窓の金木犀 // 221008四行小説

 金木犀のマスキングテープを買った。秋になり、その匂いが恋しいものの、この地域の木はまだ花を付けていない。北の方ではもう咲いていると聞くから、殊更恋しくなってしまった。だから目についたこのテープを買ってしまったのだった。
 世の中は季節を少し先取りするから、実は一ヶ月前に雑貨屋で金木犀のヘアオイルを買っていた。世に金木犀の香りのものはあれどどこか本物とは違って買い控えていたのに、そのオイルは記憶の匂いとまさしく合致したのだ。
 もしかしてこの二つがあれば、金木犀を一足先に楽しめるのではないだろうか。
 マスキングテープを袋から出して、端を探して十センチ程を切る。どこに貼ろうかと自室を見回して、目についた窓ガラスの少し上の方に貼った。大抵金木犀の花は少し見上げたところにあるからだ。このマスキングテープは箔押しのマスキングテープで、窓際だとキラキラと光って一際綺麗だ。和紙でできたテープだから、光を通すところもいい。窓に貼ったのは我ながら大正解と思う。
 次にヘアオイルを一滴指先に出して、マスキングテープの上に薄く乗せるようになぞる。これで出来上がり。
 鼻を寄せれば、金木犀の甘い香りがする。少し上から落ちてくるように匂いが降ってくる。記憶のオレンジの花が触れられる場所にある。
 秋はどこだろう。少し涼しくなってきたとは言え、まだ日中は暑く半袖を着ていた。ただ、少なくとも、今この部屋の窓際だけは、秋の空気が漂っている。

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