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定点カメラ#19 Scene1,Cut1,Take1,Track1

このカメラ、ちゃんと定められた点に固定されていたでしょうか。定点カメラとは名ばかりで、途中からそぞろ歩きするカトウの日記となってしまいました。それでも19回目を迎えられたのは、鴨川の如く漂泊するこの日記を五条大橋くらいで引き上げてくれるみなさんがいたから。危ない危ない、もうちょっとで淀川に合流するところでしたよ、ありがとうみんな。

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2022年9月15日 夕方

六曜社一階、奥の右側。後ろにレジのジャリジャリチリーンを聞きながら、撮影期間に思いを馳せよう。

ふと左を見ると、あの角には今日もハルが座っている。どうも落ち着かない。笑いながら「ノブくん!」と主演俳優の名前を呼んでも、怪訝な顔をしてまた本を読み始めそう。あぁ、ここは映画の中の世界か。

クランクアップから2日が経ち、私たちはポカンとしています。編集作業、上映会の準備、リターンの提供などまだまだやることは山積みですが、ひと段落着いた感じ。止むに止まれぬ撮影期間は、まるでトム・クルーズの操るF-18のように目の前をビュンッ。

2022年9月13日

「カット」

いつもはうるさい監督の、いつもと違う静かめの声が、撮影現場を染めました。この映画の一番最初のシーンは、2週間にわたる撮影の一番最後に撮ったんです。助監督として「シーン1、カット1、テイク1、トラック1」と唱えることができたの気持ちよかったなぁ。鞍馬天狗のように軽やかなカチンコの音も、もう聞くことができなくなりますね。初日が緊急事態で延期になり、外撮影が雨に流され、セミと工事に耳を攻撃されたけど、何とか31シーン全てのキャンバスを塗りつぶすことが出来ました。

最も大切な最初のシーンを、今日のこのチームで撮ることができて本当によかった。脚本を書き始めたあの日のあのチームにキャストさんを迎え入れ、美術監修をしてくれる仲間が加わり、録音技師や撮影助手も増えた。映画の完成を応援してくれるのは97人の変わった人たち。段々と一つになるのを感じた。最強。いぇい。

だからこそ最後に撮った最初のシーン、あのキャンバスに色が乗るその瞬間に、ハルが持つ筆先に全員の視線が集まっているのがわかったんです。そして「カット」の瞬間、異様な、でも何か分かり合えている様な静けさの中で、僕は「この映画を撮って正解だったんじゃないかな」と思いました。

クランクアップです。

みんなお疲れさま。みんなありがとう。そしてこれからも大変だけど、どうぞよろしく。いい映画にしたいね。この街で、この人たちと撮って良かったと思えるような、誇らしい映画に。この人たちに協力して良かったと思ってもらえるような、羽のような映画に。

2022年9月15日 宵

気がつけばハルがいなくなっている。ホタルに誘われて絵でも描きに帰ったか。外が暗くなってきたので、僕もそろそろ出ます。ご馳走様でした。言っとくけど、六曜社のホットコーヒーとドーナツがいちばん美味しいからな。他と比べるなんてはなはだナンセンスだよん。

文責:今日もあきら

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