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中澤くん
小学校の時に同じクラスだったちょっとつり目で、髪の毛がくせ毛のネコみたいな顔した中澤くん。
「シャーッ」って感じで笑うし、でもあんまり喋った姿は見たことがない、無口でクールなイメージの中澤くん。
隣の席なったときもあんまり話さなかった。
そんな中澤くんの話。
小学5年生の冬、5時間目がテストだった。確か国語のテストだったと思う。
しっかり読んで、しっかり解いて、みんな真剣集中モードでテストに取り組んでいた。
2人を除いて。
テストが終わって、帰りの支度をしている時先生が「何してるの!ほんとに!」って怒った。一瞬でみんなが先生の方を見る。普通だったら、先生が怒っていたらみんな静かになるだろう。でも、みんなその怒り声を聞いても静かにならなかった。むしろザワついた。
なぜか。
中澤くんの眉毛が繋がっていたからだ…。ふたつあるはずの中澤くんの眉毛が、まるで両津勘吉のようにひとつの眉毛になっていた。
先生は怒っているのか笑っているのか分からない声で、「ほんと、なにしてるのププ」ってまた中澤くんに怒った。中澤くんは話した。それはこうだ。
中澤くんと三木くん(仮名)はテスト中に後ろの席だったことをいい事に、2人で変顔をしてふざけあってたらしい。しかしその変顔がヒートアップして、興奮した中澤くんは油性ペンを手に取り眉毛を繋げてしまったのだ…。
先生はその話を聞いて、さらに怒ろうとした。でも、中澤くんの顔を見て笑ってしまった。私も笑った。みんなも笑っていた。かつてこんなにも和ましい説教はあっただろうか。
「もぉ、笑っちゃうからやめて、早くとってその眉毛ププ」という先生に反省しているのかしていないのか分からない中澤くん。コクりと頷いて水道場に行った。けど直ぐに戻ってきた。なぜなら中澤くんの眉毛は油性ペンで書いたため、水で取れるはずがなかったのだ。ばかだね…。
でもこれじゃあ帰るのが恥ずかしいという中澤くん…。ということで先生が「セロハンテープでベリベリってとる」っていう案を出した。
中澤くんはなるほど!って顔をしたあと、教室に置いてあったセロハンテープを取り出して、自分の眉毛に貼った。油性ペンで書いた部分だけをセロハンテープで貼ればいいのに、全部の眉毛に貼ってしまった中澤くん。そしてその貼ったセロハンテープを指でつまむ中澤くん。みんなが固唾を飲んで見守った。そして!
ベリベリッ
一気にセロハンテープを剥がした!!!!
私もみんなも先生も「おぉ〜」って言った。もはや中澤くんはスターだった。
しかし、思うようには取れなかった。中澤くんの眉毛はひとつのままだった。
中澤くんのセロハンテープには、少しの黒いインクと、少々の毛が張り付いていた。
先生はもう諦めようとひとつ眉毛のままの中澤くんを宥めて、帰りの会を始めた。
その後の中澤くんはずっと下を向いていた。中澤くんは教室から出る時も、帰る時も、ずっと、ずっと下を向いていた。恥ずかしいのか、先生に怒られて悲しかったのか。いつもはクールな中澤くんがあんなマヌケな姿になったんだ。誰も中澤くんに真相を聞くものは居なかった…。
次の日の中澤くんはもう両津勘吉じゃなかった。でも必死に油性ペンの跡を取ったのだろう。中澤くんの眉毛と眉毛の間は、真っ赤っかだった。
それから月日は経ち、最近小学校の頃の同級生と話した。中澤くんの話になった。中澤くん。中澤くんは今何してるんだろうって思ってた。中澤くん。中澤くんは、某有名国立大学生になっていた。正直めちゃくちゃ驚いた。開いた口が塞がらなかった。だって、あの中澤くんじゃん。だって、両津勘吉じゃん。油性ペンで眉毛と眉毛を繋げて、先生に怒られちゃう中澤くんじゃん。それでも頭は良かったんだ…。人間の可能性を知ったよ、中澤くん。中澤くんの見る目が変わったよ。今更だけど。
そんなことを考えてこのnoteをかいていた時、音楽を聴いていた。私はよく、クリープハイプというバンドを聴く。「一つになれないなら、せめて二つだけでいよう」というアルバムがクリープのCDにあるのだが、今中澤くんの話を書き記していたら、「もしかしたらこれ、眉毛のことなんじゃねえか」って思った。思ってしまった。こんなこと中澤くんの出来事がないと思わない。でも思ってしまった。もしかしたら眉毛のことかもしれない。ひとつは難しいから、ふたつの眉毛でいよう。なんだかそんなふうに思えてきた。ひとつ眉毛の中澤くんによって。
たしか中澤くんもクリープハイプ、聴くんだっけ。今度あったら伝えてみようかなあ。