
メルボルン、2011年から7年連続「世界住みやすい都市ランキング」1位のまちのデータ活用とは
はじめに
GEOTRAインターン生の伊藤です。
近年、日本各地で、地域の活性化を目的とした、データに基づく都市の課題解決に繋げる仕組みづくりを推進しており、まちづくりにおけるデータ活用の重要性が高まっています。
本記事では、データを活用したまちづくりの海外における先行事例として、オーストラリア、メルボルン市の歩行者感知センサーを用いて収集した人流データを活用した“まちづくり”をご紹介します。
背景
オーストラリアのメルボルン市では、「誰もが住みやすいまちづくり」を目指し、1990年代以降、市内の公共空間及び緑地空間の増加等の施策を推進しています。
その結果として、メルボルン市は、英経済誌「The Economist」において、2011年から7年連続で「世界で最も住みやすい都市」に認定されています。
メルボルン市は、更なる発展に向けて、2017年3月に「Plan Melbourne 2017-2050」(長期都市計画マスタープラン)を発表し、同市のまちづくりにおける今後の成長分野や方向性を示しています。
同計画の中で、20分以内にアクセス可能な施設・サービスの数、公共交通機関及び公共空間の利便性等を重要指標としており、メルボルン市はデータを用いてこれらの指標を評価しています。

出典:Open space for everyone及び Accessing green space in Melbourne: Measuring inequity and household mobilityより引用
まちづくりにおけるデータ活用
データ収集
メルボルン市は、市内の各所に歩行者センサーを設置し、歩行者の移動情報を収集しています。歩行者の移動情報は、同センサーを通過した際に記録されます。
歩行者検知システムは、画像ではなく動きで記録されるため、個人情報は収集されません。
更に、図2が示すように、同センサーの設置箇所は、同市のHPから確認可能です。現在、同市は、市内の主要交差点や、主要交通機関付近、ショッピングモール前、イベント会場前等を中心に、87ヶ所にセンサーを設置しています。

出典:Pedestrian Counting System及びCity of Melbourne-Pedestrian Counting Systemより引用
データ活用
メルボルン市は、収集した歩行者の移動情報を用いて、天候や、イベント情報、交通ネットワーク等のリアルタイムのデータを基に、歩行者の移動傾向を分析し、都市の歩行者交通パターンをモデル化して、都市計画及び政策の方向性を決定しています。以下の二つの取り組みを行っています。
1.20分生活圏
「20分生活圏」とは、近年の都市開発において重要視されている要素の一つで、徒歩で、自宅から日常生活の大半のニーズを満たすことができる都市空間を示します。
フランス/パリや、イギリス/ロンドン等の大都市を中心に導入が進んでおり、メルボルン市は、「Plan Melbourne 2017-2050」内で、「20分生活圏」の実現を目標に掲げ、施設情報や収集した歩行者の移動情報に基づく土地利用の多様化及び公共交通サービスの充実化の二点に取り組んでいます。

出典:Plan Melbourne 2017–2050より引用

出典:Typologies of 20-Minute Neighbourhoods, Active Transport Use, and Spatial Spilloversより引用
以下の図5が示すように、同市は徒歩でアクセス可能な施設及びサービスの多様化に取り組んでいます。
図内の円は、メルボルン市内の中心地から400m半径の徒歩5分以内にアクセス可能な範囲を示しており、公共空間や、公共交通機関の停留所、給水所等の公共サービスへの利便性が高いまちづくりを行っています。

出典:Visualizing Pedestrian Activity in the City of Melbourneより引用
更に、同市は、「20分生活圏」を実現するために、徒歩でのアクセスのしやすさと共に、自転車や公共交通機関の利便性を向上する包括的なまちづくりが必要だと考え、データに基づく市街地内の自転車設備及び公共交通機関の充実化に取り組んでいます。
センサーを用いて収集した市内の歩行者の移動情報を活用した市民の通勤・通学ルート等の分析を通じ、以下の図6・7が示すような各交通機関の接続を円滑にする地下鉄・トラムのネットワークの構築及び自転車利用を促進するインフラの整備を行っています。

出典:Bicycle Plan 2016-2020より引用

出典:transport strategy 2030 city of Melbourneより引用
2.混雑を緩和する交通システムの導入
メルボルン市は、「20分生活圏」の拡大と並行して、都市における自家用車の利便性の向上に取り組んでいます。
図8が示すように、同市の交通局は、最も交通量の多い道路において、交通渋滞を緩和する交通管理システムを導入しました。
収集したデータを学習したAIを用いた予測モデル及びリアルタイムのデータ取得を利用して、渋滞の緩和及び安全性の向上を目的に、同システムの改善に取り組んでいます。
特に同市は、収集した過去のデータから、AIによって導き出される渋滞予測に基づく交通信号のリアルタイム制御に取り組んでいます。
更に、同データを活用し、現時点で混雑する頻度が高い道路付近で、混雑を緩和する新たな道路を敷設する取り組みも行っています。

出典:World's smartest traffic management system launched in Melbourneを基に当社作成
結果
人流データを活用したメルボルン市の取り組みは、「20分生活圏」の拡大を促進し、市内の歩行者数及び自転車利用者数の増加等において効果が顕在化しており、街の賑やかさを創出しています。
人流センサーのデータ活用に伴い、「街の賑わいの創出」の再現性を高めることが可能になりました。
最後に
ここまでご覧いただきありがとうございました。
本記事では、メルボルンのデータを活用したまちづくりについてご紹介しました。
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