海外事例研究|米国・医療業界でのリアルタイム位置情報システム(RTLS)の活用
はじめに
GEOTRAインターン生の筒井です。
医療やヘルスケア分野では、データを活用した取り組みが注目されています。
本記事では、米国の医療業界で活用されているリアルタイム位置情報システム(RTLS)の事例をご紹介します。
医療業界向けのリアルタイム位置情報システム(RTLS)を提供するCenTrak社
CenTrak社(米国)は、医療業界向けのリアルタイム位置情報システム(RTLS)を提供する企業です。
RTLSは、医療機器、スタッフ、患者の位置をリアルタイムで追跡・管理し、病院の運営効率や患者ケアの質を向上させることを目的としています。
RTLS(Real Time Location System)について
RTLS(Real Time Location System)とは、人や物などの位置をリアルタイムに特定する技術です。
無線通信やRFID(Radio Frequency Identification)、GPS(Global Positioning System)、BLE(Bluetooth Low Energy)、UWB(Ultra Wide Band)などの技術を組み合わせて開発されており、医療機関では様々な用途に活用されています。
▼CenTrak社のRTLS紹介動画
医療機関でのRTLS活用例
医療機関におけるRTLSの用途としては、①医療機器の管理、②スタッフと患者の安全確保、③感染拡大防止、④業務の効率化・最適化があります。
1. 医療機器の管理
医療機器の正確な位置を把握することで、スタッフが機器を探す時間を削減し、機器の紛失や盗難を防止します。
RFID asset tracking tags(資産追跡タグ)を病院の機器に取り付けると、機器の位置と状態のデータがリアルタイムで確認できます。
スタッフは医療機器追跡ソフトウェアにアクセスすることで、いつでも機器の場所を確認することができます。
2.スタッフと患者の安全
RTLSは、スタッフの緊急呼び出しや患者の転倒検知など、安全性の向上にも役立ちます。
医療施設で緊急事態が発生した際、迅速な対応が求められます。
しかし、正確な情報がなければ、対応スタッフはどの階や部屋で問題が起きているかを推測する必要があり、貴重な時間を失うことがあります。
RTLSでは、スタッフの位置情報をリアルタイムで把握し、緊急警報を的確に伝えることができます。
たとえば、スタッフが着用するウェアラブルバッジには、簡単に操作できる緊急ボタンがあり、押すだけでセキュリティチームにパニック警報を送信することが可能です。
このシステムは、警報を送ったスタッフの身元や正確な位置を他のスタッフに即座に通知し、迅速な対応を可能にします。
また、CenTrakのnewbaby™ infant protection system(乳児保護システム)は、新生児を守るための特別な機能を備えています。
このシステムでは、乳児が許可されていないエリアや出口に近づくと、自動的に警告が発せられます。
また、ドアのロックやエレベーターの使用停止などの安全対策が即座に実行されます。
乳児が着用する専用バンドにはセンサーが内蔵されており、バンドが切断されたり、乳児の肌に触れなくなったりした場合にその情報を検出して記録されます。
すぐにスタッフに警告が送られるため、新生児の安全が確保されます。
3.感染拡大防止
さらにRTLSは、感染拡大を防ぐために様々なデータを提供します。
たとえば、スタッフの手指衛生が適切に行われているかを記録し、感染者と接触した可能性のある人や場所を特定する「接触追跡レポート」を作成することができます。
これにより、患者のケアを妨げることなく、効率的で的確な感染防止対策が可能になります。
具体的には、感染者が使用した医療機器を隔離し、汚染された可能性のある部屋を特定することで、清掃や消毒を必要最小限に絞り込むことができます。
これにより、感染の拡大を効率的に防ぐことができます。
4.業務の効率化・最適化
患者の移動や治療プロセスを追跡し、業務上の問題点(ボトルネック)を特定して改善することで、病院全体の効率化に役立ちます。
また、患者の安全を守るだけでなく、満足度の向上にも貢献します。
2022年秋にBeryl Institute(米国)が行った調査によると、患者の約半数が「良い体験を提供する病院が健康に良い影響を与える」と考え、35%が「体験が将来の医療の選択に影響する」と回答しました。
RTLSは、モバイルアプリやブラウザ、キオスクを通じて、患者や訪問者、スタッフに道案内の機能を提供します。
これにより、病院キャンパス内の目的地や建物間の移動、階段の位置、駐車場所へのルートを簡単に確認できるため、スムーズな移動が可能です。
RTLSは、病院のデータシステムを統合し、運営情報を効率的に管理することも可能です。具体的には以下のような情報の把握に役立ちます。
機器の利用率:機器レンタルや購入にかかるコストを削減。
患者の待ち時間:診察や治療を受けるまでの時間を短縮。
入院期間の把握:患者が病院に滞在する日数を記録。
治療プロセスの効率化:臨床医と患者が過ごした時間や治療経過を追跡。
これらの情報をもとに、病院のビジネスプロセスを見直し、不必要な支出を減らすことができます。
また、RTLSを病院に導入すると、不必要な支出を削減できます。
International Journal of Health Geographicsの記事では、病院は医療機器を10~20%必要以上に購入しているとされています。
しかし、RTLSを導入すれば、機器の正確な位置をリアルタイムで把握できるため、過剰な機器の購入を避けることができます。
結果として、病院運営コストの削減にも繋がります。
導入事例:ウェイクフォレスト バプティスト メディカル センター(米国)
ウェイクフォレストバプティストメディカルセンターは、ノースカロライナ州ウィンストンセーラムにある学術医療システムです。
このセンターの救急科は、成人および小児外傷に対応するレベルIの施設で、毎年約50万人の患者に救急医療を提供しています。
COVID-19パンデミックの影響で、医療現場には多くの混乱が生じ、患者の体験に対する評価も低下しました。
この課題に対応するため、同センターの患者体験強化チームは、2021年にCenTrak社と提携し、RTLSの導入を開始しました。
目標は、リソースの効率化やワークフローの改善を通じて、「究極の患者体験」を実現することでした。
同センターは、RTLS導入により、以下の成果を達成しました。
1.患者体験の向上
患者の待ち時間を短縮。家族にはリアルタイムで状況を通知。
待ち時間が30分以上の場合、患者はその場を離れることができ、10分前にテキスト通知が送信される仕組みを導入。これにより、無駄な待機時間を削減しました。
2.スタッフの生産性向上
医療機器の位置をリアルタイムで把握可能にし、スタッフの機器検索時間を削減。
この効率化により、年間200万ドル以上のコストを節約しました。
3.資産管理の最適化
約13,000点の医療機器にタグを取り付け、機器の利用率を30%向上。
新規機器購入費用を年間200万ドル削減しました。
4.温度管理の自動化
800台の冷蔵ユニットをRTLSで監視し、手動チェックを不要化。
薬剤の損失を防ぎ、年間約97万ドルのコスト削減を達成しました。
5.スタッフの安全確保
スタッフ用の緊急呼び出しボタンを設置し、迅速な対応が可能に。
これらの取り組みにより、患者の満足度(推奨意向スコア)が約20%向上し、スタッフの働きやすさも大幅に改善されました。RTLSは、効率化と安全性の向上を実現するツールとして大きな成果を挙げています。
参考サイト▼
最後に
ここまでご覧いただきありがとうございました。
本記事では、米国の医療業界におけるリアルタイム位置情報システム(RTLS)の活用事例についてご紹介しました。
RTLSは、医療機関の効率化や安全性の向上に大きく寄与する技術です。
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