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『ファーストカット』
今回は編集の話をします。
『ファーストカット』という言葉を聞いたことがありますか? ハリウッドでは編集の発言力がとても強くて、撮影の終わった全てのカットは最初に編集者が単独でラフ編集をします。そこにはキャストに対する遠慮やプロデューサーの政治、監督の思い込みすら入る余地はありません。目の前のフィルムに対して編集者のプライドだけが注がれます。それが『ファーストカット』です。
ボクが今まで関わってきた大勢の編集さんにも様々なタイプの方がいました。中堅の演出の希望など聞く耳を持たずにフィルムに印を付けて助手にフィルムの切る、貼るを任せる人。こういう方との編集はあっという間に終わってしまうので、どうしても意見が違うときには「ちょっと待ってください! そこはこういう理由で!」とあわててストップをかけなければなりません(汗)同じベテランでもマッドハウス時代にお世話になった編集の尾形さんという方は、演出になって間もないボクにも親身になって「このシーンはどういう意図でつくったの?」「ここのカットつなぎ、君はどうしたいの?」といつも丁寧に聞いてくれます。そんな尾形さんでしたが、ある作品でご一緒したときの事です。編集のスケジュールがほとんど無くなり、翌日以降には伸ばせない状況になっていましたーーー明日はアフレコです。
プロデューサーと監督のボクが協議していると、「私に任せてくれないか?」と尾形さんが微笑みます。いくつもの作品で気心の知れた尾形さんの言葉でしたからボクたちに異存などあるはずもありません。そこからの尾形さんの編集のすごいことといったらとても言葉では表せません。ボクたちは床に落ちているフィルム片から必要なモノを探すくらいしか尾形さんのお手伝いができませんでした。この時の尾形さんの編集は、まさに『ファーストカット』だと思います。