な顔ひとつせず、父親の介護を引き受けてくれた妻を亡くした夫……。故人の中に眠る記憶を目の当たりにした彼らは、それまで知る由もなかったその想いに初めて触れる。
また、そんな「人生投影式」を提供する「スクリーン・オブ・ライフ」という組織には、ある兄弟の知られざるドラマが隠されているのだった。ーー新時代を担う作家の発掘へ向けて開催されたコンテスト「文学レボリューション」の第一回大賞受賞作を収めた連作短編小説集!
この度『人生投影式〈スクリーン・オブ・ライフ〉kapono版』として特典付きで再出版決定!絶賛下記サイトにて予約受付中です。




第一章 私が小説を書く理由

執筆を諦めていた過去

私の執筆における人生は、あまり明るい話ではありません。
私が小説らしい小説を一つ書き上げたのは大学生の頃でした。運よくプロの編集の方に読んでいただける機会に恵まれたのですが、編集者の方に言われたのは一言。
「小説ってものを何もわかってないよね」
当時の私は文学部でもなかったし、読んでいた本も偏っていたので、今思えばその通りだなと思います。でも、その時は本当にショックでした。

元々小さい頃から、私は人との感じ方が違うなと思っていたんです。集団生活も苦手で、友達がいないわけではないけれど、何となく周りとの考え方や価値観に差異があって。
「未苑さんって変わってるよね」って言われると「そうだね、変だもんね」なんて笑い返すしかなくて、心はどんどんすり減っていった心地でした。

そんな私を救ってくれたのも小説だったんです。小説を読んでいるときだけは、心が軽くなる気がしました。

だからこそ、自分が書いた小説を「分かっていない」って言われてしまった時、本当にショックだったんです。「私は小説を書いちゃいけない」「自分にはその資格がないんだ」と思って、しばらくは完全に書くことをやめて、読むことに集中していました。
それからものすごく働いて、いわゆる“社畜”状態になっていましたね。

未苑真哉さん

陰にいる人たちを描きたい

その後、また小説を書く気持ちが戻ってきたのは、とある年のクリスマスでした。
そのころ私は教育業界に勤めていて、進路指導などをする仕事に就いていました。小説を書く暇なんかない過重労働、激務だったんですけれど、コロナ前の冬、受験生と一緒にクリスマスを過ごしていた時、ふと私の中に落ちてきたものがあったんです。

世間はイルミネーションやジングルベルに浮かれている中、目の前の受験生たちは必死に勉強している。
煌びやかなイルミネーションの影に隠れて、何かと向き合って闘っている人たちの存在に気づき、そんな「影に隠れている人たち」を描きたいと思ったんです。表に見えるものだけじゃなく、その裏側にある気持ちを描く。それこそが小説の魅力だって思って。

それで仕事中にどうしてもその気持ちがたぎってしまって、激務の最中校舎で昼食を取っている休憩時間に、思わずその短い小説を書いてしまったんです。
まさに『熱』があふれ出た瞬間でした。「やっぱり書かずにはいられない」って自分の中にある気持ちが、私を突き動かしました。


第二章 著作『人生投影式〈スクリーン・オブ・ライフ〉』執筆の裏側

作品作りについて

今回「SFやショートショート」というテーマで指定されたのが「1話4,000文字ぐらいで、10話。それぞれが繋がっていなくてもいい短編集という形」だったんですが、この4000文字というのが本当に厳しかったんです。
これまで出してきたコンテストだと、短編といえばだいたい8,000~10,000文字という制限だったので、今までの半分以下の文字数で何を描いて何を削るかが迷いどころでした。
限られた文字数の中でいざ書いてみると、ただのあらすじみたいになってしまうし、導入部分や伏線の仕込み方、強いオチを込め作品のコントラストを強めるためにも、描写や表現を濃くしなければなりませんでした。短編は落としどころやカタルシスがそれぞれ異なり、読者の捉え方もバラバラです。ならではの難しさがありましたけど、やりがいのある挑戦でした。


著作について

今回の作品には「人生投影式」というアイデアを主軸に据えました。物語では「死んだ人が残された人に自分の記憶を見せる」という技術が登場するんですが、それは「亡くなった人が体感した感覚そのもの」をそのまま再現できる技術なんです。生きている人が他人の感覚や人生を体験する、と「素晴らしいもの」として物語は進むんですけど、書いていく中で「良い面ばかりなわけがない」と思い始めたんです。
亡くなった方の記憶や感覚を再現することで、残された人が不快に思ったり、逆に悲しんだり、苦しむこともあるはず。そこに気付いてからは、どうやって物語の落としどころをつけるかですごく悩みました。後半で人生投影式〈スクリーン・オブ・ライフ〉を立ち上げた人たちのドラマや思惑、込められた願いを描くことで主人公と一緒に乗り越えられたかなと、自分では思っています。

取材を通して見えた物語を支える現実と創造

執筆を進めていく中で、担当編集者さんからいくつか本を紹介いただきました。その中で最も印象に残っているのが「葬儀社の方が書かれた本」だったんです。
物語の性質上「お葬式」について深く理解する必要があったんですけど、これまで私は執筆をするための取材ってしたことがなかったんです。
でもその本を読んで葬儀社の方の苦労や、弔問客には見えない悲しみ、そして亡くなった方への敬意など、そういった視点を学ぶことができましたし、その学びを通じてお葬式を上げないケースや直葬といった選択肢についても自分で調べました。また、事故で亡くなった方の霊安室についても調査したことで、葬儀社の方がどんなことに気を配っているのかを知り、物語のリアリティを追求できたと思います。

その時に「小説は架空のものだけど、現実に即していなければいけない」と気づいたんです。現実に即していない作品は、生きている人たちに対して失礼なんだ、と。
構造やストーリーを考えるのも大事ですが、それ以上に現代社会との「チューニング」を合わせることが大切なんだ、と。


『人生投影式〈スクリーン・オブ・ライフ〉』表紙

表紙へのこだわり

今回、黒沼伯さんに描き下ろしていただいた絵を表紙として使わせていただきました。
黒沼さんはどこかデフォルメされたフォルムがありつつ、不穏な雰囲気も漂うような絵を描かれていて、昔その絵に一目ぼれし購入したことがあったんです。私の人生で初めての絵画の購入でした。
『人生投影式〈スクリーン・オブ・ライフ〉』という作品のテーマが「死」や「2度と会えない人との対面」という重いものなので、表紙もそのテーマにふさわしいものでなければいけないと思いました。人類共通のテーマですよね。いつか必ず誰かと別れるし、自分も死ぬ。
黒沼さんの絵ならばそれが具現化できると確信した
んです。
22世紀アートの皆さんには私のその熱意を感じ取っていただき、こだわりを形にしていただきました。


第三章 未来を紡ぐ言葉の力

言葉の持つ表現力

私にとって小説は、「人が好きだから書く」というものだと思っています。私の尊敬するミュージシャンも、とある教育番組で「作詞をするときは、誰かの気持ちに届くように書こうね」と仰っていました。当時この言葉はすごく私の胸に響いたんです。

小説を書くということは、己の内側に潜り込む作業だと思っています。現実をしっかり見ておかないと書けないし、同時に他人を見ないと書けない。だからものすごくエネルギーを使う作業なんです。
でもその一方で、言葉には無限の可能性があります。いくら映像技術が発達しようとも、言葉にしか表現できないことがあるんです。
本に書かれる言葉は、著者自身が表現したいものを形にするための「輪郭」になる。だからこそ私は、小説で救われてきた自分がそれに恩返しできればという気持ちで書いてきました。
言葉を駆使して表現している人を私は尊敬しますし、応援したいと思っています。私自身もその一員であり続けたいですし、小説好きな人たちと一緒に走り続けたいと思っています。
私は人間が小説を生み出してくれて本当に良かったなと心から思います。

読者の皆様へ

『人生投影式〈スクリーン・オブ・ライフ〉』は、故人の残した記憶を知るための「装置」を描いた作品です。
人間って生きているとどうしてもすれ違ったり、「自分だけ浮いている」と感じたり、「わかり合えない」「理解されない」といった孤独や悲しみ、怒りを抱いてしまったりすることがあると思うんです。
でも人間にはそれを乗り越える力がある。そういったメッセージを込めた作品です。

この物語には、これからの10年、20年後の日本で起こりうる社会問題や、ホログラム技術、VRなどの最新技術も取り入れています。SF的な要素もあり、ミステリー要素も加えていますので、楽しんでいただけると嬉しいです。

実は、この本には私個人の思いで決めた「主題歌」があります。1話ごとのエンディングに流れるようなイメージで聴いてもらえたら嬉しいんですが、これは私の相互フォロワーである「NABE-SAN」が去年デビューされた際の楽曲です。タイトルは『5Minutes』なんですけど、この曲は「亡くなった方と5分間だけ話せたらどうするか」というテーマのミディアムバラードなんです。すごく考えさせられる曲なので、ぜひ聴いてみてください!


『人生投影式〈スクリーン・オブ・ライフ〉』は『kapono版』として特典付きで再出版が決定し、絶賛予約受付中です。
この機会にぜひ、お手に取っていただきたい一冊です。


編集:22世紀アート 森木


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