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【テレビドラマ】~現在BS-TBSで再放送中の山田太一脚本『沿線地図』(1979)が面白過ぎる~

本noteに何回か書いているように、私は山田太一氏脚本のテレビドラマ(以下:山田太一ドラマ)を数多く観ている。以前有料BS「日本映画専門チャンネル」の特集「山田太一劇場」で放送された作品の多くは、ブルーレイレコーダーに録画し、ディスクに保存。

現在、月金でBS-TBSで放送されている『沿線地図』(1979 TBS 全15話)は、これまで観る機会がなく初めて観る山田太一ドラマ。昨日までに第10話までが放送され、一部はティーバーでも観れる。来週はいよいよ11話~15話。
同じTBSの山田太一ドラマだと、代表作の一つ『岸辺のアルバム』(1977)とこれも同じく代表作の一つ『想い出づくり。』(1981)のちょうど中間の時期に当たる。

今更山田太一ドラマが面白く、素晴らしいといっても始まらないが、とにかく面白く、毎話飽きることなく観てしまう。

主となるストーリーは極めてシンプルだ。

東京の私鉄(東急)沿線で電気店を営む河原崎長一郎と妻の岸恵子、成績のいい一人娘の高校生が真行寺君枝(私の世代だと「資生堂」のCMで有名=下記YouTube)。

一方、大手銀行の支店次長のエリート会社員の児玉清と妻の河内桃子(いうまでもなく『ゴジラ』第一作のヒロイン)、そしてやはり成績のいい(東大受験を目指している)一人息子に広岡瞬。児玉清の父親役に、一人で二子玉川のアパート暮らしをしている笠智衆

真行寺と広岡は同じ高校生同士で知り合い、付き合うようになる。
そして二人は、親の期待する安定した将来(一流大学に入って・・・)に疑問を持ち、二人で家出して、アパートを借り、広岡は青果市場、真行寺は食堂で働く。

これまで放送された第1話から第10話は、家出して同棲している真行寺と広岡の生活と成績もいいのに高校中退して働いている二人の揺れ動く思い、そして、二人の居場所をなんとか見つけ出し、連れ戻そうとする河原崎、岸、及び児玉、河内の親たちの生活と考え。要は2つの家庭の親と子の対立を繊細に描いているドラマだ。

最近の映画やドラマに多い、急転直下でスピーディなストーリー展開ではなく、日常生活を淡々と描いている。それでも全く飽きずに、「この後どうなるのだろう」と毎話ドキドキしながら観てしまう。

これは以前本noteに書いたが、私が数多い山田太一ドラマの傑作の森の中で、リアルタイムに観たこともあり最高傑作と評しているのは、今社会の関心の的となっているフジテレビで2009年に放送された『ありふれた奇跡』なのだが、今回の『沿線地図』も相当気に入った作品となった。あと5話あるのですべて観るつもりである。

毎話、グッとくる、そして考えさせられる素晴らしい台詞が飛び交うのだが、本作には「くすっと」笑ってしまうユーモラスな場面や台詞もある。
私が気に入ったのは、児玉と河内が行き付けのフランス料理店(自由が丘あたり)を指定して、そこに河原崎と岸がやってくる。4人で食事をする。電気店に帰宅した河原崎、岸夫婦の会の次のような内容の会話。要は悪口!
台詞は正確な再録ではない。
「あんな気取ったフランス料理店なんかを予約しやがって」(河原崎)
「私たちは普段からこんな店に来てるのと威張りたがったに違いない」
  (河原崎)
「そうよ、私はフランス料理なんか大嫌い」(岸)

このドラマの撮影時期、岸恵子はパリに住んでいて、このドラマの出演のために4か月間日本にいたらしい。その岸恵子にこういう台詞を言わせるのは山田太一の洒落っ気爆発という感じ。こういう上品なユーモアが少しでもあると映画でもドラマでも幸福な気持ちになれる。ダメな映画やドラマにはこういう上品で洒落たユーモアが無いのである。

最後に、一つマニアックなポイントを。

『沿線地図』で重要な舞台の一つが、新井康弘がマスターをしているスナック兼喫茶店のような店「かもめ」。新井は真行寺を好きだったこともあり、真行寺とは電話(当時のドラマなので携帯ではなく黒電話や公衆電話)で連絡をとりつつ、両家の親の動きを伝えたりしている。「かもめ」には子供の情報を得るために岸と河内の母親たちはよくコーヒーを飲みに来る(たまには水割りを飲むことも)。

店の名前の「かもめ」だが、何話かを観ていると時に、はっと気づいた点がある。それは山田太一氏とは親しいシナリオライター仲間であり、ライバルでもあった倉本聰氏脚本の『6羽のかもめ』(1974~1975 フジテレビ)
ちなみに私はあまり多くは観ていない倉本脚本ドラマでは、本作が最高傑作だと思っている。

淡島千景が代表の「劇団かもめ座」とテレビ局(河田町時代のフジテレビが登場)を中心としたストーリー。そして劇団の所有するマンション(そこに劇団員たちは住んでいる)の1階にある喫茶店が、もう一つの重要な舞台となる。
店の名は、店主のディック・ミネから「喫茶店ミネ」。
個人的には「かもめ」という名前は、このドラマへのオマージュのようにも思えるのだが・・・



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