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【テレビドラマ】~山田太一脚本「沿線地図」の中の印象深い+驚きの台詞とは?~

先週の金曜日(1/31)に最終話(15)話で終ってしまった「沿線地図」(BS-TBSで放送)。

私は10話まで観て、続きの11話から15話までの展開を早く知りたくて、「沿線地図」のシナリオ本(山田太一作品集6 沿線地図 大和書房 1985)をPCで検索。地元の図書館にあり、かつ貸出中ではないということを知り、10話の翌日の土曜日に図書館で借りてきた。その日のうちに11話~15話の最後までを一気に読んだ。

山田太一作品集6 沿線地図 大和書房 1985

私は映画のシナリオを読むのが好きで、シナリオを読むのは慣れている。
そして、映画でもテレビドラマでも、より深く作品を理解するには文字のシナリオを読むのが欠かせないと考える。俳優の台詞は音声なのですぐに消えてしまうし、よく聞き取れない場合もある。音なので言葉が正確に伝わらないことも(例:天才、天災など)。

「沿線地図」のシナリオを(1話から10話はパラパラと)読んで、新たに気づいた点がいくつかあった。

例えば、別の高校に通う藤森道子(真行寺君枝)と松本志郎(広岡瞬)が知り合い、お互いに惹かれていく第1話。前述のシナリオ本のP11:
~(略)~
道子「おたくって、そういう人? 規則とか常識とか、そういうことに、すぐ従っちゃう人?」
志郎「すぐ従うってわけじゃないけど(といい返そうとする)」
~(略)~
真行寺が広岡のことを「おたく」と呼んでいるのは、ドラマ視聴の時には気付かなかった。
広岡は真行寺のことを普通に「君(きみ)」と呼んでいる。

「おたく」という言葉は、令和の今使う意味(マニアックな人?)とはおそらく違うだろう。
このドラマは1979(昭和54)年の放送なので、当時私は大学2年生だったが、「おたく」という言葉はあまり聞いた記憶が無いし、自分で使ったことも無かったような・・・
文字で読むと、台詞による人物の性格の表現がダイレクトに伝わって来る。好きになった高校生の男の子のことを「おたく」と呼ぶのは、真行寺のクールな感じがよく出ているのでは。さすがの山田太一脚本!

真行寺は野菜市場の近くの大衆食堂で働く。
「そういえば山田太一氏の生家は、浅草で大衆食堂をやっていたとエッセーによく書いていたな」と気付いた。

さて、ドラマの中で印象深い場面や台詞が何かは人によって異なるのは当然だが、タイトルに書いた私が本ドラマ(シナリオ)で、最も印象深い+驚きの台詞は、シナリオ本を読んでいる時に見つけた第13話の一節。
もちろんこれはBS-TBSの放送も録画して視聴した。

夫・茂夫(河原崎長一郎)の態度に何か怪しさを感じている妻・麻子(岸恵子)。電器屋(シナリオ)の夫婦。
そんな話を行きつけのスナック「かもめ」で、保険外交員の美代(三崎千恵子=『男はつらいよ』シリーズのおばちゃん役)に聞いてもらっている麻子。

山田太一作品集6 沿線地図(大和書房 1985) 第13話(P300~P302)より
引用

P300
~(略)~
麻子「ただ、なんだか妙に目をそらすとか、やさしくなったりとか、変な時に慌てたり」
美代「そういうのはね」
麻子「ええ」
美代「いってあげるといいわ」
麻子「なんて?」
美代「一発で分る方法あるのよ」
麻子「一発で?」
~(略)~

読んだ時の感想:「一発で(夫が浮気かどうか)が分る方法って?」(笑)


P301
●二階・夫婦の部屋
~(略)~(説明=寝ている夫・茂夫を起こす麻子)
麻子「私、知ってるのよ」
茂夫「うん?(と眠りからさめない)」
麻子「知ってるの。なにもかも知ってるの」
茂夫「(目のあたりをこすっていた手が止まる)」
麻子「起きて。私、全部知ってるんだから」
茂夫「(手をゆっくりおろしながら)全部って、なにを?」
麻子「なにをって、これだけいえば分るでしょ。全部よ。なにもかもよ」
茂夫「(起き上る)」
麻子「お父さん、こっちを向いて。そっち向いちゃいけないわ。こっち向いて(思わず激しく)」

P302
茂夫「(真顔で振り向き)今日か?」
麻子「え?」
茂夫「今日、あの人がいったのか(と目を伏せる)」
麻子「え?(と声にならないショック)」
茂夫「いいか。どうかしてたんだ。大げさに考えることじゃないんだ。一度だけのことだ。二人とも、どうかしてたんだ。許してくれ。許してくれ(と深く顔を伏せる)」
麻子「(ショックのまま、小さく)お父さん-(悲しい)」

「沿線地図」(全15話)を観た方はおわかりだと思うが、茂夫(河原崎長一郎)が言うあの人とは、銀行員=松本誠治(児玉清)の妻=季子(河内桃子)、そして志郎(広岡瞬)の母親のこと。茂夫と麻子の一人娘の道子と家を出て同棲している。

麻子(岸恵子)は父親の危篤の知らせで四国、誠治(児玉清)は大阪出張中の時に、スナック「かもめ」で酔った季子と茂夫は、茂夫の家の茶の間でキスをしてしまう。(第11話~第12話)

先日のフジテレビの10時間超え記者会見では、一部の記者からの質問が長いと不評だったが、確かに質問は短いほど、相手に刺さる。
会見の質問や説明とドラマの台詞では単純な比較はできないが、麻子の「私、知ってるのよ」「知ってるの。なにもかも知ってるの」は、凄すぎる!
たたみかけるような短い質問に追い詰められた夫は、簡単に白状してしまうのだ。
プロ野球の投手が、160キロのストレートと変化球の組合せで、打者を三振にとるような感じかな(笑)。

この台詞は、浮気以外の様々なシチュエーションでも、相手の嘘を暴くために効果的な台詞だなと感心した。されたらかなり怖いが(笑)。
シナリオ本で台詞は読んでいたが、実際の河原崎長一郎と岸恵子の演技と台詞には圧倒された。
ともかく個人的にはこの場面が「沿線地図」で最も印象深かった。

「沿線地図」は全体的にはシリアスで家族のことを考えさせられる深いドラマであるが、よく見ると「くすっと」笑ってしまうシチュエーションや台詞も多かった。広岡瞬の上司の岡本信人の台詞も何度も笑った。

傑作「岸辺のアルバム」はあまり笑える要素が無かったと感じていて(映像だけでなくシナリオ本も前に読んでいる)、個人的には「岸辺のアルバム」よりも「沿線地図」の方が好みだ。

有料BS「日本映画専門チャンネル」では、これまた山田太一ドラマの傑作「早春スケッチブック」(1983 フジテレビ 全12話)が3月に放送される。
これがまた凄いドラマ!
3/13 第1話~第6話 3/14 第7話~第12話(最終話)と一気に放送される。
下記参照。

そういえば、「早春スケッチブック」では、岩下志麻(綺麗!)の夫役の河原崎長一郎は、地方銀行に勤める銀行員役だった。

河原崎長一郎の母=しづ江(女優=芸名:山岸しづ江)は、岩下志麻の母=美代子(女優=芸名:山岸美代子)の姉なので、ドラマの夫婦役の二人は実のいとこ同士である。


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