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【画廊探訪 No.134】金属の中の時の鼓動に耳を傾けて――「tagboat Art Fair 2022」橋本 仁作品に寄せて――

金属の中の時の鼓動に耳を傾けて

――「tagboat Art Fair 2022」橋本仁出品作品に寄せて――

襾漫敏彦

 無機物は、時そのものである。無機物の代表ともいえる鉱物は、深みの中に沈み重ねられて、圧力の中でゆっくりと生成されていく。様々なものが地球の中心へと引き寄せられ、熱と圧の中で、胎児のように育まれて、様々な鉱物として生をうけていく。

 橋本仁氏は、一途で多様な表現を持つアーティストである。彼は、鉄、金属の工藝と出会い表現活動を始めたが、いまや、その主題を深化させんとして、新しい試みへと進み、歩みつづけている。

ART FAIR2022  橋本仁ブース風景

  今回の展示は平面作品としていいだろう。何層にも塗り重ねた土台を作成し、木を彫るように彫刻刀で曲線を彫りだしていく。それは、あたかも日時計の影が動いたような円環の一部のようである。

 色彩の合板を削った跡に顕れるのは、地層のような蓄積の層である。橋本は、積み重ねられた時を、もしくは重ねられていく時を重層する色彩の旋回の曲線(カーブ)で再現する。

 

橋本仁作品

 無機物と有機物、鉱物と生物、それは時の意味を異とするものである。鉱物が時の蓄積としたとき、生物は時の交易である。生物は交換と組み換えによって成立する。摂取、そして廃棄をくりかえしては、自らを組みかえていく。鉱物の世界とは異なり一定の比重の枠で生きるため、本質的には重さの概念はないのである。

 ある特殊な生物――人間――が、鉱物を地中より引き出し錬成して利用するようになった。蓄積された時の結晶をほどき、他の物との交換を繰り返して新しい意味を付加していく。組み換えられた金属はその瞬間から新しい時を集めはじめる。表面から内側へ水や酸素を含みはじめる。しかし、人はその事を忘れる。

橋本仁作品

 時を刻む技術をもちながら、その重みと優しさを忘れ始めた人間に、大宇宙の時の運行をその身に刻む金属の哲学を、橋本は理解し、伝えようとしているのかもしれない。

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橋本仁さんの公式サイトです。


tagboatでの紹介サイトです。インタビューなど貴重な映像など満載です。

上のサイトにもあるのですが、わかりやすい制作風景です。


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