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藍染のエプロンスカート

形から「エプロンスカート」などと呼んでいるが、もともとは中国の農村で作業をする時に着用するスカート型のエプロンだ。私が持っているのは全て江蘇省北部の南通近郊から出たもので、綿花加工場で使われていたらしく綿毛があちこちについていて、取るのにとても苦労した。

素材は手織りの分厚い綿布の藍染。形状は巻きスカートで、エプロンのような前垂れがついている。両サイドにはたっぷりとタックが入り、持つとずしりとした重みを感じる。ウエストベルトの両端にはループがついていて、そこにヒモを通してしばる。伝統的な巻きスカートと全く同じ履き方だ。

本体がエプロンなら前垂れは一体何に使うのだろうと思い聞いたところ、江南の冬は湿度が高くしんしんと冷え込むから、冷えから膝関節を守るためだとのこと。こんな薄い布が役に立つものかと思ったけど、実際に使ってみるとなかなかいい仕事をしてくれるそうだ。

1914年に上海の商務印書館が出した「裁縫教科書」にもこのエプロンの構造が載っているから、少なくとも清末には使われていたことがわかる。「工作圍裙」の名の通り、単体をスカートとして履くのではなく、汚れよけとしてズボンの上から履く。私が履くと裾を引きずりそうに長いのもあるので、大工仕事の男性なども履いたかもしれない。

裁縫教科書(1914)

1990年頃までは履く人がいたという証言があるから、今残っているものはそれ以前に作られたものということになる。私の手元にあるものは、ヒモのしっかりしたつくりからして、結構古いのではないかと思っている。新中国(1949年)以降の比較的新しいものだとしても1950-60年くらい、つまり今から60-70年前のものだろう。

外見の可愛さに加え、手仕事の良さがあちこちに見られるのもこのエプロンの魅力だ。

布からしてすでに手紡ぎの綿糸を手織りし、天然の藍で手染めしている。
丁寧に手縫いされた細かい針目からは、たかが作業着とおろそかにしない心意気が伝わってくる。ミシン縫いはむしろ希少だ。

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ウエストをしばる組紐ももちろん手組み。模様には恐らく色々な寓意があるのだろうけど、私には残念ながらそこまでの見識は今のところない。

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今でももちろん作業着として活用できるし、巻きスカートとして着るのも良い。今の生活にはそのほうが合っているかもしれない。むしろ、たっぷりと藍染の布を使ったスカートなど、現代ではとても贅沢な装いだ。

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タックがたっぷり取られてボリューミーなシルエットだから、トップスはすっきり細身のほうが良いといえば良いけど、意外と何にでも合わせやすい

藍染だから当然色落ちはする。でも使い込むほどにゴワゴワの生地が肌になじみ、着やすくなる。美しく色あせていく過程を楽しむのもよし、ある程度育ったものを受け継いで愛でるのもよし。実際に履くことで、今はもう廃れてしまった古き良き文化を体感してもらいたい。

以下、履き方です。

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前垂れ部分を正面に持ってきて、後ろで交差させてヒモを前に持ってくる


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ヒモの長さに余裕がある時には胴に一巻きして前に持ってくる。余裕がない時には一巻きせず、前で結ぶか後ろ結びにする

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結ぶ

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ウエストベルトを下に折り返してヒモを隠す。これが正式な着方だけど、そのへんはお好みで

所変われば品変わる。ここ数年、旗袍の地方差に注目しているので、サポートはブツの購入や資料収集にあてたいなと思っています。