天官賜福⑭◆(師青玄と鬼市へ)魔翻訳した感想と考察
今回は31~32章あたりについて触れていきます。
過去に投稿した天官賜福感想のタイトルをすべて修正しました。
これまでタイトルに章数を入れていたのですが、章の途中で区切って次回に持ち越すこともありますので代わりに物語のどの部分なのかを入れてみることにしたんですが、どうでしょう?こちらの方がわかりやすいといいな!
君吾に生意気かまして和やかな空気にした謝憐。
「重要な話がある」と言われたのでそのまま神武殿の裏まで案内されます。神武殿の表と裏は壁画で区切られており、裏の壁画にはこの世界の地図のようなものが描かれていて、そこにはまるで星のように無数の明珠がキラキラと光り輝いています。それらはすべて人間界にある神武殿の位置でした。
地図上にはほぼ均等に珠が散りばめられているので世界中に神武殿がたくさんあることがわかります。
君吾は地図の一部を示しながら「7日前、この山奥で突然空高く火の龍が燃え上がり、2炷香(線香2本分が燃え尽きるまでの時間)続いてから消えた」と説明を始めました。
その火の龍とは神官による術で『火龍啸天の法』といいます。殺傷力が非常に高い術ですが、7日前にこの術が使われた際には被害者が誰も出ていないそうです。
とすれば、この大変目立つ術を使う目的は何者かを傷つけるためではなく、居場所を知らせ助けを求めている他ありません。これほど高難易度かつ危険な術を使える者はそう居ないので神官としても能力の高い者が使ったであろうことが予想されました。
火の龍が上がった場所には非常に大きな鬼の巣窟があります。『鬼市』という場所です。
鬼市は古くから鬼界で最も繁栄しており人界との間に位置します。一見繁華街と歓楽街が合わさったような場所で、鬼たちが集まって取引を行ったり、修行を積んだ道士が情報収集のために足を踏み入れることもあれば、天界の神官たちまでも好奇心や秘密の目的で行くことがあります。表では鬼市を否定しているのに裏ではこっそり遊びに行っているということですね。君吾は黙認している様子。
時には何も知らない人間が間違って入り込み生きたまま鬼に食べられてしまうこともあるんだとか。
謝憐も鬼市のことは噂で聞いたことがあったので一度行ってみたいと思ってはいましたが、入口が見つけられず実際に行ったことはなかったそうです。
誰でもパッと行けるわけではなく秘密のルートがあるんですかね。何も知らずうっかり迷い込んでしまった人間はある意味ラッキーということです。食べられなけばの話ですが。
天界と鬼界はなるべく互いに干渉しないことが暗黙のルールです。鬼市の主は非常に強気な性格なので証拠がなければ強引に領地へ踏み込んで調査することができないため、秘密裏にこっそりと調査したいという考えから君吾は謝憐にその任務を与えたいそうです。
なんで?
正直めちゃくちゃ目立ちますよこの太子殿下。なんせ三界の笑い者ですからね。悪い意味で君吾と同じくらい知名度が高いことをお忘れですか?
死にかけの道士が!と鬼に罵られるのも無理ないほど上から下まで真っ白の道衣で死に装束みたいになってるし、悪運パワーでお騒がせトラブルメーカーだし、あんな性格だからあれこれ自分から首突っ込みに行っちゃいますよ。潜入捜査なんて適任とは思えません。
謝憐がそういう人だって君吾は絶対よーくわかってるはずなのになんでその人選になったのか不思議でしょうがないです。
しかもその鬼市の主は花城でした。ちなみにこの事件が起きた7日前というのはちょうど花城が菩薺観を去ったタイミングらしいです。
火龍啸天の法を使うほどのピンチに誰かが陥っているという時点で謝憐は放っておけない気持ちになっていましたが、そのピンチを作った原因が花城かもしれないとなればそれこそ謝憐に行かない選択肢はなくなります。
君吾は謝憐が花城と仲良いので行かせるべきかやめるべきか悩んでいる素振りでしたけど、本当は狙ったんじゃないのぉ?ってちょっと疑ってます私。
花城と仲違いでもさせたいんだろうか。第一武神の立場的にはそりゃそうかと思いますけども…。
花城について「道中おもしろい子に出会っただけで誓ってやましいことはありません」と言った謝憐に「本当か?まぁ信じてやろう」って絶対本心じゃない返答してたし、「お前がどんな友人を作ろうが私が口を挟むべきではない。だがお前は騙されやすい。花城には気をつけろ」とか言ってたもんめちゃめちゃ口挟んでるじゃん。
お前は騙されやすいって言われたことに関しては「私を世間知らずのお姫様みたいに言わないでください!」って顔を赤くして言い返してました。アニメ版だと苦笑い程度で顔色は普通だったんですけどね。謝憐は原作の方が喜怒哀楽の感情が濃いようです。
「花城には気をつけろ」と言われたことにだけは返答してませんでした。従順なフリをして適当に「はい」って言うこともできたけどこれだけは「はい」と言いたくなかったんですって。恋ですね。
湾刀厄命は今の三界で最も邪悪な兵器だから絶対に触れてはならないし、厄命に傷を付けられるとどんなことになってしまうかわからないから気を付けるようにと注意をされても「彼は私を傷付けませんよ」と口走ってしまう謝憐。
これには君吾も黙ってじっと視線を送ったので「もちろん気を付けます!」と慌てて言い直しました。
鬼市へ出発するにあたって兵器や法具は要らないので、代わりに法力を貸してくれる余裕があって性格が穏やかな神官をひとり貸してもらえないかと頼む謝憐。
そうですね。
風信と慕情以外で、という意味です。
「彼らもああ見えて昔は穏やかだったんですよ!」とフォローしてましたけども。南風も扶揺も頑張ったんだけどな…クビですかそうですか……。
鬼市は花城の巣なので特に血雨探花に対してバチバチしてしまう風信と慕情は確かに『穏やかな話し合い』はできないでしょうから、理に適っているとは思います。
ここで君吾は、実は風信が自ら進んで霊文に頼み謝憐が南陽宮修繕のための888万功徳を返済しなくていいようにしてくれたことを教えます。このことは誰にも言わないようにとも頼み込んでいたそうです。
ナイスフォローすぎる君吾。風信に感謝するように言ってくれました。
謝憐は世の中の『誰にも言わないで』は無理なんだなと痛感しながら「風信が私に知られたくないのなら、私も知らないふりをしようかな…」と複雑な気持ちで答えました。
謝憐が返済しないとなると風信が何も悪くないのに全額負担することになるので、修繕費自体がなくなるわけではないからちょっと後ろめたい気持ちのようです。風信が何も悪くないのに不憫な目に遭うのはいつものことなんですけどね。そういう星のもとに生まれた人っていますよね。
結局鬼市への同行は師青玄に頼むことになりました。青玄は性格が明るく活発で人望も厚く、人付き合いも上手だし法力も強い。なにより謝憐のことを気に入ってくれているそうなのできっと仲良くやれるだろうとのことです。青玄には君吾から連絡しておくから謝憐は仙楽宮で待つようにと言われます。
あれ、謝憐は天界に宮殿を持っていないから神武衛に襲われたんじゃなかったでしたっけ?と思ったら、「毎度巡回の兵士に止められないようにな」と君吾が建ててくれたそうです。
パパ活だーーーー!!
前にも南風に法力借りておいて返す気がないみたいな記述ありましたよね。やっぱり謝憐はパパ活太子でした。借金返してもらったり家建ててもらったり、やってることがパパ活なのよ…それだけ愛されているということだしいずれも謝憐が頼んでやってもらったことではないけどさぁ!
魔性ですよまったく。こんなによくしてもらってるのになんの見返りもないんだから彼らには。挨拶すらされない。
仙楽宮は謝憐が800年前初めて飛昇した時に建ててもらったものとほぼ同じような外装と内装に建ててくれたようです。初飛昇時の謝憐は『小君吾』と呼ばれていたほど信徒がたくさんいて有望な神官であり大金持ちだったので、その時と同じように建てられたということは高額で立派な宮殿ということ。仙京の中心にあって神武殿と同じ通りにあることから土地も一等地だと思われます。
今の立場では身に余りすぎる建造物なので謝憐はあまり喜べず、こんなものを建てるくらいなら南陽宮の修繕費に充ててくれたらよかったのに…と思っていたので中には入らず外で青玄を待つことにしました。
謝憐が白い道衣の女性を待っていると、前方から現れたのは神武殿で裴茗とバチバチしてた白い道衣の男性でした。風師こと【師青玄】です。
ここでようやく風師は男性だということを知った謝憐。女性姿の時と変わらずお喋りで明るく元気な彼を見ると、天界にもこんな人がいたんだなぁと少し心が軽くなったようです。
早速ふたりで雲を抜け人界へ降り立ち、夜になるまでお喋りをしながら時間を潰します。
青玄が半月関で会ったとき女性の姿をしていた理由はふたつ。
ひとつは「見た目が良いから」です。彼は今でいう美容男子なので肌が白く美しい自分が大好き。女性の姿になればまたさらに美しい!ということでした。つまり趣味です。
もうひとつは「女性姿の方が法力が強い」ということ。これには特殊な理由があります。
風師こと師青玄と水師こと師無渡は実の兄弟であり、兄の無渡が飛昇した数年後に弟の青玄が飛昇しました。そのことから水師と風師がいっしょに祀られている宮観も多いのですが、男ふたりじゃなんだか味気ないよなぁ…と人間たちが勝手に風師の神像を女性の姿に彫ってしまうことが増えたそうです。
すると風師は女性だと信じてしまう者も増え「風師娘娘、お願いします」と祈られるようになったことから、女性姿の方が法力を得られるようになったとのこと。
青玄は兄といっしょに自分たちについて書かれている人界の伝説や巻物を好奇心で読んでみたこともあったそうですが、兄と妹にされていたり恋人にされていたり夫婦にされていたことまであったのでふたりで鳥肌が立ったとか。
明光殿も裴茗と裴宿で男ふたりですが、裴宿が女にされたという話は聞かないですね。
そもそも飛昇することは数万人にひとりいるかいないかのレベルなのでただでさえ狭き門であることから、無渡と青玄、裴茗と裴宿のように同じ血筋の者が飛昇するのは極めて稀な例だそうです。
でもそう考えると仙楽組ってすごくないですか?血を分けてないけど同じ時代にいっしょに生きてきた3人がこぞって飛昇するなんてそれこそ稀だと思います。
神の性別を勝手にいじられてしまった被害者はもうひとりいます。霊文です。青玄いわく文神の世界は「怖い」そうで、男尊女卑の風潮が強いみたいですね。
霊文は冷酷な仕事の鬼なので自分自身のことも限界まで酷使しますが、最も忙しい時期は霊文殿で泡を吹いて倒れる者もおりそれを見た新人が震えながら仕事を引き継ぐそうです。しかしそこまでしても人々は「女は美貌や若さを守るのが普通だ!それ以外のことに期待などできない!」という考えなので、霊文殿の香火はなかなか増えませんでした。
そこで霊文殿の神官たちは一斉に霊文の神像を男の姿に変えてみたところ、途端に香火が盛んになり人々は手のひらを返して「霊文殿は霊験あらたかだ!!」と称賛するようになりました。
そのせいで霊文は人々の夢に現れたり神の兆しを見せるときには、女性の姿では霊文だと認識してもらえないので仕方なく男性の姿になるしかなかったんですって。霊文の衣が黒くて地味目なのはすぐ男性になれるからかもしれないですね。
ていうか神像を勝手に変えたのが霊文殿の神官だったとは、飼い犬に手を噛まれるってこういうことでしょうか。このままでは仕事に殺されると思ったんだろうなぁ。倒れるまで頑張ったところで給与も賞与も上がらないなんてそりゃ耐えられません。
結果的に香火が莫大に増えて今じゃ天界一の文神にまで昇りつめたので、霊文も女性姿の神像に戻すわけにいかなくなったんだと思います。
このような理由から霊文は【三毒瘤】のひとりに数えられているそうです。
三毒瘤とは悪い意味で天界の金・色・権力の代表3名といわれてる不名誉なあだ名のことです。ちなみに3人は仲が良いらしい。
色の裴茗は言わずもがな。
権力の霊文は女性が天界トップの文神になるなんて裏で何かしているに違いない!と噂されているからだそうです。
金の師無渡に関しては、水横天といわれる理由を少年三郎初登場時に牛車の上で説明してくれたことがありました。
第32章の時点で師無渡は未登場なため私もまだ彼の事をよく知りませんが、水横天なんて呼ばれたり青玄が兄の名前を出されるとちょっとだけ怖がることなどから、無渡はもしかすると気性荒めな性格なのかなと予想しています。
青玄は無渡に怒られることが怖いだけなので別に仲が悪いわけではなさそうです。むしろふたりで仲良く自分たちに関する巻物読んだりしてますし。
水師がお金持ちなのは半ば強引に奉納させているからなんですね。水師が富豪だから弟の風師もあんなに気前よく功徳を他の神官たちにバラ撒いたりできるのだろうなと謝憐は畏敬の念すら抱いたようでした。
人々は自分の信じたいものしか信じないから、真実はどうであれ神様の性別すらも無理やり捻じ曲げてしまうものなんだなぁ…と謝憐が考えているうちにも、青玄はいつのまにか再び女性の姿に変身していました。鬼市で姿を隠すにあたって女性は陰の気が強いから隠れやすいんだそうです。
陰の気っていうのはおそらく陰陽思想のことです。
中国では男性は陽の気、女性は陰の気が強いといわれていて、陰陽はどちらも必要不可欠であり互いに依存し合いながら調和を保つといわれているそうです。調和が取れれば心身のバランスが取れるみたいなことだと思います。もしや裴茗の強さの秘訣ってこれか?
与君山で賞金稼ぎの男性たちが花嫁の死体に近付こうとした際も、謝憐が「君たちは陽気が強すぎるんだ!死体が陽気を吸い込んで厄介なことになる!」と止めていたシーンがありましたね。
かといって陽は男性だけ、陰は女性だけということではないようです。どちらの性質も持ち合わせているけど男性の場合は陽の方が強い傾向にあって女性なら陰が強い傾向にある。ということらしい。
前に『仙楽国では雌雄同体が美』とされていたという記述があった際に、私が「中華ファンタジー系って雌雄同体が強いみたいなストーリーよく見るよね~」って話をしたんですが、たぶんそれがこの陰陽思想というやつだったんだと思います。
話を戻します。
変身するための法力は貸すからいっしょに女装しようよ!と青玄に誘われること数十回目。誰か別の人が彼の女装に対する熱意を受け止めてくれないだろうかと思い「この任務はふたりだけじゃ手が足りない気がします。近くに助けてくれる神官はいないでしょうか?」と聞いてみると「いるにはいるけど、君にとってどうかなって感じ…」と言いにくそうにする青玄。
どうやらこのあたりに地盤があるのは郎千秋だけのようです。
郎千秋こと泰華将軍が守護する領域は東方なので、つまり鬼市も東にあるってことでしょうか?
仙楽国は永安国に滅ぼされているので謝憐は郎千秋に対しモヤモヤしてしまうのではないかと青玄は心配してくれているようです。
謝憐の肩を抱きながら「でも千秋は本当にいい奴なんだよ」と言う青玄に「わかっているよ」と答える謝憐。
青玄が郎千秋を「本当にいい奴」と言うことには理由がありました。
遥か昔に仙楽国が滅びたとき、旧王城には何千何万もの亡霊が溢れて怨念が空に広がり黒い雲となって覆っており、旧仙楽国は死の街と化していました。
郎千秋は永安国の太子として12歳の時から旧仙楽国の怨霊たちを成仏させようと試みて、ついに20歳の頃に成功したことで徳を積み飛昇したのでした。
旧仙楽国は永安国に敗れたことで永安国領になったので、仙楽人の怨霊を成仏させることは太子である自分の使命だと思ったのかもしれないですね。
でも仙楽国が滅んでから郎千秋がこの世に誕生するまで500年くらいかかってると思うんですよ。つまり500年もの間、旧仙楽国は死の街のまま放置されていたということですよね…。悲しい話。
謝憐も彼に会って話してみたいと言うので、青玄はこれが過去の恩怨を解くいい機会になるかもしれないと喜び郎千秋を呼んでくれることになりました。
師青玄ていい奴だよな!!彼の人望が厚い理由がわかります。
郎千秋とはあまり目立たないように鬼市の中でも特に賑やかな場所で合流することになりました。
夜が深まり、ふたりは荒れた郊外へ着きました。
広い墓地があるのでそこから出てきた鬼の群れの後ろをちゃっかり着いて歩いて鬼市まで連れて行ってもらおうという作戦です。
墓から出てきたのは年齢も美醜も様々な白装束の女鬼たちでした。彼女たちはみんなで鬼市へ遊びに行くようなので、作戦通りに後ろに着いて歩きます。
女鬼たちのお目当ては鬼市で顔を整えてもらうことだそうです。話を聞く限りでは鬼のエステみたいな場所があって、店で死体油とやらを塗ってもらうと顔や体の腐敗が遅れるんだとか。前回行った店はハズレだったので「10年は腐らない」と言われたのに1年も持たなかったとのこと。
女鬼たちのガールズトークを聞いていると「城主様」というワードが出てきました。花城のことです。
鬼市は花城の巣ですが花城が現れることは滅多にないそうですね。現れたとしてもいろんな偽の皮を使って来ると。
偽の皮が美しいものしかないというのは顔面コンプレックスで己のルックスにこだわる花城らしいです。モンハンみたいな自由にキャラメイクができるゲームしてても美人なキャラクターしか作らなそう。やたら顎伸ばしてみたり顔の色を緑にしてみたりする遊びは絶対しないんだろうな…。
このまま鬼市までバレずに後ろをついていきたかったふたりですが、女鬼のひとりが気付いてしまい全員に見られます。
自分たちの墓にはいなかったはずだし前にも見たことがない顔だけどどこから来たの?と疑われたので「私たちは遠くの墓から鬼市へ行くためにはるばる来たんです!」と誤魔化します。鬼のふりをすることにしたようです。
ものすごくじっと見られたので鬼ではないことがバレているのか不安になるふたりですが、しばらくするとじっと見ていた女鬼が、
「このお嬢さん…顔の手入れがとても良くできているわ!」
「そうね、全然腐ってないじゃない!」
「どこで縫ったの?いいお店を紹介して!」
と、皆こぞって青玄(女性姿)に詰め寄りました。謝憐と青玄は目を合わせ力強く頷き、バレていないことを確信します。
青玄は「私も自分の顔がとてもいいと思うわ!」とか言ってました。謙遜せず自分を愛しているとこ結構好きですよ。
ていうかバレないものなんですね。アニメ版で見たかぎりでは【人】【鬼】【神官】は結構見た目に違いがあるので隠し通すのは難しそうに思うのですが、バレないみたいです…。
そのまま女鬼たちに話を合わせているといつの間にやら鬼市へ到着。
果てしなく続く長い通りの両側にはさまざまな露店が広がりとても賑わっています。露店といっても【鬼市】ですのでたこ焼きやクレープが売っているわけではありません。
大きな骨の棒で眼球がたくさん入ったスープを混ぜていたり、大柄な男が小鬼を掴み上げて口から火を噴きかける芸をしていたり、目のない画家が腐った死体の似顔絵を描いていたり、狂ったように空から金をばら撒いている者もいたり。
肉屋には人間が吊るされ老若男女で値段が変わるようで、店主は次から次へと人間の脚を大きな包丁で切って捌いています。肉屋の店主は豚の姿をした鬼でした。なかなかの皮肉ですよね。人間が豚を捌いて食用の豚肉に加工する工程の逆ver.ということです。
道を行き交う人々(人か鬼か神官かもはや不明)はほとんどの人が仮面をつけて顔を隠しています。『内緒で遊びに行く』ことができているのは仮面があるからなんですね。仮面をつけていないのは妖怪のような奇形の鬼たちくらいだそうです。
あと、鬼市は実際のとこ魑魅魍魎いろんな種族が遊びに来ていますがそれでも一応神官が堂々と来るのは好ましくないような空気がありました。天界と鬼界は干渉しないのが暗黙のルールだと君吾も言ってましたし、神官が来たら「俺たちのナワバリに何しに来やがった!?」ってヘイトを買うようです。人の場合は捕まってスープや肉にされちゃうから、そういう意味でも皆仮面をつけて身分を隠しているんだろうなと思います。
ならば謝憐たちも仮面をつけていないと悪目立ちするのでは…?と思うのですが彼らが仮面をつける様子はまったくありませんでした。
見慣れないものだらけでキョロキョロしながら歩いていた謝憐はいつの間にか青玄を見失い、はぐれてしまいます。
相変わらず赤ちゃんですねこの太子殿下。落ちたものは拾って食べちゃうし、気になったものは頭で考えるより先に手が出て触っちゃうし、ちょっと目を離すと迷子になる。(←New)
鬼市は法力が制御されており通霊陣を使うことができません。
もしや青玄はあの女鬼たちに『顔を整えられる』のではないかと心配になり探しに行こうとする謝憐ですが、突然ひとりの女鬼に腕を引かれました。
女鬼は謝憐を見てくすくす笑いながら「なんて可愛らしい顔をしているのかしら。こんなに美しい姿でどうしてこんなところへ来ちゃったのぉ?」と媚びた声で言います。
女鬼は露出度の高い服を着ており化粧も派手で厚塗りですが、パウダーが均等に塗られていないせいで喋るたびに粉がぽろぽろと落ちていました。胸元は不自然に膨らんでいたそうなので多分なにか詰めてあるんだと思います。
謝憐が女鬼の手を外しながら「お嬢さん、どうかご遠慮いただけませんか…」と言うと女鬼は一瞬固まってから「今、私をなんと呼んだ?お嬢さん…?あっはははは!この時代にまだ私をそんな風に呼ぶ人がいるだなんて可笑しすぎるわ!」と大笑いしました。
この作品は天官と鬼が何百年も存在しているせいで若さの基準がわかりにくいですが、800年以上生きている謝憐は天界の中でも年長者扱いなのに対し、200年ほど生きている裴宿は若者扱いでした。つまり「お嬢さん」と呼ばれるのはせいぜい300歳くらいまでなのかな?と思います。
この女鬼は見た目はさほど老いていませんが化粧が厚すぎるせいで老けて見える上に、周りの鬼たちから「年老いて醜い」などと言われていることから少なく見積もっても500年以上は生きているんじゃないかなぁと思います。
見た目年齢はみんなさほど変わらないのにどうやって若さを見分けられているんでしょうね?
今回はここまでにします。
ちょうど33章に入ったあたりなので次回は33章からです。