
海外事例研究|米国・ロサンゼルスの通行止め影響分析
はじめに
GEOTRAインターン生の筒井です。
道路や橋の修繕や災害時に備え、通行止めに関するシナリオを事前に分析することは、交通渋滞や混乱を最小限に抑えるために極めて重要です。
本記事では、道路閉鎖シナリオ分析ツールを用いて、米国ロサンゼルスの通行止めの影響を分析した米国Replica社の事例をご紹介します。
背景
米国ロサンゼルスにある米国を象徴する通りのひとつであるウィルシャー大通りを、平日1日平均40万人以上の人が車で移動しています。
そして、そのうちの約10%がウィルシャー大通りにあるウェストレイクのマッカーサー公園を通る道路を通過しています。
2024年7月上旬、ロサンゼルス市は、公園内を通る道路を車両通行禁止にする計画プロセスを発表しました。
ロサンゼルス市は、道路を閉鎖し、歩行空間を創出することで、地元住民がより利用しやすい公園とすることを目標に掲げました。
一方で、ロサンゼルス市は道路閉鎖により、周辺交通網に与える影響(通勤者に影響が出るか等)を理解する必要がありました。
従来は、予算の大部分が負の側面に関する交通影響分析に割かれ、正の側面に関する分析(経済効果の算出等)に割ける予算に限りがありました。
一方で、Replica社が開発した道路閉鎖シナリオ分析ツールを用いることで、正確且つ詳細な交通シナリオ分析を行うことが出来、より少ない予算で、交通影響分析を行うことが出来ます。
Replica社は、同ツールを用いて、上記計画で提案されている南アルバラド通りと南パークビュー通りの間のウィルシャー大通りを閉鎖した場合の分析を行いました。
調査方法
以下が調査ポイントとなります。
1. 通行止めにより影響を受ける人数と移動手段
2. 通行止めが周辺の交通網に及ぼす波及効果
3. 通行止めにより影響を受ける人々の属性・特性

調査結果
以下が分析により明らかとなりました。
1. 通行止めにより影響を受ける人数と移動手段
前述の通り、毎日約40,000人がウィルシャー大通りのマッカーサー公園を車で通過しており、この40,000人のうち、約30%の人が1日に1回以上この道路を利用するため、約54,000回の移動が行われます。
分析対象となる道路利用者に関する、現状は以下となっています。
● 移動平均距離は13マイル、平均所要時間32分と、短距離移動は少ない。● 通行目的は、通勤が23%、通学が1%未満である。
● 通行数は午後の帰宅時間帯にピークを迎え、午後4時から5時の間に約5,000回の通行がある。

出典:Using Replica's Road Closure Scenario App to Understand ... より引用
分析結果から、道路が閉鎖されたとしても、通勤者への影響は少なく、移動距離は、平均1マイル増加することが分かりました。
2. 通行止めが周辺の交通網に及ぼす波及効果
分析結果から、「波及効果はあまりない」ことが分かりました。
ウィルシャー大通りの交通量は大幅に減少し、隣を走る道路(W6th通り, W7th通り)交通量が増加するものの、それ以外の道路への影響は殆どありませんでした。
以下図2の通り、閉鎖により特定の道路リンクで交通量が増加するものの、道路容量の最大値に達していないことも分かりました。交通量が最も増加するW6th通りでさえ、交通量が最も増加する午後の平均利用率は、51%に留まっています。
また、公共交通機関への影響も把握出来ます。
例えば、ウィルシャー大通りを通過するバスは、閉鎖後、最も近い道路へと迂回することが想定されますが、迂回した道路への影響は殆どないことが分かりました。

出典:Using Replica's Road Closure Scenario App to Understand ... を元に当社改変
上の図2では、各道路で予想される通行量を、道路の容量と比較し、容量利用率で色分け表示しています(青色…0~25%、水色…25%~50%、ピンク色…50%~75%、赤色…75%~100%。赤色に近づくほど混雑する)。
図2より、W6th通りとW7th通りの通行量が増えるものの、どちらの道路も最大容量に近づいていないことがわかります。

出典:Using Replica's Road Closure Scenario App to Understand ... より引用
図3の通り、W6th通りに関する通行量が、時間帯毎に把握でき、道路容量との比較(混雑度合いの把握)をすることができます。
3. 通行止めにより影響を受ける人々の属性・特性
同分析ツールでは、道路閉鎖の影響を分析する際に、移動者の詳細なデータが保持されたまま分析できます。
● 現在、ウィルシャー大通りを自家用車で利用する者の世帯所得の中央値は$102,000で、ロサンゼルス全体のドライバーの中央値$106,000と同程度なるも、マッカーサー公園のすぐ近くに住む住民の世帯所得の中央値$53,000の2倍であることが分かります。
● ウィルシャー大通りを利用する自転車や歩行移動者についても、上記同様、所得格差があるものの、あらゆる世帯所得の人々が公園とその周辺を利用していることが示されています。
● ウィルシャー大通りを自家用車で利用する者の内、マッカーサー公園があるウェストレイク居住者は、僅か3,600人(10%未満)でした。

出典:Using Replica's Road Closure Scenario App to Understand ... より引用
今後の展望
上述の通り、道路閉鎖シナリオ分析ツールを用いることで、様々な公的プロジェクトで、且つ、少ない予算で、シナリオ分析をすることが可能となります。
今回は、米国での事例について紹介しましたが、本邦での弊社取り組みについても過去に取り上げておりますので、是非ご覧ください。
「鳥取県東部では、市街地や観光地での交通渋滞などの問題があり、交通需要を評価する基礎データが不足していました。そこで、GEOTRAのデータを活用して交通課題を分析し、シミュレーション技術で将来の交通流の予測を行いました。
この結果をもとに広域交通マネジメント手法を検討し、将来的には県全域への拡大を目指しています。また、異常気象(豪雨・降雪)による高規格道路の長期通行止めの際の大規模迂回による影響評価等といった活用も可能となります。」
最後に
ここまでご覧いただきありがとうございました。
本記事では、道路閉鎖シナリオ分析ツールを用いた、米国ロサンゼルスでの通行止めによる影響を分析した米国Replica社の事例についてご紹介しました。
▼マガジン「海外事例で学ぶデータ活用最前線」の他の記事はこちらから!
GEOTRAでは、独自の個人情報保護技術により、人々の動きや行動目的などが高粒度に可視化された人流データ、GEOTRA Activity Dataをご提供しています。更に人流データのご提供に留まらず位置情報データ全般に関する利活用促進のためのご支援を行っております。
▶資料請求・分析相談はこちら:https://www.geotra.jp/contents/contents_aboutGEOTRA
noteでは、引き続きGEOTRAの事例紹介や活動報告、GEOTRAに関連するテーマの特集や事例研究を掲載していきます。
今後も皆さんのお役に立てるコンテンツを配信できればと思っておりますので、皆様のいいね・フォローをお待ちしています!
弊社へのお問合せ先:
メールアドレス: sales@geotra.jp
Facebookプロフィール URL: https://www.facebook.com/geotra.jp