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大谷スキャンダルに潜む最側近の殉教者とカルト日本史

(前編)


4:裏切りで守ろうとした神聖な絆

大谷翔平の元通訳・水原一平が起こした違法賭博スキャンダルについて2シリーズで論考している。

私はその根源に、カルト的な文化があると考えている。アメリカの違法ブックメーカー、日本のマスコミによる大谷現象、そして大谷に献身的な水原の姿にはすべてカルト的な色合いがある。

水原一平の立場で見ると、私はこのスキャンダルが次の6つの段階を踏んだと推測する。

1:日本のマスコミによる大谷の過熱報道の影響を受け、次第に大谷が同僚や
 友人の枠を超えた特別な存在になる
2:献身的になるあまり私生活でも業務が広がるが、大谷には費用をほとんど
 求めず出費がかさむ(大谷からの援助を断った可能性もある)
3:金欠で大谷をサポートできなくなることを避けるため、大谷の資産を狙う
 違法ブックメーカーの儲け話に乗ってしまう
4:借金がどんどんふくらむが、大谷との絆が壊れるのを恐れ相談できない。
5:不払いからマフィアに命を狙われるようになったため大谷の口座から横領
 したお金で返済する
6:マスコミに暴露されても通訳の立場を利用して大谷と球団をだますが、
 すぐにバレて解雇される

一連の水原の行動のポイントにあるのは
大谷との仲を保とうとする強い願望
または異様な執着心である。

先述したよう、彼は大谷との絆が壊れることを、自らの破産や身の危険よりも恐れていた可能性がある。どれだけ危機的な状況に陥っても、大谷に1つも相談しなかったことがそれを暗に物語っている。

5つ目の横領は大谷へのありえない裏切り行為であり大きく飛躍しているように見える。しかしバレなければ大谷との絆を保つことができる。しかも借金の返済ができれば、身の安全が保障され今後も一緒に仕事ができる。

つまり、この極限状況においては、水原にとって横領という裏切り行為が皮肉にも大谷との絆をつなぐ唯一の手段だったと言えるのだ。


5:カルト誕生への5つのステップ

水原一平は大谷との絆を大切にするあまり、それに異様な執着心を見せたと言える。それはカルト的な献身とも重なる。私はその最大の要因として、日本のマスコミによる大谷カルト現象を見る。

大谷翔平は3年ほど前からカルト宗教化していった。そんなバカなと思う人も多いだろう。だが、大谷ブームにはカルト誕生の基本的な要素がそろっている。

1:カルト文化的な土壌 2:旧教祖の打破 
3:神話の形成 4:信仰ルーティン 5:言論弾圧

日本には大昔から『カルト文化的な土壌』がある。

武将と天皇が権力をシェアした長い日本史が示すのは、軍隊が皇族を祭り上げ、その威光を大義名分にして横暴を続けていたということだ。

これは神や教祖という絶対的な存在を味方につけて、脅迫や詐欺といった犯罪行為を正当化するカルト的な手法と一致する。

150年前の明治維新、80年前のアジア太平洋戦争も同様、この戦争に敗れたことで日本では『旧教祖の打破』が起こった。日本カルトの教祖は天皇からアメリカにスイッチして今に至る。

とにかくアメリカに逆らわず、ついていけばいいというカルト・アメリカの政治的な空気は日本の文化全体に今も色濃く残っている。

が、格差拡大や気候危機を起こしたことで、アメリカが世界のリーダーから落ちた今、その潮流を大きく後押しするスターが現れた。

それが大谷翔平だ。

アメリカ発祥のベースボールで、アメリカ人を投打の二刀流で圧倒する存在が出てきたのだ。そこで『旧教祖の打破』が果たされた。

次にマスコミは大谷翔平を使って『神話の形成』を始める。

アジア太平洋戦争前に天皇を祭り上げた新聞・ラジオと同じだ。MLBという世界最高峰の野球リーグで3年連続二刀流で大成功し、さらに野球世界一を決めるWBCの決勝でアメリカを倒した。

これにより大谷翔平は「世界一の野球選手」「アメリカの野球の神様ベーブ・ルースを超える存在」とも言われ、アスリートの枠を超えて神格化されてゆく。

だがその評価は実体とかけ離れている。

大谷の記録はすべて二刀流という特殊な部類で成し遂げたものだ。彼自身でさえ、偉業を達成するたびに「今までやろうとした人がいなかっただけだ」とこぼす事もあった。

世界中のプロリーグで、野球の二刀流に挑む人がほぼいないのは身体がもたないからだ。大谷の大活躍には多くのMLBプレイヤーも絶賛するが、胸の内では選手生命は長くないだろうと思っているだろう。

実際、大谷は30歳を前にすでに二度の大手術(トミー・ジョン手術)を受け、今後の二刀流は不透明だ。

この3年の二刀流の活躍は、間違いなくMLBの歴史に後年まで輝かしく残るものだ。

しかし、3年だけで終わる可能性もある。
もしそうなれば、野茂・イチロー・ダルビッシュのように10年・20年とMLBで活躍した日本人選手と較べても1番の選手にはなれないだろう。

またWBC世界一に関して言えば、あれはチーム全体の勝利であり、大谷抜きでも優勝できた可能性も充分にあるものだった。


6:大谷絶賛の大合唱が招く言論弾圧

『神話の形成』と共に『信仰ルーティン』と『言論弾圧』が出てくる。

経済アナリストの森永卓郎は著書『ザイム真理教』の中で宗教とカルトはプラスとマイナスの説教のどちらを優先するかで分かれると指摘した。宗教は前者、カルトは後者ということだ。

プラスの説教は神に祈れば救われるというものでマイナスは神の教えに背けば地獄に堕ちるというもの。だが私はそこに本質的な違いはないと考える。

プラスの説教でもそれを過度に行えば、そこには同時にマイナスの説教もふくまれることになるからだ。大谷カルト熱狂もまた、その形を取る。

大谷の活躍を朝ニュースで見れば
その日の勉強や仕事が頑張れる

この3年でいつしかこの朝の『信仰ルーティン』が始まり、大谷の試合の観戦は国民的な行事とも言われた。これは「神に祈れば天国に行ける」という宗教のプラスの説教と同じものだ。

このプラスの説教が過度に行われることで、マイナスの説教、つまり『言論弾圧』が出てくる。

誰もが大谷をいかに称えるかで競い合うようにるにつれ、いつしか日本のマスコミから大谷を批判する人が消えた。日本のYouTubeのコメント欄の多くで見られるようなカルト的言論空間が、マスコミのど真ん中に現れたのだ。

去年、大谷がケガでシーズン終盤から離脱したのは明らかに無理をしすぎた自業自得の結果である。だが、日本では彼の出場を必死で止めなかったというトンデモ理由で、エンゼルスの監督が非難された。

より象徴的だったのは今年の大谷の結婚報道である。

彼は結婚相手を「いたって普通の日本人です」と言ったが、その妻は大学時代にユニバーシアードで日本代表にも選ばれたプロバスケ選手だった。それでもマスコミは「普通じゃないだろ」という普通のツッコミをしなかった。

これは欧米のような人権先進国では妻を完全にぶじょくする発言になる。

たとえ有名人の妻が主婦であっても、その有名人は公の場で妻を尊重するのが世界基準のマナーである。大谷のこの『いたって普通』発言には、日本特有の「妻は夫の添え物だ」とする差別意識がはっきりと出ていた。

こうした声が出てこないのは、彼への大いなる称賛合唱によって、いかなる形でも彼を非難してはいけないという言論弾圧が強まるからだ。

これは宗教やカルトのマイナスの説教・タブーに当たる。大谷批判はダメな空気、その暗黙の了解は無言の圧力として明白に人の言論を封じるものだ。

7:そしてすべては忘却のかなたに…

マスコミがカルト的に大谷を祭り上げ、信者を増やそうとするのは単に金のためだ。大谷を広告塔にする巨大スポンサーから好かれるからであり、この点でマスコミは献金アップのためにカルト宗教の布教を担う広報と同じだ

水原一平も日本のマスコミの影響下にあったことは間違いない。もちろん彼はほとんどの時間をアメリカで過ごしているが、世界中の情報がライブでグローバルに飛び交う今、文化上の地域差はほとんどない。

水原はいわば大谷カルト宗教で
教祖に最も近い位置にいた信者
だったと見ることもできる。

水原が違法賭博を始めたのは、ちょうど大谷の二刀流がアメリカで初めて成功した2021年のことだった。大体それくらいから日本のマスコミによる大谷カルト現象も始まっている。

全米と日本を揺るがしたこの一大スキャンダルは、本質的に水原や大谷のせいではないと私は思っている。

それはカルト手法を用いて資産家を陥れるアメリカの闇社会、そして大谷をカルト的に祭り上げて大儲けするマスコミ、引いては長年続く日本のカルト文化的な土壌にある。

それらはいずれも
何らかの手で自らの強欲さを隠しながら
暴力的にまたは抑圧的に庶民から
多くのものを搾取するものである。

カルト的な文化は現代の日本では『推し活』として美化され、庶民の健全な趣味嗜好となっている。だが人生の主役を他人に譲れば、その人のこころは確実に蝕まれてゆくのだ。

そしてカルト的な文化とは無数の信者だけではなく、最終的にはその教祖までも巻き込んで破滅に向かっていくものだ。

アジア太平洋戦争後、戦争責任を背負った天皇は危うく処刑されるところだった。大谷翔平も、騒動後の1週間の沈黙の間には選手生命の危機もささやかれていた。

しかし水原一平との一切の金銭関係を否定したことで、事態は大きく改善した。たとえ水原が野球賭博もしていたという最悪のケースになっても、MLBから永久追放される可能性はほぼない。

そうして最初の報道から2週間が過ぎた今、日本では再び大谷のMLBでの活躍が明るいニュースとして日々報じられるようになった。

マスコミは、まるで国民の頭からできるだけ早くあの記憶を消そうとしているかのようだ。

1年もすれば、実際この全米をも揺るがせたスキャンダルが日本ではなかったかのようになるかもしれない。裁判の末に水原が収監されたとしても、日々流れる地味なニュースの1つとして報じられる可能性もある。

カルト熱狂とはこのように不都合な過去を抹消し、歴史を修正しながら延々と続いてゆくのである。■



前編・パート1はこちら( ↓ )


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