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黒サテン手描きアール・デコ模様旗袍(1930年代)

コレクションについて人前で語ると、ほとんど毎回「どこで買うんですか?」と聞かれる。私のコレクションの大半はネット通販ができる前に集めたものなので、骨董市場とか骨董屋とか、観光客も普通に行くような場所で買いましたよと答えると、どうやら特別なルートでもあると思われてるのか、あてが外れたような顔をされる。
しかも、カネにあかせて手当り次第買いまくるほどふところが豊かじゃないので、財力にまかせてむやみやたらと買い漁る昨今の中国の金持ちコレクターと比べると、私のコレクションは数的にも決して多いほうではない。強いて優位点を挙げるなら、コレクター(=競争相手)がほとんどいなかった1990年代に、今よりずっと安い相場で買ったことくらいだろうか。

アドレナリンが出る音がした

この旗袍もそのうちの一着で、1993年に上海で買った。
当時私は北京に住んでいたけど、北京の骨董市場はむやみに相場が高かったので、ヒマを見つけては上海に出かけ、骨董市場や外国人向け骨董店を巡って出物を探し歩いていた。

当時、延安路と陝西路の交差点に、輸出仕様の薩摩焼がやたらと多い外人向けの国営骨董店があった(今は区画整理に引っかかってなくなった)。布物はほとんど置いてなかったけど、数撃ちゃ当たるで空振りを承知に、その日も足を運んだ。

「解放前の服探してるんだけど…」
ヒマを囲ってるおばちゃん店員に聞くと、意外な答えが帰ってきた。
「あるわよ。ついこの前、映画撮影所からいっぱい引き取ってきたのよ。まだろくに値付けもしてないけど、買うなら見せるわよ」

コレクションがやめられないのは、こういう瞬間があるからだ。

店の奥から引きずられてきたデカいズタ袋が2つ。中には旗袍と上衣がぎっしり詰まっていた。脳内でアドレナリンがちゅーっと出る音がした。袋の底の底までさらって玉石混交の中から「玉」だけを選ぶ贅沢。そして一番の「玉」が、黒サテンにメタリックな顔料で手描きされたこの旗袍だった。

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所変われば品変わる。ここ数年、旗袍の地方差に注目しているので、サポートはブツの購入や資料収集にあてたいなと思っています。