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ドラマ「放課後カルテ」は原作尊重の姿勢を示せるか

放カル・ドラマ化

今年8月、漫画「放課後カルテ」のドラマ化が発表された。この漫画は2011年~2018年に講談社の女性向け雑誌BE・LOVEで連載されていた、小学校の保健室に赴任した超偏屈な校医・牧野が子どもたち、時には周囲の大人も救っていく様子を描く作品だ。

コミックス表紙

私は連載期間中に偶然単行本を目にし、完結まで電子書籍を買って読んでいた。牧野の不器用だけどなんやかんや優しいところや、子どもたち・家族の前向きな未来を想像させてくれるところが好き。
メディア化するとしたら連ドラが向いてそうだな、と当時から思っていた。

ドラマ化決定の告知を受け喜んだのも束の間。
放送局が日本テレビだったのだ。よりによって。

2023年秋に日本テレビで放送されたドラマ「セクシー田中さん」をめぐる原作者側とドラマ側の認識の齟齬・コミュニケーションミスが招いたのは、原作者の自死という最悪の事態。このようなことを引き起こしてしまった局に好きな作品を映像化されるのは正直不安が大きい。



ドラマ制作における指針

7月下旬、日本テレビはセクシー田中さんの一件を受け「日本テレビドラマ制作における指針」を公表した。これには以下のような記載がある。

漫画や小説などを原作として映像化する際には、原作を尊重し、その世界観をより深く理解するよう努めます。その上で、原作者と対面またはオンラインで直接会話するなどし て、丁寧に時間をかけてコミュニケーションを取るよう努め、ドラマ制作にあたっての方向性や具体的な表現手法に関する相互理解を深めます。

「日本テレビドラマ制作における指針」より

今回放送される「放課後カルテ」は、この指針が公表されてから最初に発表・放送される原作があるドラマだ。つまり日テレが言う「原作を尊重」、「世界観をより深く理解」とはどういうことなのか?を示す作品になる、と私は考えている。

原作との相違点

「原作を尊重」し「世界観をより深く理解」することとは、ドラマで原作を再現すること、というわけではないようだ。まずは原作との相違点について触れておきたい。

オリキャラがいる

ドラマの相関図ページには、原作には登場しない人物が何人か掲載されている。中でも特に気になっているのは高野洸さんが演じる沢。

ドラマ版放課後カルテ公式サイト・相関図より

Z世代。原作が連載されていた頃、この言葉はまだなかった……あるいはそこまで浸透していなかったように思う。
原作では登場人物をゆとり世代、氷河期世代などの○○世代でキャラクター付けすることはなかった。彼がZ世代であることは、物語にどのような影響をおよぼすのだろうか。

登場人物の見た目

原作に登場している人物も一部髪型や服装が変わっている。

これは篠谷役が森川葵さんだと公表されたときのポスト。右が原作絵で、左がドラマの写真だ。篠谷はかなり髪型が違う。

子どもたちの髪色や看護師・吉田のナースキャップの有無は倫理的な面やリアリティの関係からやむを得ない変更だと思うが、主要人物はもっと原作に似せてほしかった。再現が難しそうな見た目には見えないんだけどなぁ。

ストーリー・構成に関わりそうな箇所

骨子に大きな違いはなさそうだが、細部が変わっている。原作で篠谷が受け持っているのは5年生だが、ドラマでは6年生になった。
牧野役・松下洸平さんは日テレ系土曜ドラマの宣伝番組で、

限られた半年間の中で牧野先生がどう変わっていくか

日テレ系秋の新ドラマ!見どころ丸わかりSP!
(10月5日放送)より

と発言していた。原作の牧野は1年くらい保健室にいたはず。任期短くなってる?

らしさを感じるところ

一方で、原作の雰囲気を感じるところももちろんある。次にそういった箇所を紹介したい。

ビジュアル面

ポスターやティザービジュアルなどは原作のあたたかいカラーイラストの雰囲気が再現されている。

特にお気に入りなのがポスター。みんな笑顔の中牧野だけ仏頂面なところや冴島姉弟の立ち位置はまさに、といった感じだ。
原作最初期のイラストと同じ配置・ポージングで写真を撮ってそれを公開してくれたり、細部は違っても放課後カルテなんだと思わせてくれる。

松下洸平さんの発言

本作の主人公・牧野を演じる松下洸平さんは、原作読者に寄り添った発言をしてくれているように感じる。中でも共感したのはこの2箇所。

彼は誤解を生んでしまうことも多々あるのですが、そこには信念や、医師としての思いも詰まっているんだと思います

子どもたちが主役でいてほしいドラマです

ドラマ版「放課後カルテ」公式サイト
松下洸平コメント記事より

前者は牧野の、後者は作品の根幹をそれぞれ表現する言葉だと思う。特に後者は作品のすごく大事な部分だと思っているので、このコメントを読み安心した。複数のメディアで「子どもたちが主役」と言ってくれるの、すごくありがたい。

原作側とドラマ側のやりとり

ドラマの世界観形成について、プロデューサーである岩崎秀紀氏はこのようにコメントしていた。

メインキャスト、脚本家、監督、私プロデューサー含めて、スタッフ・キャストが原作の日生マユさんとそれぞれお会いして、キャラクターや世界観の醸成をこれまで行ってきました

日テレ新ドラマ『放課後カルテ』スタッフ・キャストが原作者と対面「漫画の世界観を共有」(マイナビニュース・9月18日配信)より

指針でも示されていた「丁寧に時間をかけてコミュニケーションを取る」様子が垣間見える。また、日生先生のドラマに対するコメントもポジティブなものばかり。双方がお互いを尊重しあっているのが伺える。

さいごに

正直、まだドラマ化に対する不安が消えたとは言えない。これはもう好きな作品が作者の手を離れる以上、仕方のないことだと思う。不安が拭えるとしたら、本編を見た後だろう。

ドラマ化の影響で原作に動きがあった。紙コミックスの重版出来に番外編の掲載。嬉しかったし、メディアの力を感じた。一際驚いたのは牧野たちの下の名前が判明したこと。原作完結時も謎のままだったし、まさかこんな形で公表されるとは思わなかった。

この作品が背負う役割はとても重大だ。原作側・ドラマ側双方にプラスになるような作品になってほしいな、と強く思う。
初回放送は10月12日、21時から。どのような作品になるのか、日テレが「原作を尊重し、世界観を大事にする」姿勢をどう見せるのか見守りたい。


ヘッダー出典

放課後カルテ 1巻表紙
日生マユ/講談社(2012年刊・IBSN:978-4-06-380338-9)