配偶者・パートナーの立場からみえること
みんなねっとサロンのなかで配偶者・パートナーのお立場のみなさまからのお悩みが多く寄せられています。
これに関連した当会で発行している月刊みんなねっとの2018年4月号に参考になる記事ございますので、特集配偶者・パートナーの立場からみえること(P6~P13)をこちらに紹介いたします。
配偶者・パートナーの立場からみえること
杏林大学保健学部作業療法学科
精神に障害がある人の配偶者・パートナーの支援を考える会
前田 直
家族会の輪に入れない配偶者
精神に疾病をかかえていても、恋愛や結婚、子育てをすることは、あたり前の時代になりつつあります。
平成15年の厚生労働省の調査によると、精神障害者のうち結婚をしている人の割合は34.6%でした。精神障害者は392万人を数えるようになり、「配偶者」の立場にあたる人の数は100万人を超えていると推測されます。
当事者と生活を共にする家族には、様々な困難が生じていることが広く知られています。家族は家族会を結成し、互いに手を取り合いながら問題解決の道を探ってきました。しかし、これまでその輪の中に「配偶者」の立場はなかなか入り込むことができていませんでした。みんなねっとでは、平成29年度に全国家族会調査を実施し、全国の会員から3126件の回答が寄せられました。しかし配偶者の立場からの回答は125件、全体の4.0%に過ぎません(表1)。
なぜ配偶者は家族会の輪の中に入ることができないのでしょうか。配偶者は家族の中で唯一「血のつながり」がありません。家族会に参加した配偶者は、次のような言葉をしばしばかけられます。「病気の症状で生活は大変でしょう。それなのに、どうして一緒に暮らしているのですか?」質問をした家族に、決して悪気があるわけではありません。それでも、それを受けた配偶者は「暗に離婚を勧められている」と感じてしまうかもしれません。
実際に家族会の場で離婚を勧められたという配偶者の方もいます。「夫婦円満に暮らせるようになりたい」という小さな希望は、親の立場の方の「うちの子は結婚なんて絶対無理だから。そういう病気にかかってしまったのだから」という悲哀の中に埋没してしまいます。特別なことを言われなくても、「家族会はあるものの、当事者がお子さんのケースがほとんどなのであまり話がかみ合わない印象を受けた」という配偶者の人は少なくありません。
配偶者・パートナーの会の立ち上げ
配偶者の立場で集まれる場を作りたい。そんな声に応えるために、平成28(2016)年6月に「精神に障害がある人の配偶者・パートナーの支援を考える会(以下、配偶者の会)」を立ち上げました。みんなねっととの共催で、同年9月より「配偶者の集い」を開催しています。平成30(2018)年1月までに計9回の集いが開催され、延べ158人の方が参加されました。
参加者の年齢は、30代~40代が中心です。この世代の配偶者は、育児をしている人もたくさんいます。「小さな子どもを家において、家族会に参加できない」そんな声もあがります。そこで配偶者の会では、子連れの参加者のために保育ボランティアを用意しました。保育ボランティアを利用した子どもたちは、これまでに延べ40人に上ります。
「同じ立場の人たちで集まる」「保育ボランティアを用意する」環境を整えることで、配偶者の会は既存の家族会と比べて参加者の構成に変化がみられました。みんなねっとの家族会調査では、配偶者の立場は男性が6割以上を占めていましたが、配偶者の会では参加者の6割強が女性です(表2)。
精神的に追い詰められている配偶者
みんなねっとの調査では、家族の精神的健康度を調べるためにK6日本語版という尺度を使用しました。過去30日の間に「神経過敏に感じましたか」など6つの質問項目を、全くない、少しだけ、ときどき、たいてい、いつもの5つの選択肢から選んでもらいます。選択肢に応じて点数がつけられ、合計点数が5点以上であれば、うつ病や不安障害の可能性が高いと言われています。この調査で、男性配偶者の60.5%、女性配偶者の70.7%が5点以上の得点を示していました。特に女性配偶者は「親」や「兄弟姉妹」、「子ども」など他の立場に比べて、最も高い割合を示していました(表3)。
配偶者の集いでも、「自分も精神的にまいってしまい2度うつ病を発症し、その後転職した」「頑張っても頑張ってもむくわれない」「今後は不安だらけ。毎日気力のみでがんばってケアをしている」といった内容が話し合われています。
ダブルケア、トリプルケアに悩む配偶者
みんなねっと家族調査では、回答者からみて精神障害のある人はどの続柄にあたるかを調べました。精神障害のある方が複数いる場合、該当する全てを回答してもらいました。配偶者の立場125名中、家族の中に複数の精神障害がある人は31名に上りました。そのうち、「子ども」に障害があるという人が最も多く、26名でした。配偶者のケアに加えて、子育て、さらには発病した子どもの世話など、ダブルケア・トリプルケアに悩む配偶者の姿が浮かび上がりました。
配偶者の集いでも、「娘も病気になり、私は4年くらい東京から一歩も出ていない。旅もしていないので、自分を上手くいかせる、ストレスから少しでも離れる工夫をしている」と話す女性がいました。
病状が悪化したときの状態と配偶者が経験する暴力
本人の病状が悪化してしまったとき、夫、妻ともに多くの人が「意思の疎通がうまくとれなくなる」「家族に対する暴言や暴力」「飲食をとらない、眠らない」「部屋に閉じこもる」などの状況を経験しています(表4)。加えて、夫の立場の40.3%、妻の立場の31.0%が「(本人が)自殺を試みようとする」ことを経験していることは、驚くべき実態です。
多くの配偶者が、何かしらの暴力を経験しています(表5)。「暴力の経験がない」と答えた配偶者は、夫で22.4%、妻で26.3 % に過ぎません。配偶者の間で行われる暴力は、いわゆる「DV(DomesticViolence)」と呼ばれています。一般的なDVでは被害者は女性であることが多いですが、精神障害者の場合はその限りではなく、暴力の発生頻度に男女差はありません。
相談先がなく 孤立する配偶者
愛する人が病気になったとき、配偶者が最初に越えなければならないのが「親族の壁」です。親族から理解を得られないことで苦しんでいる配偶者が沢山います。特に、親から責められてしまう配偶者が多くいます。精神疾患への偏見は根強く、「誰かのせい」にしてしまいたい親の気持ちは分からないわけではありませんが、立場が弱い配偶者にとっては、とてもつらい現実です。
配偶者の会には「義父母に話が通じにくい。息子の精神病を認めたく無いようだ」「夫の母親に病気の理解が無く、夫の意向で隠している。夫は普通に就労し収入を得ていることになっているので、話を合わせ、隠し通すのも大変。頼るどころではなく、返って気を遣うばかり」「夫の親族と病気が原因でケンカ。今後どうしたらよいか、困るというより不安。私は縁を切りたい」といった、切実な相談が寄せられます。
福祉制度につながることにも苦労します。相談窓口は、基本的に平日しか開いていません。仕事や家事、育児をかかえている配偶者は、相談すらできないこともあります。何とか相談窓口にこぎつけても、無理解にさらされることもあります。ある女性が保健所の地域担当に医療や社会資源など有効な情報がないか尋ねたところ、「調べた結果、情報が無いとわかりました。情報が無いという回答も、情報の一つですよね」と返されてしまったそうです。子どもへの影響が気にかかると相談すれば、「ご主人がお子さんに何かするのですか? 」と聞き返されます。この女性は、「万が一、教育委員会や児童相談所に通報されたりすることで、子どもの生活や進学に悪影響を及ぼしたくないので、相談を断念しようと考えている」と仰っていました。
子どもの養育に影響が出る
精神疾患を抱えた当事者と一緒に子育てをしている人の実数や実態は明らかになっていません。そのような中で、配偶者の会を訪れる人の6割以上が子育てを経験しています。
当事者とともに歩む子育ての道は、決して平坦ではありません。「当事者がイライラして子どもたちにあたってしまう」ことがあります。「子どもは大きくなるにつれて状況をより把握し、顔色をうかがう」ときがあります。「子どもたちが希望する習い事や進学先に応えることができなかった」と涙する方もいらっしゃいました。
子どもたちに親の病気をどう説明するかはとても難しい問題です。子どもの支援に取り組んでいる方々は「説明するべき」と言いますが、子どもたちの反応は様々で、そこに向き合う配偶者の負担は尋常ではありません。
そのような環境の中、配偶者の会では配偶者とともに集いに訪れる子どもたちを対象に、新しい試みを始めました。小学校高学年~高校生くらいの子どもたちを対象に、「子ども向けミーティング」を開催しています。20代~50代の「精神疾患を持つ親に育てられた成人した子ども」の立場の方に運営をお願いしています。数少ない、小さな子どもたちへの直接的な支援です。参加した子どもたちの親御さんからは「子どもたちは何度も参加して良かったと言っていた。親にも話せず、溜まっていたものを吐き出せたようだ」という声が届いています。
家族全体の支援へ
みんなねっとの調査では、障害者総合支援法のサービスについて「どれも利用していない」と答えた配偶者の割合は、男性配偶者で52.2%、女性配偶者で61.1%でした。半数以上が福祉の手を借りず、当事者をみている状況をどう考えたらよいでしょうか。
当事者の介護と生活に追われ、せめて「家事の支援」を望んだとします。女性が当事者で男性が配偶者の場合、支援につながることは比較的多いように思います。ところが、男性が当事者で女性が配偶者の場合、「家事は女性がやるもの」というジェンダーの固定観念から、なかなか支援につながりません。
家族全体を支援するには、予防的な観点が必要です。例え「いま」症状が落ち着いていたとしても、良い状態を継続していくための方法を考えなければなりません。「何か」が起きてしまってからでは遅いのです。配偶者の多くが経験する「自殺企図」は、起きてしまってからでは取り返しがつきません。一度でも配偶者に暴力が向かってしまったら、支えようという気力がそがれてしまいます。仮に暴力が幼い子どもに向かってしまったら、子どもはどんな気持ちを抱えるでしょうか。
子どもの虐待を例にみると、親の精神疾患は危険因子の一つであることが否めません。しかし、全ての精神障害者が虐待をするわけではありません。発生の要因に、物理的な支援の不足があることが指摘されています。訪問看護や訪問介護といったアウトリーチのサービスは子どもの養育にとって有用で、それは配偶者の生活においても同様です。また、精神保健福祉分野と母子保健など、他領域にまたがる支援の仕組みが、互いに連携をとることも重要です。
配偶者を支えることは家族全体を支えることにつながります。現在、配偶者を支援する取り組みは、東京で実施されている配偶者の会、東京の集いに参加した配偶者が函館で立ち上げた「配偶者の会@はこだて」、京都精神保健福祉推進家族会連合会が2か月に1度開催している、「精神に『障害』のある人の配偶者の集い」、福岡県内で実施されている「配偶者の立場向けの家族交流会」など、一部に限られています。
家族による家族学習会は親の立場を中心に始まり、「兄弟姉妹」「子ども」の立場へと広がってきていますが、未だ配偶者向けにはプログラムが確立できていません。家族会としての取り組みにも、課題が山積しています。
本特集をきっかけに、配偶者支援の輪が全国へ広がっていくことを期待しています。
(まえだ すなお)
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