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『ライバル池P』
みなさんは池田東陽くんをご存じですか?
『セーラームーン』などで有名な佐藤順一監督と組んで『カレイドスター』という素晴らしい作品を作り上げ、僅か三十八歳という若さで逝ってしまったアニメーション・プロデューサーです。繊細だけど豪快、我が儘で涙もろくて大酒飲み、誰からも好かれる好人物です。
一回り以上年齢差のある池田くんと組んだ最初で最後の作品が『ゲートキーパーズ』でした。彼はアシスタント・プロデューサー。ボクは初めてのテレビシリーズの監督という関係です。繊細で心配性のシリーズ構成の山口宏さんやテレビシリーズを初めて作るGONZOスタッフを懸命にまとめようと奮闘したのが池田くんでした。「君にはテレビシリーズの監督は無理だよ」前にマッドハウスの有名なプロデューサーの方に言われた事がありました。若い演出が書いた絵コンテを全て書き直してしまった時のことです。理由を尋ねると「人の良い所を探して生かしていけなければテレビシリーズの監督は務まらない」という感じの答えでした。その言葉がずっと自分の中に残っていました。演出になって十年、総監督に支えられてはいますが、念願の初シリーズ監督でしたからボクの気合いも半端ないものでした。結果、原作者でもある山口宏さんとぶつかるなどして池田君の苦労を増やしてしまいました。感情的になって彼に当たってしまったこともあったと思います。紆余曲折ありましたが池田君のフォローの甲斐あって『ゲートキーパーズ』は無事放送を終えることができました。出来上がったばかりのテープを二台の車を走らせてWOWOWの放送センターにギリギリ持ち込んだこと。最終話のオンエアをロビーで一緒に見終えたときの池田君のほっとした笑顔は忘れることが出来ません。
よほど懲りたのでしょう、その後池田君がボクと組んでくれることはありませんでした。彼は佐藤順一さんと『カレイドスター』を作り、ボクは『フルメタルパニック』『ラストエグザイル』と別のプロデューサーと関わっていきました。「池田は佐藤順一さんが大好きだからな~!」「大好きです! 佐藤監督は最高っす!」一緒にお酒を飲むたびに繰り返される会話です。「飲みねえ~飲みねえ~、寿司食いね~。おまえさん、どんなアニメ監督が好きだい?」「佐藤順一監督っす!」「・・・・・」
『ブレイブストーリー』が本社から離れた専用のスタジオで作ることになって、池田君とはしばらく会うこともなくなりました。映画の制作も佳境のある日、池田君が突然電話してきました。ブレイブが気になるようです。「映画は順調れすか~?」お酒でろれつが回らない彼が言いました。「ゴンゾらしくない東映みたいな映画を作るよ」「うんうん、それはすごく良いれすね~」ボクの言葉に電話の向こうの池田君は嬉しそうでした。直後ブレイブスタジオにDVDが届きました。『カレイドスター』のレイラさんを主人公にしたスピンオフOVAです。「こんなん作ったで~」池田君のドヤ顔が浮かぶようです。新婚の可愛い奥さんを連れた池田君がノルキア(あきる野市)の千明家に遊びに来たり、ボクが池田君の新居にお邪魔したりと、その後も年に数回でしたが交流は続きました。それでも『ブレイブストーリー』の感想を池田君は話すことなく逝ってしまいました。勝手な想像ですが、映画が彼のお眼鏡にかなわずに、気を遣ってオブラートに包んだような感想を言いたくなかったのだと思います。「オレがプロデューサーなら」って思っているかもしれません。いえいえ、池田東陽プロデューサーなら『ブレイブストーリー』の監督は佐藤順一さんですねきっと(笑)若い友人でありライバルだった池田東陽君が、こんなに早く逝ってしまったことが本当に残念で悔しいです。残されてしまったボクは「こんなん作ったで~!」といつか彼に胸張って言えるような作品を作りたいと思ってきました。『18if ソシテ・ダレモイナイ』『虫籠のカガステル』は見てくれたかな?「佐藤監督は最高っす! まあでも千明さんも、ちっとは進歩しましたね~」そんなセリフでもいいから一度くらいは褒められたいです。