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GEOTRA主催『まちづくりの課題解決に向けた人流データの活用可能性に関する勉強会』レポート

はじめに

こんにちは!
今回のnoteでは、GEOTRAの主催する、まちづくり✕データ活用の成功を支援する会員制コミュニティ「INCITY」の第1回Meetupとして2024年8月28日に開催された『まちづくりの課題解決に向けた人流データの活用可能性に対する勉強会』の概要をご紹介します。

【「INCITY」詳細ページはこちら▶ https://www.geotra.jp/incity

この勉強会は、国土交通省様KPMGコンサルティング様にゲストとして登壇いただき、まちづくりの課題解決に向けた人流データの活用可能性をテーマとして講演いただきました。また、勉強会の最後にはGEOTRAの陣内も合わせた3社によりパネルディスカッションも行いました。

まちづくりにおけるデータ活用の可能性と課題について活発な議論が交わされた勉強会内容を凝縮してお届けします!



第1部:人流データの活用に向けた国土交通省の取り組み

講演者:諏訪 浩一氏(国土交通省 政策統括官付 地理空間情報課 課長補佐)

諏訪氏からは、国土交通省 地理空間情報課の人流データの活用に向けた取り組みについて講演いただきました。
地理空間情報課は、地理空間情報の充実・オープン化データ連携基盤の整備、地理空間情報を使いやすい環境の整備をミッションとして活動しています。
地理空間情報課が整備している国土数値情報(国土、土地・不動産、まちづくり等に関する基礎的な情報をGISデータとして整備したもの)は、メディアの情報発信や民間企業の新規店舗出店の分析、国や自治体向けの各種計画にも多く活用されています。(地理空間情報課のHPはこちらから)

人流データの進化と拡大

特定の場所、時間に滞在する人数などを示したデータである人流データは、土地・不動産やまちづくり、観光、交通、防災等の様々な分野における地域課題の解決に活用されています。人流データ利活用の流れとしては、詳細なステップが「地域課題解決のための人流データ利活用の手引き」に記載されていますが、その中でもデータを目的に応じて選定し、適切に取得・分析する段階が重要です。

国の政策としては、2017年の「第3期地理空間情報活用推進基本計画」で初めて「人流」というキーワードが記載され、東京オリンピック・パラリンピックにおける円滑な移動支援等への活用が計画されました。2022年の「第4期計画」では、利活用の期待される範囲が防災や観光などに広がり、人流データの利活用が加速しています。

地理空間情報課の取り組み

取組①全国の人流データの提供
新型コロナウイルス感染症前後の人流の傾向の分析として、令和元年1月から令和3年12月(コロナ禍前後)までの人流データを全国に提供し、観光や購買、不動産、防災などの分野での分析例を公開しました。

出典:諏訪氏講演資料より引用

取組②人流データを活用した地域課題解決モデル事業
人流データの取得・分析・活用を通して地域の諸課題の解決に取り組むモデル事業を公募し、6件の事業を採択、実施しました。それぞれの地域で人流データを用い、混雑の緩和、公共交通機関の運行計画や中心市街地の活性化など、地域課題の解決に取り組みました。

出典:諏訪氏講演資料より引用

取組③ 人流データ可視化ツールの提供
人流データを活用しようと考えている自治体等を対象に、簡易な視覚化・分析が可能となる可視化ツールを提供しました。

出典:諏訪氏講演資料より引用

取組④地域課題解決のための人流データ利活用の手引き
人流データの利活用促進を図るため、人流データの選定・取得から利活用・提供に至るためのポイントや具体的なユースケース等を手引きとして取りまとめ、公開しています。

出典:諏訪氏講演資料より引用

取組⑤人流データを活用した不動産分野等の課題解決実証事業
不動産分野に焦点を当て、KPMGコンサルティング様とGEOTRAとともに鳥取市、東村山市、さいたま市で実証実験に取り組みました。(本事例はKPMGコンサルティング様も取り上げているため割愛します)

人流データの未来と課題

データの活用範囲は変化しており、都市の3次元化(3D都市モデル)により3D都市モデル上でも人流データを活用した分析が可能となります。また、災害の高頻度化が進む中で、リスク評価や避難シミュレーションにも人流データが活用されることが期待されています。
一方で、人流データ活用の課題として、事例の不足とコスト面のネックが挙げられます。特に、自治体が低コストで人流データを活用できる環境を整備していくことが今後の課題です。

地理空間情報課の今後の取り組み

一つ目は「先進技術活用検討調査業務」で、3次元空間での人流データ活用について調査や技術的な検証等を行い、課題や今後取り組むべきことをとりまとめ、3次元人流を活用した取り組みを促す環境の構築につなげていきます。
二つ目は「活用普及加速化業務」で、自治体における人流データの活用状況を調査、自治体が人流データを活用する際の課題を把握するとともに、多様な人流データ活用事例を収集し、事例集の作成やイベントの実施等を通じて周知を図ります。


第2部:KPMGコンサルティング『データを駆使したまちづくりの現在地とこれから』

講演者:石山秀明氏(KPMGコンサルティング ビジネスイノベーションユニット マネジャー)

石山氏は、GPSやスマートフォンのアプリを通じて取得した人流データを念頭に、これまでのまちづくりにおける人流データの活用状況と、今後の可能性について解説しました。

これまでのまちづくり×人流データ

人流データが主に観光、交通、地域活性化の分野で活用されている一方、環境やエネルギー、物流などの分野ではまだ活用が進んでいません。今後は、これら未活用の分野においても人流データを位置情報として再定義し、活用の幅を広げる必要があります。

出典:石山氏講演資料より引用

こうした活用が進んでいない分野にどのように人流データを活用していくかが次のテーマです。そのためには、人流データを「情報」として再定義することによって活用の幅を広げていくことが重要です。そのためには、産業振興、健康、環境などの分野で、地域の商工会や健康・環境に取り組む団体など、幅広いプレイヤーを巻き込む必要があります。

このようなプレイヤーに対して人流データの裾野を広げるためには、人材育成、コスト、データ取得条件や粒度が課題となっています。データ活用を実務に応用するためのスキルの不足や、部署横断的な組織全体でのデータ活用・共有が進んでいない点がコスト面での課題を引き起こしています。また、データの取得条件や粒度の調整が、複数のプレイヤー間でのデータ共有を進める上で重要な要素です。

「位置情報」としての人流データ活用の可能性

石山氏は、昨年度、国土交通省とKPMGコンサルティング、GEOTRAが共同で実施した「不動産課題×人流データ活用」プロジェクトの事例を紹介しました。
このプロジェクトは、鳥取市、東村山市、さいたま市を対象とした実証実験であり、ヒトの”移動・滞留”(どのような人がどの程度その場所にいるのか)と、移動する”ヒト”(移動から見える住民ニーズは何か)の両側面からデータの有用性を検証しました。
東村山市では、駅周辺の人流を分析し、商業施設や公共施設の最適配置を検討するためのデータとして活用されました。また、鳥取市では、中心市街地におけるリノベーションまちづくりプログラムに人流データを適用し、空き店舗や空き家の活用を進めるための実証実験が行われました。

出典:石山氏講演資料より引用

活用を進める体制・仕組みづくり

人流データは主に観光、交通、地域活性化の分野で活用されている一方で、小規模でスポット的な活用に留まり、他の分野ではまだ活用が進んでいません。
先に示したユースケースのような小規模な活用をまとめ、横断的な分野間連携を図ることで、費用対効果を向上させ、人流データ活用の裾野を広げることができると考えられます。
このような活用を進めるためには、体制と仕組み作りが重要であり、特に重要なのは、人流データに触れたことがない方々との接点を持ち、データの有効性を感じてもらうことです。ただ分析結果を共有するだけでなく、分析プロセス自体に各プレイヤーを巻き込んでいくことが重要です。
そのユースケースとして、石山氏は昨年取り組んだ沖縄県名護市のスマートシティに関するプロジェクトを紹介しました。

出典:石山氏講演資料より引用

このプロジェクトでは、民間企業や地域の事業者、行政が継続的にデータを共有し、環境や健康、観光交通、教育などのさまざまな分野で設置されたワーキンググループでの分野横断的な課題分析やソリューション開発が進められました。このような取り組みにより、個々の小規模なデータ活用が相対的に効果を高め、多くのプレイヤーがデータを活用する裾野が広がっています。
このような活動が、行政だけでなく、民間企業を巻き込んだ協議会やまちづくり促進組織の中で進められることで、まちづくり組織自体の強化や参画インセンティブの創出につながり、今後の人流データ活用の裾野をさらに広げることが期待されています。


第3部:GEOTRAのユースケース紹介

講演者:陣内寛大(株式会社GEOTRA 代表取締役社長)

最後に、GEOTRAの陣内が、GEOTRAが取り組んでいる人流データの活用事例と、今後期待される技術的な進展について説明しました。

ビッグデータと人流データの活用

ビッグデータは調査分析や動態調査においてますます活用されるようになっており、基礎自治体での活用から民間企業での活用に至るまで、そして国全体での調査体系においても、ビッグデータが適切にミックスされていく流れが進んでいます。
これにより、ビッグデータを活用した予測分析やシミュレーションが可能となり、まちづくりの方針をより精緻に検討できるようになると述べました。

技術的なトレンドとシミュレーションの取り組み

シミュレーション技術の進展により、人口減少や新たな開発による人流の変化を予測することがますます重要になっています。
具体的には、まちづくりシミュレーション災害時の避難シミュレーションなどが行われており、これにより、従来の大雑把な予測がより正確に行えるようになっています。
また、都市や土地に関するデータに機械学習技術を組み合わせることによって、新しい分析手法や予測手法が登場しています。

出典:GEOTRA作成資料

パネルディスカッションとQ&A

勉強会の最後には、パネルディスカッションが行われ、参加者からの質問に講演者が回答しました。

質問1:名護市でのスマートシティプロジェクトが成功した要因

石山氏は、分野横断的なコンソーシアムの取り組みが成功の鍵であり、民間の事業者を巻き込むためのインセンティブの設計をすること、また、事業者が共通で利用でき、各々の事業開発や事業推進のニーズを横断で解決できるようなプラットフォームづくりを組織の中で実装することが重要であると語りました。
石山氏はこうした取り組みを他の地域にも展開し、各地の中小規模の自治体でも実現可能なモデルを構築することを目標としていると言います。

質問2:3次元での人流データ利活用の現状

諏訪氏は、立体的な位置情報の取得にまだ課題があるものの、本年度の取り組みで具体的な検証を進める予定であると説明しました。
さらに、陣内は、地下と地上を判定するデータ加工など、現状で対応可能な部分から取り組みを進めていると述べ、石山氏は、3次元人流データが商業分野や防災におけるニーズを引き出す可能性に期待しているとコメントしました。

質問3:データコストの問題について

諏訪氏は、自治体単体でできることには限りがある為、共同事業体のような形で、自治体と民間が一緒に取り組んでいく形を育てることがまちづくりにおいて重要であるとコメントしました。
また、石山氏は、諏訪氏が説明の中で触れた、データを使った公共投資の話題に補足し、公共投資のインパクトを人流データを使って評価しEBM(Evidence-Based Management)に繋げることが重要であり、データを活用した定量的かつ継続的な評価体制の構築が今後の課題であると述べました。


最後に

ここまでご覧いただきありがとうございました。
本勉強会では、国土交通省、KPMGコンサルティング、GEOTRAが人流データの活用を通じたまちづくりや公共政策の推進方法についての具体的なケースを交えた共有がなされました。
詳細に関しては、ぜひ本セミナーのアーカイブ動画をご覧ください!

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GEOTRAでは、独自の個人情報保護技術により、人々の動きや行動目的などが高粒度に可視化された人流データ、GEOTRA Activity Dataをご提供しています。更に人流データのご提供に留まらず位置情報データ全般に関する利活用促進のためのご支援を行っております。

また、GEOTRAは、まちづくり領域の計画・調査・データ分析に関わる方の成功を支援するための会員制コミュニティ「INCITY」を開始しました。

INCITY Membership にご登録いただいた方には、今回の勉強会のような人流データ活用に関するイベントや、会員限定のコンテンツが見られるMembership Siteにご招待します。

分析事例などのコンテンツを共有し、まちづくりの領域での新たなデータ分析・ユースケースの発展に寄与してまいります。

 【「INCITY」詳細ページはこちら▶ https://www.geotra.jp/incity

〇具体的な活動(抜粋)
【勉強会・限定イベント(INCITY Meetup)】
まちづくり×データ活用をテーマに、会員限定の勉強会・イベント「INCITY Meetup」を企画しています。都市工学や交通工学などの有識者、自治体やデベロッパーなど、まちづくりの実務者が登壇し、現場の知見や専門性、具体的な事例に基づいた情報発信を行っています。
【セミナーアーカイブ】
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【技術資料・データライブラリー】
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