見出し画像

海外事例研究|スイス・チューリッヒ:ARとAIを活用した都市計画の取り組み


はじめに

GEOTRAインターン生の筒井です。

 以前の記事では、中国における都市管理システム「ET City Brain」を活用したスマートシティ化への取り組み事例をご紹介しました。

 IMD(国際経営開発研究所)は、「スマートシティ指数(Smart City Index)」によるスマートシティランキングを発表しており、2024年はスイスのチューリッヒが世界第一位に選ばれました。

そこで、本記事では、スイス・チューリッヒにおけるスマートシティ戦略の1つである、AR(拡張現実)とAI(人工知能)を活用した都市計画の取り組みについてご紹介します。

スマートシティランキング5年連続世界第一位のスイス・チューリッヒ

チューリッヒは、2024年の「スマートシティランキング」で世界第1位に輝いています。

本ランキングは、IMD(国際経営開発研究所)のスマートシティ指数に基づき順位付けされたもので、都市のインフラ、技術、住民の満足度、環境の持続可能性、交通網、治安などの観点から評価されます。

チューリッヒは5年連続で首位を獲得しており、特に公共交通、基本的な衛生、教育、安全性で高いスコアを記録しました。

また、同じスイスの都市であるジュネーブとローザンヌも、それぞれ4位と7位にランクインしており、スイスがスマートシティ分野で高い地位を占めていることがわかります。

図1:世界のスマートシティー・ランキング
出典:スマート都市ランク世界5位、2ランク上昇/NNA ASIA

今回は、スイス・チューリッヒのスマートシティ戦略のうちの1つである、AR(拡張現実)(注1)とAI(人工知能)を活用した取り組みについてご紹介します。

(注1)ARは、Augmented Reality(拡張現実)の略で、現実世界にデジタル情報(画像、音声、テキストなど)を重ね合わせる技術です。これにより、現実空間とデジタル空間が融合し、よりインタラクティブで没入感のある体験が得られます。

チューリッヒにおけるスマートシティへの取り組みについて

チューリッヒのスマートシティ戦略では、AR(拡張現実)とAI(人工知能)を活用して都市のインフラや安全性を強化しています。

主な取り組み内容

1. ARを用いた都市計画

チューリッヒでは、ARグラスを利用して新しい建物や地下施設の設計を視覚化しています。

市の都市計画部門は、3Dホログラムを通してこれらを表示し、建設前に市民や観光客が未来の都市の様子を体験できるような取り組みを行っています。

図2: 3D 都市モデル
出典:City of Zurich

また、デジタルツイン技術を導入しており、都市全体の詳細なデジタルモデルを作成しています。これにより、建設プロジェクトの影響をシミュレーションし、騒音や洪水リスクなどの環境要因を考慮した計画が可能となります。

図3:デジタル ツインのデータ レベルと拡張子: 道路空間、樹木、考古学的オブジェクト、地下、送電線、BIM モデル、橋
出典:City of Zurich

2. AIによる市民の安全確保

チューリッヒでは、AIを活用して犯罪の発生パターンを分析し、特定のエリアでの窃盗リスクを予測しています。

具体的には、AIを用いて、過去データをもとに分析を行い、犯罪リスクの高いとされるエリアを特定し、警察のパトロール効率化に役立てています。

2013年に、本技術を導入して以来、チューリッヒでの強盗件数は2012年の年間約6,000件から、2020年には2,200件未満に減少しました。
(しかし、この改善がAIによる改善であるか、パンデミック等の他の要因によるものなのかを判断するのは難しいと指摘されています。)

さらに、AIを活用した群衆管理が大規模イベントの効率的な運営に役立っています。

特に、ストリートパレードやフェスティバルのような多くの来場者が訪れるイベントで導入されています。

具体的には、スマートフォンやIoTセンサーから収集したデータを分析し、イベント開催時における混雑の予測や密集地の特定が可能になります。

また、顔認識技術を用いて、不正アクセスやセキュリティリスクを減少させたり、専用アプリを通じて、現在地や行動に基づいた情報や、イベント内の最適な移動ルートを提供したりしています。

図4:WaitTimeシステム: AIを活用し、イベント会場のリアルタイムの待ち時間や混雑状況を把握し、来場者体験を向上させる技術
出典:WaitTime Crowd Intelligence

3.  デジタル化を通じた市民参加

チューリッヒは、オンラインの市民参加プラットフォームを提供し、都市開発に関するフィードバックを市民から収集しています。

また、スマートサービスのプラットフォームを通じて、結婚式の日程や手続き申請、税金計算・納税スケジュールの確認・支払いの手続き、習い事の登録などがオンラインで可能です。

図5:チューリッヒ市のポータルサイトにて可能なオンラインサービスの一部(税関連手続き、公共交通機関時刻確認、公共施設のレンタル申請など)
出典:City of Zurich
図6:オンライン税手続きのイメージ画像
出典:City of Zurich

これにより、市民の利便性が向上し、行政の効率化も図られています。

具体的な取り組みとして、以下の事例があります。

「My Zurich in Old Age」プロジェクト
高齢者向けの都市環境改善に関する意見を収集し、公共交通や福祉施設の整備計画に役立てる仕組み。

オンラインで住居や在宅医療・介護、健康、税手続きに関する相談や、アクティビティ等のリサーチ・参加等を行うことができます。

図7:チューリッヒ市公式サイトでのオンライン高齢者向けの支援サービス
出典:City of Zurich

 「Interface City – Quarters」
地区間および市民と市役所間のネットワーキングを強化するためのデジタルプラットフォームの開発。

パーティシパトリーバジェット(Participatory Budgeting)
市民が提案するプロジェクトに基づいて予算の一部を分配する仕組みをテスト。

これらの取り組みによって市民の満足度向上や、効率的な政策決定、透明性の向上などの効果が見られています。

▼Interface Cityについての記事/チューリッヒ公式サイト

課題と展望

ARとAIを活用したスマートシティ化の取り組みによって、市民の生活の質向上や都市運営の効率化が目指されていますが、プライバシーとデータ管理、技術的インフラの整備、デジタル格差の解消、プロジェクトの持続可能性(資金確保と、市民参加の継続的な促進)などといった課題も存在します。

 そのような課題に対応することで、より持続可能なARとAIの活用を行うことが可能となります。

今後の展望

  1. リアルタイムな都市管理

    • AIを用いたデータ分析により、交通渋滞の緩和、エネルギー効率化、緊急時対応など、リアルタイムで都市を管理する仕組みがさらに発展します。

  2. ARによる市民体験の向上

    • ARを用いた観光ガイドや、公共空間の案内システムが導入されることで、観光客や住民の利便性が向上すると期待されています。

  3. パーティシパトリーバジェットの拡大

    • AIを活用して市民のフィードバックをより効果的に分析し、参加型予算のプロセスが拡充される見込みです。

  4. 環境への貢献

    • AIがエネルギー消費や廃棄物管理の効率化を図り、カーボンニュートラル都市への貢献を目指します。

AIとARを活用したチューリッヒのスマートシティプロジェクトは、市民生活の向上と持続可能な都市運営を目指しており、現在進行中の課題に対応しながら進化しています。これらの取り組みは、他の都市にとっても貴重なモデルとなると考えられます。

最後に

ここまでご覧いただきありがとうございました。

本記事では、スイス・チューリッヒにおけるスマートシティ戦略である、AR(拡張現実)とAI(人工知能)を活用した都市計画の取り組みについてご紹介しました。

▼マガジン「海外事例で学ぶデータ活用最前線」の他の記事はこちらから!

 GEOTRAでは、独自の個人情報保護技術により、人々の動きや行動目的などが高粒度に可視化された人流データGEOTRA Activity Dataをご提供しています。更に人流データのご提供に留まらず位置情報データ全般に関する利活用促進のためのご支援を行っております。

当社事業概要、当社作成

▶資料請求・分析相談はこちら:https://www.geotra.jp/contents/contents_aboutGEOTRA

 noteでは、引き続きGEOTRAの事例紹介や活動報告、GEOTRAに関連するテーマの特集や事例研究を掲載していきます。

 今後も皆さんのお役に立てるコンテンツを配信できればと思っておりますので、皆様のいいね・フォローをお待ちしています!

弊社へのお問合せ先:
メールアドレス: sales@geotra.jp
Facebookプロフィール URL: https://www.facebook.com/geotra.jp