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N#4 - ライトノベルの時制の取り方カンペキに説明します(「描写視点変移法」)
前書き:
【What: この記事の趣旨説明】
・ライトノベルの時制の取り方についてのまとめ書きです。
・映像コンテンツを言葉で描写+漫画の心理描写手法を組み合わせたイメージで説明。
・文章をパーツに分け、パーツを貼り付けて切り替えながら読者に提示するイメージとすることで、現在形、過去形、完了形の混在をカンペキに説明しました。
・この小説表記方法を勝手に「描写視点変移法」と名付けました(笑)
【Why: 記事の目的】
・自分が初めてライトノベルを書くにあたって、個人的に整理したのが始まり。
・書くために情報収集していく段階で、断片的な情報はあるものの、小説の時制全体を体系的に整理したものがない、と感じ、自分で作っちゃいました。
・自分の小説の表記の根拠として公開することにしました。
・無名の新人なので宣伝にもなるかと思い、無料で公開します。
【Who: 読んで欲しい人】
・ライトノベル執筆初心者(同志)の方々のご参考に
・書籍編集者の方々が、校正の根拠、若手執筆者に育成指導の参考として
・もしかしたら文学研究者の方の参考になるかも(文豪の描写方法の分析など)
【How: 説明方法】
・今回の記事は理論のみで例文なしです。
・次回、自分のライトノベル文を例文として説明する予定です。(2025年2月予定)
(ネタバレ防止のため、連載がある程度進んでからとなります)
ここから本文:
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【0.テンス(時制)整理の考え方】
・この「描写視点変移法」では、小説文を、映画+漫画のコンテンツを文章に置き換えて見せている、という捉え方をする。
・「---る」型と「---た」型が混在する理由は基本的に5つ
(1) 現在のテンスの中に完了形の「---た」型が混在する。
(2) ナレーター(作者)が物語の外から解説するときは過去形
(作者が過去に作った物語を今読者に見てもらっている中で、
始まり、終わり、途中に口をはさんでいるイメージ)だが、
物語の進行に合わせて、現場でカメラとリポーターがリアルタイムで
映像を見せたり解説するのは現在形
※実際のTVの中継レポーターは、事象が起こった直後に言葉で描写するので過去形、完了形で話すのが普通だが、この小説や漫画の実況中継は現在形になる。「オレがこの世界を作って見せている神なのだ」的な感じになるのか?漫画や小説では普通にあることなので、日本人は読み慣れているが。
(3) 一瞬で過去になった出来事を現場で解説するケース
(セリフの直後に誰が言ったのか記述する場合、セリフを発したのが
すでに過去になっているので、リアルタイム中継でも過去形になる)
(4) シーンの始まりと終わりに遠景描写をする場合には過去形の方が自然に受け取れる。
(始まりは、まだナレーターから現場中継に渡していないイメージ。
現場に近すぎると全景は見えない。終わりは現場からナレーターに返し、話を締めてもらうイメージ)
(5) 純粋に過去の回想が混じる
【1.パーツの定義】
・小説コンテンツを以下のパーツのはめ込み組み合わせで構成する、と定義
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・混在は自由。視点を次々に切り替えて繰り出すことでスピード感を出せる。
【2.カテゴリの概要】
① ナレーション1 (シーン説明) - 過去形
・ナレーター(作者)がどういうシーンが始まるのかをシーンの外から解説するイメージ。
・急に小説のシーンの中に読者を放り込みたいときなどは省略しても構わない。
② 実況中継
・物語の進行に合わせて、リアルタイムで中継描写しているイメージ
・中継レポーターが解説するイメージのものと、登場人物の目で見ているものとして記述するケースがある
・基本は現在形のテンスだが、一部、過去形、完了形が使われることがある。(後述)
③ リアルタイム心理描写
・登場人物の心理状態をリアルタイムで文字で可視化しているイメージ
・中継レポーターが本人に成り代わって解説するイメージのものと、本人がそのまま語っているイメージもののがある
・基本は現在形のテンスだが、一部、完了形が使われることがある。(後述)
④ ナレーション2 (情報、状況説明)
・事実を物語の外からナレーター(作者)が口をはさんで解説するイメージ
・基本は過去形、完了形だが、一部、現在形が使われることがある。(後述)
⑤ 過去の回想
・一瞬過去を思い出すケース。完全に過去にタイムスリップして現在進行であるかのように描く場合は、②の実況中継と同じになる。
・基本は過去形だが、一部、現在形が使われることがある。(後述)
⑥ ナレーション3 (結び) - 完了形
・シーンの締めとしてナレーター(作者)が語るイメージ。この後に(つづく)とか(おわり)が出るようなケースと考えてよい。
省略しても構わない。
【② 実況中継詳細】
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基本的に視覚、聴覚、嗅覚の描写。(2bでは一部抽象的な事情説明も混在)
便宜上、視覚に絞って記述する。
2a 全景、ズームアウト
・シーンの始まりや終わりに遠景を解説するケース。①のナレーションの続きともとれるが、すでにセリフや心理描写が始まった後でも遠景の場合は過去形が自然に感じるケースが多い。現場のカメラ、レポーターでは近景しか見えないため、遠景の話はナレーターに返しているイメージか。
2b 近影、事実実況
登場人物に近い位置でレポーターがリアルタイム解説しているイメージ。本人ではないので、客観的な表現になる。その延長線として目に見えない事情、事実の解説もそのまま現在形で続けられることがある。作者に戻すと進行が止まるイメージになるので。読んだ感じ不自然でなければ現在形の方がベターでしょう。
2c 人物視点
登場人物の目で見ているかのような描写。主観的な表現を入れることで、読者が登場人物に感情移入しやすくなる。2bと2cの混在は、文芸作品では禁じ手かもしれないが、ラノベでは積極的にやっていいのではないかと思う。
漫画ではよくあることなので、若い一般的な読者に違和感はないと思う。
人物視点の場合には、味覚、触覚も表現可能。(逆に、他よりこの形式で描写する方が自然)
2d 進行、継続中の情景描写
遠近関係なく進行中のものは現在形になる。
2e 変化結果、新規性、意外性付加
目の前で突然変化したり発見したり、意外に感じるものは完了形を使うことでそのニュアンスを強調できる。(人物視点、レポーター視点関係なく)
現在形にしても意味は通るが、変化したニュアンスが弱くなり、読者の没入感を誘えなくなるので、積極的に完了形を混ぜる方がいい
2f/2g 前振り文
セリフや心のつぶやきの前に、だれがどういう状況で言う/思うかを記述する文。このあとにセリフが発せられるので過去形ではおかしい。
が、変化を示す動作とセットになるときは完了形になることがある。2eと同じ理由。
2j/2k フォロー文
セリフのあとに、「、と~が言った」のように解説する文。セリフが発せられた後なので、過去形でないとおかしいのだが、セリフのあとにも続く動作、状況描写とセットになると現在形になる
また、セリフの後なのに現在形になることがまれにあるが、これは意図的に前振り文を倒置して強調の効果を出しているもの。逆(セリフの前に過去形になるケース)も然り。
【③ リアルタイム心理描写詳細】
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外から見えない人物の心理状態を文章で描写するもの。カメラ視点の考え方では説明できない。(表情を伝えるのは②実況中継の方になる)
3a 現在心理描写
これは2bの心理版にあたるもの。本人ではないので、客観的な表現になる。シーンのリアルタイムな動きの中で現在形で描写することにより心理変化をよりリアルに表現できる。
3b 人物憑依
これは2cの心理版にあたるもの。ほぼ2iの心のつぶやきと同等であるが、こちらは地の文に記述することで、読者の感情移入が促進できる。
(2bと2cを混ぜて見せる理屈と同じ)
主人公になって自分が体験し語っている感じが出せる。
漫画では、3a、3b、2iはフキダシ外にテキストで書かれるため、ほぼ見た目が同じで区別がつかないこともある。このため漫画を読みなれている人は違和感なく読んでしまうと思う。
3c 進行、継続中の心理描写
2dの心理版
3d 消失心理
過去こういう心理だった(が今は違う)という対比表現で、リアルタイムの心理描写中にさしはさまれることがある。
これは過去形というより、過去完了の位置づけ。
3e 変化結果、新規性、意外性付加
2eの心理版
【④ ナレーション2 (情報、状況説明)詳細】
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4a 情報、状況説明
一般的な説明、解説文。
4b 普遍事実
普遍的に変わらない事実の場合には事情説明も現在形となることがある。
これは、過去形で書くと、見た目が同じ完了形の4e「消失事実」と解されてしまうケースがあるため。
4c 未来予測
ネタバレ的に「このあとこうなるのは知る由もない」みたいな形でナレーションに未来形(見た目は現在形と同じ)が入ることがある
4d 消失事実
3dのナレーション版。実況中継中に事情説明としてさしはさまれることがある。過去の消失事実はもはやリアルタイム中継ではないので、ナレーターが口をはさんでいる位置づけとして4dに分類している。
4e 変化結果、新規性、意外性付加
2e/3eのナレーション版。
見た目は4aと同じだが、2e/3eとの対比として分類を設けている。
【⑤ 過去の回想】
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この5番台は短い回想で、回想しているという意識を読者に持たせたままのケース。
心理、情景、セリフも含めて長い回想シーンになる場合は、完全にタイムマシンに乗ってその場に居合わせているようになることから、この5番台の分類は使わず、2番台、3番台、4番台の分類を使う。
5a 回想開始
「~の記憶がよみがえる」みたいに、リアルタイム中継中に過去回想が始まる場合には、その入り口の文はそれに引っ張られて現在テンスになる。
5b 過去事実説明
回想シーンの中で起こった事実の説明。一般的な事情説明の4aとは区別した。
5c 過去再現
タイムマシンに乗って過去のその場に居合わせているような演出を一時的にする場合には現在形になる。5a ⇒ 5b ⇒ 5c とだんだん変化させることで、過去場面をリアルに体験しているかのように見せるのもあり
5d 普遍事実
4bの回想版。回想の中で起こって今も続いている場合には5dとして独立させた。一般的な普遍事実は4b。回想中に4bがさしはさまることもありうる
5e 前振り文、5h フォロー文
過去のセリフ、心のつぶやきだけを単独でさしはさむ場合は、基本的に過去になる。
あとがき
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以上です。
いかがだったでしょうか?
感覚的にこの通りにしている人は多いかもしれませんが、明文化して分類されたものは見たことがなかったので作ってみました。
それぞれ例文がないとわかりにくいと思いますので、2月中旬、例文版の記事を投稿する予定です。
ちなみに、自分のラノベ文のすでに書きあがっている部分の一文一文を、この論理に従ってすべて分類し、成り立っていることは確認できました。チェックにもなりました。
そもそも話をややこしくしているのは、日本語の過去形と完了形が「...た」で同形で区別がないことと、日本語の完了形は「完了」というより「変化」の強調を表すことが多いこと。このことからもともと現在テンスの中で「...る」形と「...た」形は混在必至なのです。「混在はおかしい」などという人がいたら、それは間違いだと自信をもって否定しましょう。
それから、「視点は一つに固定すべき」というのも賛同できません。昨今は映画、漫画などの映像、画像コンテンツも増えていて、どんどん視点を切り替えながら描写する手法に読者も慣れていますから、動かしながら見せても違和感ないですし、動かさないと、スピード感、網羅感もないと思います。
とくに、以下の3つを1つの小説の中で描写しようとすると、視点が固定では違和感あります。
・登場人物本人しかわからない、心理、触覚、味覚
・登場人物が知らないはずの状況、事情
・登場人物のリアルタイムの動き(本人の視点ではなく、外から見た近影)
好きなように動かすことを前提としないとリアルな描写は難しいと思います。
【お願い事項】
この「描写視点変移法」に賛同され、以後これを使って小説を書く、という方は、作品の前書きかあとがきに、その記述をしていただけると嬉しいです。できればTengo-P(点五P)の名前と、XのID "@DekunoboBK"、このページのURLリンク
も併記ください。よろしくお願いします。
【Tengo-P(点五P)自己紹介】
・理系の大学卒。IT企業で通信エンジニア、業務改善コンサルを経験し、60歳で退職
・現在はフリーランスのコンサル兼ボーカロイドプロデューサー
・2025年1月12日、ライトノベル「大人バンドがアニソンやったらカッコよくね?」をNOVEL DAYSで連載開始
自作曲やカバーアレンジ曲を作中バンドの曲として発表する形式で活動中