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アルバム全曲レビュー #1 Formula of Love/TWICE

昨年11月12日、TWICEの3rdフルアルバム"Formula of Love: O+T=<3"がリリースされた。今回はこのアルバムを聴いてみた感想と音楽的な解説を、曲ごとに記していきたいと思う。

SCIENTIST

1曲目は今回のタイトル曲・SCIENTIST。ミナの綺麗な低音で始まるこの曲は、歌詞をよく聴いてみるとアインシュタインやサイン・コサインなど科学にまつわる単語が出てくる。この曲は「愛とは何か」についての研究が全体的なテーマらしい。MVにはメンバーが講義を受けたり、研究したり会議で発表するなどのシーンが登場する。

「科学」という今回のテーマは、リリース前にYoutubeで公開されたOpening Trailerからも見て取れる。この動画を見る限り、ロボットが話しているような音声や機械音などから、エレクトロなEDM系の曲が来るのではないかと勝手に期待した。しかし実際はEDM要素はあまり感じられない曲だった。

この"SCIENTIST"の面白いところは、サビであまり盛り上がらないところだ。今までのTWICEのタイトル曲はサビに来て盛り上がりを見せるものがほとんどだったが、この曲ではミドルテンポを保ったまま、サウンドもシンプルのままサビに突入する。いつの間にかサビが始まって、気づいたら終わっているようなイメージである。こういったシンプルな編曲にもかかわらず、何度も聴いてしまう中毒性がこの曲にはある(と少なくとも私は感じている)。その理由はなんだろうか。私は随所で登場する"ミ"の音(E4)に着目した。

この曲は変ト長調(F#)が基本であるため、本来ミの音は登場しないはずであるが、Bメロとサビにミの音を用いたメロディが出てくる。意図的に登場させることによって多少の違和感が聴く人に与えられるが、この違和感が癖になってまた聴きたくなるのではないかというのが私の考えだ。

専門的な用語を使うと、F#から見たEは短7度の音と呼ばれる。SCIENTISTのように短7度の音がメロディに登場するバターンは他にも多くの曲に見られる。例えばOfficial髭男dismのPretenderのサビ「でも離れ難いのさ」の"は"と"れ"の部分の違和感の正体も、この短7度の音である。

MOONLIGHT

低めのメロディとシンプルなパーカッションで始まるのが、2曲目のMOONLIGHT。この曲は低音から高音まで音の振り幅が大きいのが特徴だ。最低音は、Aメロで出てくる低いファ(F3)で、ナヨン、チェヨン、ダヒョンのパートである。やはりメインボーカルのナヨンは歌唱の技術が高いのか、低音でもスッと楽に出しているように聞こえる。

最高音はサビの後の"Yoohoo〜"の部分で、サナとツウィがG5の音をファルセットで出している。このアルバムは、随所で出てくるツウィの高音ファルセットも聞きどころの一つである。
さらにAメロは変ホ長調と変イ長調を行ったり来たりするような複雑なメロディをしていて、面白い。個人的に好きなパートは一番のBメロ。ミナの透き通った綺麗な声を聴くことができる。

SCIENTISTに負けないくらい多くの聴きどころがあり、星と月が光る夜空が思い浮かぶようなおしゃれな曲だが、もう一つ大きな特徴がある。全編英語詞だということに気づいただろうか。

ICON

ミドルテンポでノリのいい2曲とは打って変わって、3曲目のICONはファンキーで曲調も激しめになっている。この曲を象徴しているのが、"Damn I got it, I'm iconic"のパートだ。モモ、サナ、ダヒョンが担当しているが、一番似合っているのはモモだと感じる。

このパートは、メンバーのラップに背後のメロディが重ったような構造をしている。不思議とハラハラドキドキ、盛り上がるような感情にさせられるが、その秘密はコード進行にある。この部分はD→C#(4→3)という組み合わせになっており、盛り上がりをつけたい所や暗い(悲しい)イメージを持たせたい所によく用いられる。

さらに、この曲のラップパートにも注目だ。チェヨン一人で担当しているが、なんとその長さは8小節もある。実はこの曲も全編英語詞なのでラップも全て英語であるが、さすがチェヨン、上手く歌いこなしていて聴いていて気持ちが良い。3分弱の曲のうちチェヨンのパートだけで30秒ほどの分量がある。

CRUEL

日本語に訳すと「残酷な」となるこの曲は、個人的にはこのアルバムの中で一番のお気に入りである。パート割りが細かく分かれており、メンバー間での分量の差が少ないのが特徴。ダヒョンが単独で書いた詞にも注目だ。

全体的にテンポは早めで、恐らくダンス系のジャンルに分類されるような曲調となっている。この曲は後ろのサウンドがシンプルであるため、ベースが聞こえやすい。特にサビのベースラインがかっこいいので、是非イヤホンを付けて聴いてみてほしい。

さらに最高音はhihiA(A5)であり、めったに出てこないほどの高さとなっている。"Yeah, I'm cruel"の部分でこの最高音が登場し、ジヒョ、ナヨン、サナ、ミナ、ツウィの綺麗な裏声を聴くことができる。2番のサビとラスサビの後の、"So cruel〜"の部分は、一気に視界が開けて明るくなる感じがして、お気に入りである。全体的に短調(暗め)の曲調なので、その部分が良いスパイスとなっている。

REAL YOU

5曲目に収録されているREAL YOUは、メンバーの細かな掛け合いが面白いアップテンポの曲。サビが比較的長めで、一回のサビだけで6人にパートが割り振られているのが特徴。サナのパートは多めで珍しく歌い出しも担当しており、サビでは"What is Love?"で見せたような、一瞬上がって下がるような(語彙力)可愛らしい歌い方を披露している。

F.I.L.A (Fall in Love Again)

今までとは打って変わってディスコ調なのが、6曲目のF.I.L.A。ここまでの6曲で既に感じている方も多いと思うが、近年のTWICEのアルバムは曲自体のクオリティが高いのはもちろん、様々なジャンルにも挑戦しているのが特徴だ。安定した人気を獲得した上でなお、挑戦し続ける姿勢は素晴らしいものである。この曲はサビの音程が高めで、メインボーカルのナヨンとジヒョが流石の歌唱力を披露している。

LAST WALTZ

このアルバムを初めて聞いた人に最も強烈な印象を与えるのが、7曲目のLAST WALTZだろう。Aメロは怪しげなメロディラインに、比較的シンプルなサウンドが続くが、Bメロで一気に展開する。リズムが遅めに変化し、ボーカルも重めになって急にシリアスな雰囲気に。サビに向けて期待を膨らませる。

そしてサビではボーカルに少しエフェクトがかかり、メロディは暗めになっている。このサビのメロディはとにかく中毒性が高く、何度も聴きたくなってしまう。抽象的な表現を多く使ってしまったが、それくらい何とかして言葉で表したくなるような、不思議な魅力がこの曲にはある。さらにこのアルバムのポイントであるツウィのファルセットは、この曲でも聴くことができる。

ESPRESSO

8曲目は、タイトル通りコーヒーのエスプレッソをテーマにした曲となっている。「Drip」や「Bitter flavor」などコーヒーにまつわる詞がたくさん登場する。全体的に大人な雰囲気が漂う曲となっており、特にサビの後の"E.S.P.R.E.S.S.O〜"の部分は、音の高さも低めでオシャレなパートだ。この曲で特筆すべきはラスサビ直前のナヨンのハイノート。高いソの音(G5)を地声で出しており、TWICEの楽曲でもめったに見ないほどの地声の高さとなっている。

REWIND

ここから2曲は落ち着いた雰囲気の曲が続く。9曲目のREWINDの特徴は、前述のCRUELとは正反対にパート分けが粗いことだ。特にモモ、ツウィ、ダヒョン、チェヨン、ジョンヨンの5人は1つのパートのみを担当している。このようにパート分けが粗めの曲として他にも、NiziUの"9 colors"などが挙げられる。9 colorsはそれぞれのサビを一人ずつ歌う珍しい曲なので、是非聴いてみてほしい。

CACTUS

10曲目のCACTUSは、ジヒョが作詞に加えて作曲を手掛ける、壮大なバラード曲となっている。1番と2番のサビはナヨンのバートだが、ラスサビではジョンヨンに交代し、ジョンヨンの地声の高音(最高D#5)も聴くことができる。

この曲にはバラード曲でよく用いられるサブドミナントマイナーコード(ここではEm)が使われている。サブドミナントをよく使うアーティストとして、JPOPでは'ゆず'が挙げられる。TWICEの楽曲でも"HAPPY HAPPY"や"What is Love?"など多く使われているコードなので、興味のある方は調べてみてほしい。

PUSH & PULL

ここから3曲は3人ずつのユニット曲が続くが、この3曲がとにかく良い。どれも傑作レベルの良曲なので是非じっくり聴いてみてほしい。最初はサナ、ジヒョ、ダヒョンの曲で、曲調としては明るめである。ジャンル分けするとすれば前述のF.I.L.Aに近いディスコポップ系だろうか。この曲ではジヒョが珍しくラップを披露している。このような珍しいパート分けを楽しめるのがユニット曲の特徴であり、大きな魅力だ。

HELLO

次に収録されているのは、ナヨン、モモ、チェヨンによるラップ基本のヒップホップ系ソングだ。1番はモモ、チェヨンが歌い繋いでいき、サビで初めてナヨンが登場する。このサビのメロディは、ラップパートのわちゃわちゃ感とは打って変わって落ち着いた綺麗なメロディとなっている。この対比が癖になり、何度も聴きたくなるような中毒性の高い楽曲に仕上がっているように感じる。

この曲でも、普段めったにラップをしないメンバーであるナヨンのラップを聴くことができる。最後のナヨンのラップの部分で"NY, MO, CY, We TWICE"という歌詞が出てくるが、このように自分たちのことについて歌っている歌詞も珍しく、面白い。ちなみにナヨンがラップを担当している数少ない曲として、"SWEET SUMMER DAY"などが挙げられる。


1, 3, 2

ユニット曲の最後は、ジョンヨン、ミナ、ツウィによる曲で、暗めでラテン系の曲調が特徴のナンバーだ。おそらく、ポルノグラフィティの「サウダージ」にも用いられているラテン系の曲に多用されるコード進行(6→5→4→3)が使われている。安定した歌唱力のある3人なのでラップパートは少なく、ほぼ全て歌いのパートで構成されている。

ラスサビではジョンヨンとツウィがメインパート(主旋律)を担当しており、ミナが後ろでアドリブを担当している。普段のTWICEの曲ではナヨンやジヒョがアドリブをすることが圧倒的に多いので、ミナの高音アドリブはとても貴重だ。まさにユニット曲のメリットである。ジョンヨンが毎回のサビに登場するのも良い。

CANDY

ここからは再び全員の曲に戻る。14曲目のCANDYは全編英語詞で、曲調はこれも若干暗め。暗い印象を持たせるコード進行Cdim→F→B♭m(7→3→6)が曲全体を通して使用されている。TWICEの6周年記念のYoutube生配信にてこの曲が初披露されたが、冒頭のミナのサビで神曲であると確信した。

ブリッジ部分でも同じくミナのサビが出てくるが、ミナの透き通った綺麗な歌声が生かされていて印象的だ。サビの後に全員で裏声で歌うパートがあるが、歌詞付きのパートを全員で歌うのはあまり前例がなく、珍しい。筆者が今思い出せるのは"Merry&Happy"のラスサビくらいだろうか。

The Feels

昨年10月1日にMVが公開され、TWICE初の英語シングルとして話題となったのがThe Feelsだ。この楽曲は一昔前のディスコポップのような曲調をしていて、MVの雰囲気や衣装もどこかレトロ感を感じさせる。再生回数は先日2億回を突破し、公開から3か月以上経った今でなおJYPで最も伸びているMVだ。

まず歌割りに着目すると、ナヨンが歌い出しでナヨン&ジヒョがサビ、ミナはBメロとブリッジを担当するという風に、TWICEの王道パターンに忠実に則っている。初の英語シングルということで多少冒険してくるのではないかと予想したが、歌割りに関しては安定感を優先したようだ。

次に音楽的な面から考察する。この曲の基本的なコード進行は6→2→5→1のパターンだが、少し変わった部分がある。ロ短調のためBm→Em→A→Dとなるはずだが、EmをEに変更した形Bm→E→A→D(→F#)が曲全体で用いられている。EmをEに変更することでロ短調のスケール外の音(G#)が登場することになるが、これにより曲に浮遊感や盛り上がりをプラスすることに成功しているのではと感じる。

さらにこの曲のベースにも注目である。冒頭の"Boy I boy I boy I know"の部分から早速ベースが入ってくるが、打ち込みっぼい機械的なベースではなく、実際に楽器を弾いているような音色に感じる。しかも単純に音を一つずつ弾いていくというよりは独立してメロディを奏でているようなベースラインになっており、サビになるとその傾向は強くなる。

SCIENTIST - R3HAB Remix

最後に解説するのは16曲目のSCIENTISTのリミックス。手掛けたのはオランダ出身のDJ・R3HABだ。彼は今まで嵐やケイティ・ペリーなどたくさんのアーティストの曲をリミックスしてきた有名なDJであり、今回初めてTWICEの曲を担当した。個人的に彼の手掛けるリミックスは音サビ(ドロップ)の部分がしっかり確保されており、お気に入りである。SCIENTISTも彼の手にかかれば、このように完全なEDMに変貌する。


まとめ

TWICEの最新アルバム・Formula of Loveの全曲を特に音楽的な面から長々と解説してきたが、どうだっただろうか。最近のTWICEのアルバムは曲数も多く、いい曲ばかりなので是非聴いてみてほしい。特に今回のアルバムは全編英語詞の曲が4つも収録されており、世界進出を狙っていく強い意志が伺える。

これからTWICEだけでなくNiziU、ITZY、IZ*ONEなど他グループのアルバム解説も順次行っていくので、お楽しみに!

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