天官賜福㉟◆(袋の中の紅紅児)魔翻訳した感想と考察
今回は58~59章のあたりに触れていきたいと思います。
「太子兄さんにプレゼントを持ってくる」と言っていた戚容が馬車を暴走させながら街に現れますが、馬車の後ろには麻袋に入った何かが引きずられており、謝憐が袋を開けると中には血まみれの子供が入っていたところからです。
中にいた幼い子供の姿は人間とは思えないほど血に汚れた状態でした。この子供は上元祭天遊で落ちてきた子供(花城)ですが、この時点ではあまりに汚れすぎていて謝憐はまだあの子だと気付いていません。
子供は全身を震わせており、これほどの暴行を受けてまだ生きていることが奇跡に思えるほどでした。
謝憐はすぐさま子供を優しく抱き上げますが、そのとき前方で風信に馬車から引きずり降ろされた戚容が「この下賤な奴め、誰が俺の馬車を止める許しを出した!」と怒鳴っているのが聞こえてきます。
謝憐は怒りを堪えきれず「私だ!!」と声を張り上げました。
その厳しい声と表情に驚いた戚容は口をつぐみます。
すると腕の中の幼い子供も微かに身を縮めたのを感じ、謝憐はすぐに怒りを抑えて優しい表情に戻し「小さなおともだち、大丈夫かい?特に痛むところはある?」とやわらかく声をかけました。幼い子供は腕の隙間からこっそり謝憐を見上げて首を横に振ります。
そういえば、謝憐はこの子供(花城)に話しかけるときはいつも“小朋友”(小さなおともだち)って呼び方してますね。800年後の中元節で花城と会って名前を聞くまでの間は『礼を尽くすために小朋友ではなく朋友と呼んだ』という記述だったのを思い出しました。
小朋友って言葉は小さな子供にしかあまり使われないそうです。子供のみならず年下の子という意味にもなるそうですが、大人に使う場合はある程度親しい間柄じゃないと失礼になるとかなんとか。
でも朋友と呼ばれることについて花城はまったく気にしてなさそうだったという記述もありました。
800年前は小朋友って呼んでたなら、むしろ800年後も小朋友って呼んであげた方がもしかすると花城的には嬉しかったかもしれないですね。
血まみれの子供には意識があり、痛みで気絶することもなければ恐怖で呆然とすることもありませんでした。しかし顔の片側だけを頑なに見せようとせず必死に覆い隠しています。
その様子は痛みを恐れているのではなく、何かを見られることを恐れているかのようでした。
戚容が「太子兄さん、このガキが兄さんの祭典を台無しにしたんだ。だから俺が代わりに仕返ししてあげたよ!これが俺のプレゼントさ!受け取ってくれるかい?」と言ってきたことで、謝憐はこの子供が上元祭天遊で落ちてきた子供だということにようやく気付きました。どこかで見たことがあるような気はしたものの、靴跡や血で汚れすぎていて判別が難しい状態だったそうです。
つまり麻袋に入れられる前から踏まれるような暴行を受けていたということです。
戚容のセリフは鎏金宴を思い出させますね。
あのときも仙楽国の怨霊に永安皇族を殺させて「これは俺から郎千秋への誕生日プレゼントだ!」と言っていました。
戚容からのプレゼントがまともだったことがない。
「祭典を台無しにした」と聞いた子供の目は不安に満ち、かすれた声で「ごめんなさい……」と謝ります。
その姿に心を締め付けられた謝憐は思わずぎゅっと抱きしめて「泣かないで、泣かないで…」と優しく慰めました。
そして戚容に向かって厳しい声で「本当に勝手なことをしてくれたな!私はお前にこんなことを頼んだ覚えはない!」と言いますが、戚容は「兄さん、どうしてそんなに怒るんだよ。俺はただあなたのためを思ってやっただけなのに!それの何が悪いんだ?」とひどく傷ついた顔をします。
そして子供の体から出た泥や血が謝憐の白い衣服にまで染み込んでしまったのを見た戚容はカッとなり、鞭を振り上げて叫びました。
「太子兄さん!あんたは本当に甘すぎる!そんなにこのガキが可哀想だっていうのか!?可哀想?どこが!あんたは知らないんだよ、この生意気なガキがどれほど狂暴で手に負えないか!俺が17~18人連れて行っても殴るわ蹴るわ、噛みつくわ暴言吐くわ…みんな血まみれにされたんだ!俺にはわかる、このガキは最初から騒ぎを起こすつもりで飛び降りた悪党だ。あんたの前では可哀想なふりをしてるだけなんだよ!!」
多分正解!!
同じ悪党にしかわからない“におい”があるとかよく言われますものね。ここは戚容の鼻が利いてるんじゃないかと思います。
花城が祭天遊で落ちてきた理由はまだ判明していませんが、彼が悪党かどうかに関しては「毎日天下の人間を皆殺しにしたいと思っていた」頃の花城さんですからね…。またしても800年後の中元節での話を持ち出してしまいますが、あのとき謝憐に「血雨探花は生前どんな人だったのか」と聞かれて「間違いなく善人ではない」と自己評価していました。
少なくとも謝憐の前でだけいい子ぶってるのは本当に間違いないのですが、謝憐は本気でそんなことはないと思っています。
このまま時間を浪費すれば子供の命が危うい上に、これ以上戚容と揉めても埒が明かないと思った謝憐は「いいか、これから先この子には一切手を出すな!指1本でも触れることは許さない!風信、ここは任せた!」と言い残し子供を抱えて走り出します。
路地を数本駆け抜けているとひとつの路地で誰かと危うく正面衝突しそうになり、お互いに半歩退きました。互いに顔を見合わせ互いに驚きます。その人物は慕情でした。
…でなきゃ避けられないだろうなぁと思います。謝憐の走るスピードに対応して半歩退くなんてこと常人には多分できません。
驚いた慕情は「どうしてここに?」と尋ねますが、それより何より説明する時間も惜しい謝憐は子供を慕情に差し出して「この子を診てやってくれ!」と言いました。
慕情は医術にも精通していた。
ここ、気になっていた点のひとつでした。
鬼市から傷だらけの明儀を連れて帰った時、簡体字版では知らぬ間にひっそりと療養させられていただけでしたが、アニメ版だと急ぎ診察して応急処置してくれたのは慕情だったんです。
違和感あると思いませんか?彼は医者ではなく武神です。しかもあの慕情です。傷だらけの神官を見たところで鼻で笑って後方で腕組んでそうなものなのに(失礼)、冷静に手際よく法術で明儀の身体を浮かして応急処置し始めたから結構驚いた記憶があります。
あと天界の仙楽宮で謹慎処分受けてる謝憐のもとに薬を届けてくれたのも慕情でした。
あれはなんだったんだろうと地味に引っかかっていたのですが、その答えがここで明かされます。
近侍として幅広く様々な知識を身に着けていた慕情は医術にも精通していて、彼の手際の良さや持ち歩く薬はそこらの医者よりよっぽど優れていたそうです。
そのため、突然血だらけの子供を押し付けられても動じることなく簡潔に謝憐から事情を聞き、誰にも使われていない古い板車の上に寝かせて診察を始めていました。
すごい!すごいぞ慕情!
慕情は器用ですよね。雑用係だったから尚更かもしれませんが本当にいろんなことができるんだなぁと思いました。
元々器用だったのか、生きるために器用にならざるを得なかったのかはわかりませんが、そこは素直に評価したいです。
慕情が子供に「手をどけられるか?」と尋ねます。子供はここへきても相変わらず顔の片側を手で隠したままでした。
無言のまま視線のみで「(これ以上は無理だ)」と慕情に伝えられた謝憐は、子供の目線に合わせてしゃがみ込み「小さなおともだち、私たちは君の傷を診たいんだ。手をどけてくれるかな?」と優しい声で尋ねますが、子供は一瞬躊躇ったもののやはりそこだけは首を横に振って譲りません。
「どうして嫌なのかな?」と聞くと、子供はしばらく黙り込んでから小声で「…醜いから」と答えました。
花城の顔面コンプレックスはこの時からとっくに始まっていたようです。
どうしてもそこだけは頑固で折れる様子がないので、慕情は仕方なく他の怪我から診ることにします。しかしだんだんと不思議そうな顔をしました。
子供は肋骨が4本折れていて、片足の骨も折れていました。さらに大小の傷が数えきれないほどあり、17~18人の大人に暴行を加えられた上に麻袋に入れて馬に引きずられたというのに、気絶することもなく泣き叫びもしないのです。まるで痛みを感じてないかのように普通に板車に座っています。
「こんな身体にされては大人でも平然とした顔をするのは無理です。この子は本当に普通の子供ですか?」と慕情は言います。
まぁ謝憐も似たとこあるからな・・・
旧仙楽皇陵で戚容に肋骨折られたり、顔がパンパンに腫れるまで殴られ蹴られても血を吐き出すだけで痛みを訴えたり泣き叫んだりすることは一切ありませんでしたからね…。謝憐はかくかくしかじかあって痛みに対し異常に強くなったけど、花城も似たとこあったんですね。
ただ彼らは痛みに耐えられるというだけで、痛くないわけじゃないと思うんですよ。それもあって花城は謝憐が怪我をすることに過敏なのかもしれませんね。
慕情は手際よく手当を進めてあっという間に子供を包帯でくるんでしまいました。
子供の頃とはいえあの花城が慕情に優しく手当してもらったことがあったのか……
風信には抱っこされ、慕情には手当され…今じゃあんな生意気な態度なのにこんな時代があったなんて………またしても口角が上がってしまう…
でも子供(花城)はふたりには感謝どころか関心もない様子でしたね。風信に抱えられても、慕情に治療を受けてる最中も、視線はずっと謝憐に向けられたままでした。
「おうちはどこ?」と聞く謝憐に、首を振って小さく「家なんて……ない」と子供は答えます。
謝憐は最初、子供の家族に一報入れるつもりでしたが『家がない』となると「もしかして、乞食の子か?」と言います。
ところが、それを聞いた慕情は「この子供は嘘をついています」と指摘しました。
驚く謝憐に慕情は説明します。
皇城内にいる家なき子たちはだいたいグループを作っており、慕情の家にもよく食べ物を求めに来ますがこの子は一度も見たことがないそうです。
さらに、この子供の服にはいくつも継ぎ接ぎがあり、針仕事を見るかぎりつい最近大人が縫ったものだそうです。つまり家は貧しいかもしれないが無いわけではなく、帰らないだけだという見立てでした。
謝憐は子供をじっと見つめますが、子供は慕情を睨みつけて一言も返事をしません。
このガキ~~~~!!
自称『誰よりも殿下に誠実な男』じゃなかったのか!!
10歳の子供がこんな嘘を平然と言うの怖くないですか?やっぱり正直不気味ですよ…この子の将来がスパダリだってわかってても怖い…このときの花城さんどうしても怖いです私…。
ほんっとうに謝憐の前でだけ無垢な子供のふりしてるんですもん。それに子供の可愛さを武器にすれば付け入る隙があると確信して行動してるかんじが本当に怖い。
余計なこと言った慕情のことめちゃくちゃ睨みつけてるし。せっかく手当してくれたのにもうこれで花城の慕情に対する好感度はゼロを超えてマイナスになってしまいました。根本的に性格合わなそうですもんねこのふたり。
でも、花城の中では好感度が下がっても私の中では上がってますよ。乞食の子供たちの面倒見てるんだ…と思って。
14歳の頃は生活カツカツすぎて多分他の子供たちの面倒まで見る余裕なかったと思いますが、今は他人に食べ物を恵んであげられるくらいには収入を得られるようになったんだなと思って感動を覚えました。それでも決して高収入ではなさそうですが、自分たちが食べても余るものがあれば他の貧しい子たちに分け与えようという発想があの慕情から出てくるなんて…どんな顔でどんな言葉を使うんだろう…想像できません……(失礼)
彼も飛昇した人材ですので、そういうところでたくさん徳を積んできたのでしょうね。慕情と風信が飛昇したきっかけも知りたいです。
あと、慕情のお母さんが元々針仕事をしていたという経緯がここで役立つとは思いませんでした。伏線回収早すぎません…?
お母さんの仕事を見ていたから縫い方見て新しいとか大人がやったとか判別できるんですね。
今頃家族はこの子を必死に探しているかもしれないと慕情が言うと、家に戻されるかもしれないと恐れた子供は「ち、違う!誰もいない!」と言って両手を広げて謝憐にしがみつこうとします。
そのとき、不意に「おいチビ!何してるんだ!相手は太子殿下だぞ!わかるか?簡単に触っちゃいけないんだ!」と言う声が響きました。街の騒ぎを収めて戚容を皇宮に押し返してきた風信が戻って来たのです。やっぱり仕事ができる男。
風信の言葉にびくっと反応した子供は手を引っ込めたものの、謝憐を見つめる大きな瞳からは今にも涙がこぼれそうでした。
「家で喧嘩して追い出されたんだ。ずっと歩いて、どこにも行く当てがないんだ」
あれ?
そういうこと~~~~~~!?
この…このガキ!お茶目なことしやがって!!800年後に同じセリフ吐いて再会する奴があるか!!
なんてロマンチストだよ……骨灰を指輪にして渡すような男がロマンチストじゃないわけもなかった…なんて奴だ…
ちょっと試してみたつもりだったんでしょうか。さすがにそのセリフでは謝憐も気付くことはありませんでしたけど…そもそも800年前に同じ会話をしたことすらもう覚えてないかもしれない。
でもきっと花城は一言一句すべて覚えているのでしょうね。謝憐と話した内容はすべて。
そうか…800年後の花城は、守られるのではなく守ることができるようになった今の自分がもう一度初めから出会ったらどうなるかを試していたのか……
やっぱり好きだ花城…(手のひらくるくる)
子供時代の花城も本当に家出してきたつもりなら、「家がない」という発言ももしかして嘘をついたつもりではなかったのかな。
切に訴える子供の姿にすっかり胸を打たれた謝憐は、ぎゅっと抱きしめて「行くところがないなら、一緒に太蒼山に来なさい。他のことはあとで考えよう」と言います。
…800年後に家出少年リバイバルをした時は菩薺観に誘ってくれましたよね。あのとき花城は「…いいの?」と非常にそわそわした様子でした。あれは家に誘ってくれて嬉しくてたまらないからそわそわしているんだと思っていましたが、今思えば昔と同じように一緒に来ないかと誘ってくれたことが嬉しかったというのもありそうです。
謝憐が子供を拾う気なので仕方なさそうに風信が子供を抱き上げようとすると、子供はぴょんと板車から降りて「自分で歩けるよ」と言います。風信に抱っこされることをあからさまに拒絶したような顔だったそうです。
しかし片足も折れてるはずなので、謝憐が「もう!走らないで!おとなしくしなさい!」と言って抱き上げると、今度は借りてきた猫のようにおとなしく抱かれました。
その様子を見た風信は目を丸くして「こいつ……昨日は俺を蹴飛ばしたくせに、殿下の前ではそんな態度か!完全に相手を選んでるだろう!」と文句を言いました。
おもしろい男~!慕情には誤解でキレられ、戚容の馬鞭には引っ叩かれ、子供には膝を全力で蹴られ……不憫で可哀想で可愛い風信が好きです。
殿下が子供を抱えて歩くと目立つから、先程まで子供を座らせていた板車に乗せて運ぼうと提案する風信。再び謝憐の手から子供を引き離そうとするとまたしても子供は暴れ出します。
「もういいよ、こんなに嫌がってるんだから」と謝憐は言いますが、そこは風信が譲りませんでした。
「ダメです!あなたは太子殿下ですよ?こんな素性の知れない汚れた子を抱えているのを見られたらどんなことを言われるかわかりません。それにこの子を抱えたまま山を登るだなんてあなたがしんどいでしょう」
その言葉を聞くと子供は再び暴れるのを止めました。
「殿下が困る」系のワードが出てくるとピタッとやめる動きはこれで3〜4回目でしょうか。結構強引に謝憐にしがみつく割にはそこは聞き分けいいんですよね。
でも謝憐は子供を抱えたまま山登るくらいなんてことないと思うんですよね…だって50kgくらいある衣装を着て3時間ノンストップで演舞ができる人ですよ…?小さくて痩せ細った子供を抱えて山登るくらい何もつらくなさそうに思えます。
子供を板車に乗せた風信は慕情に向かって「おい!」と声を張り上げます。慕情は瞬時に警戒する様子を見せました。
子供の件で流れていましたが、3人はここで自分たちがぎこちない状態だったことをようやく思い出しました。
また揉め始めてしまうのではないかと焦る謝憐でしたが、風信がやや不器用に話し出します。
「言っておくが、俺は陰で嫌味を言うような奴じゃない。文句があるなら面と向かって言う。それに、無駄に深読みして殿下と険悪になるな!殿下はお前が拗ねてるんじゃないかと心配して一生懸命お前を探し回ったんだぞ。とにかく今日の件は、俺が悪かったってことだ!」
最後のセリフに吹き出した謝憐は「何それ、わけがわからない!」と笑い出しました。
不器用だけど超いい奴じゃん・・・
風信は自分が慕情に嫌われることは別に構わないのでしょうね。なんなら自分も苦手意識持ってるし。
それでも謝憐といっしょにこんな場所までわざわざ探しに来てくれたのは、慕情が謝憐に対して何か誤解してることだけは断じて違うと伝えるためだったんだ……漢(おとこ)すぎるよ風信……優柔不断なくせにこういうところはめちゃくちゃ漢(おとこ)なの何……巨陽将軍かっこいい…
慕情は「別に拗ねてなんかない」と睨みつけます。
風信は「じゃあなんで急にいなくなったんだ?」と問い詰めました。彼氏彼女の喧嘩みたいになってきたな。
しばらく黙っていた慕情でしたが、しぶしぶ「…あの耳飾りは、多分街で落としたはずだ。それを探しに山を下りたが見つからなかった。…後でまた探してみる」と答えました。
謝憐は「見つからなくても仕方ない」と言おうとしたものの、慕情がそれほど探してくれてるのに無関心な態度を見せるべきではないと考え改めました。
そして彼の肩を軽く叩きながら「私も街で落としたんだと思う。でもそれなら尚更もう見つからないさ、あれだけ人が多かったんだから。それならむしろ貧しい人が拾ってくれたらいいなと思うんだ。私が持っているよりきっと役に立つ。だからこの話は、これでおしまいにしよう」と言いました。
最後に風信に気付かれないよう声を潜めて「私は本当に誰にも話してない。信じてくれ」と言うと、慕情の表情が少し和らぎました。
耳飾りを失くしたのは謝憐の責任だし、自分の過失になるわけじゃないのに山を下りてまで探してくれる慕情。
そういうところは800年後も変わってませんよね。毎度わざわざ扶揺を派遣してくれているのはやっぱり謝憐のことを放っておけないからでしょうし。
一方その頃、風信は勤勉な黒牛のように荷車を引き始めていました。
最初は「私はこのガキを乗せて山まで引っ張るなんてこと絶対にしないからな!」と言っていた慕情も、この風信の姿を見ると少し呆れたように溜め息をついて結局一緒に車を引くことにしました。
…すごく地味ではありますが、ここの文面も800年後に繋がっているような部分がありました。与君山で鬼花婿事件を解決し、花嫁たちの遺体と死体吊るしの森にぶら下げられていた男たちの遺体を片付けるときの記述です。
ふたりはいつだって殿下のためならば牛にも馬にもなって働いてきたのですね。
太蒼山を登る頃には夕焼けがまるで燃える炎のように山々を赤く染め、楓の紅い葉が山道を覆い尽くしていました。
ふたりも引いているんだからいいよね!と遠慮なく自分も板車に乗って子供を膝に乗せる謝憐。板車はゆっくりと山道を登っていきます。
彼は“太子殿下”ですからね。そりゃ侍従に車を引かせて堂々と座るのは何も悪いことではないんですけど、普段そうでもないくせにこういう時は“太子殿下”という立場をちゃっかり利用してて笑いました。
あと、またしてもどこかで見たことあるような光景ですよね。
800年後の中元節、花城と出会った時もこんな風に燃えるような赤い夕陽の中で紅い楓が待っていました。そしてあの時も車に乗っています。
風信と慕情は牛役だった。
今と昔の違いは車を引いているのが牛か人かです。リバイバルするにしても彼らの立場を800年後は牛が担うようになったのあまりにおもしろすぎます。どんな皮肉ですか。
謝憐は子供の絡まった髪をほぐしながら「小さなおともだち、君の名前をまだ聞いてなかったよね。なんていうの?」と優しく問いかけました。
子供は話しかけられて恥ずかしそうにしながらも、やはり片方の目は謝憐を見つめています。そして「僕は、名前がない」と答えました。
本当か?ちょっといったん慕情先生のジャッジ入れてほしいんですけど…。
「お母さんが名前をつけてくれなかったの?」
「お母さんは居なくなったんだ」
「じゃあ…お母さんは昔、なんと呼んでいたの?」
「…紅紅児って………」
「その小名、とても可愛いね!」
とりあえずこの話を信じるとして。
『花城』という名前は鬼になった後についた名前です。つまり生前は違う名前だったということになりますが、そもそも花城には本当の名前がなかったということになるんですね。『紅紅児』はあだ名なので。
そんな可愛いあだ名つけるなら正式な名前もつけてあげたらよかったのに…「お母さんは居なくなった」という非常に曖昧な表現も気になりますよね。家を出て行ったということなのか、亡くなったということなのか、なんなのか。具体的にいつから居なくなったのかも現時点では不明です。
子供の身なりは汚れた服だけど新しい継ぎ接ぎがあるということなので、もしお母さんがもっと昔から居なくなったのだとしたらその継ぎ接ぎは誰が縫ってくれたものなの?という話になってきますし、縫ってくれたのがお母さんだとしたらつい最近までは居たということにもなります。
このへんは詳細が今後明かされるのかわかりませんが、とりあえず現時点では『お母さんは居なくなった』『正式な名前はなく、居なくなった母からは紅紅児という呼び方をされていた』という情報しかわかりませんでした。
家庭環境が複雑なのかもしれません。
今回はここまでにします。
ふとYouTubeのおすすめにブラックジャックが出てきまして、テーマが『人面瘡』でした。
天官賜福の『人面疫』とは少し違いますが、患部が人の顔のように腫れあがって喋り出すという似た設定もあったのでつい見てしまいました。
期間限定配信なので、一応リンク貼っておきますね。少し怖いかんじの演出がなくもないので視聴する方はご注意ください。