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映画制作日誌|存在したら消えていくもの

例えば誰かの頭の中に、面白いことが浮かんでくるとする。そしてその誰かは、それについて自分のうちに留めておく。そうすることで、面白さに陶酔して、それは面白いまま、誰かの中に存在し続けることができる。と僕は思っている。

でも、自己陶酔のまま終わってはいけない、あるいはその陶酔を他者(自分以外の全てが陶酔に至るとは限らない)にも少しは感じてもらわなければならないのがいわゆる芸術だと僕は信じていて、そのためには、面白いものを内から外に向かって表現する必要がある。いや、表現したいという欲望が勝手にそうさせてくれなければ、芸術は、表現は、続きようがないと言った方が、的確だろう。

しかしまた一方で、外に出してしまった瞬間、幻滅することもある。思考の中で、AがBになることに魅力を覚えていたとしても、それが文字とか、絵とか、映像とか、音とか、とにかく何かしらの形で世界に存在し始めた時、酔いの熱が冷めていく。ということが、小説を書いているとかなりの頻度で起こる。

そして、失われた熱を感じて、自信までも消えていく。ということは、あんまり経験がないけれど、熱の放出と冷却が続いてしまったら、世界から自信まで消えてしまうかもしれないから、怖い。

でも、熱は冷めるものなのだと思う。高熱に侵されて死んでしまえば、身体は冷たくなるし、いくら大きな恋心を抱いても、小さくなっていくし、つまり何が言いたいかというと、浮かんで現れては消えていくものを、素直に受け入れていくしかないのだ。

今日はここまで。

2022.5.7  益田雪景

Photo: 監督


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