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家族相談の現場から

みんなねっとや全国各地の家族会では、家族を対象とした家族相談をおこなっています。そんな活動の中の相談事例をご紹介いたします。家族・当事者の現状や気持ちを多くの方に知っていただけたらと思います。
また、同じような悩みを持つ方の一助となれば幸いです。ご感想お待ちしております♪ 

娘の暴言暴力に悩む相談


先日、新聞で精神障がいの当事者から家族に向けて、暴力行為が頻発している旨の報道がなされました。この記事を目にした家族の方から、以降急に、「わが家も実は…」という、家族から実情を訴える電話が増加するようになりました。日頃から相談を担当するものとして、やはり社会に訴えることを躊躇(ちゅうちょ)して日夜苦しんでおられる姿を、垣間見る思いになりました。

■相談者の悩みの事例から


今年1月、家族から一本の電話が入りました。内容は「最近30代の娘からの暴言・暴力に悩まされています。その内容が少しずつエスカレートするようなので相談したい」ということでしたので、日を置かないで面談する機会を持ちました。
 娘は20代後半に発症しました。「原因として考えられることは、短大時代いじめから孤立するという状況になったことがあると思われます。病状から入院が必要であるとして一度は入院させましたが、4人部屋のつくりから周囲のささやきが気になり、退院したい旨、本人から申し出があったのでこれを受け入れました。医師が引き止めたのですが(親はこれを聞かずに)退院の措置をとりました。しかし、病状は最近悪化するようになり、殺すとか言って、再三、警察のお世話になっています」ということでした。しかし、このあと、服薬は中断するようになり、病気は一層悪化の一途をたどる状態になりました。
 4月に入り、いつものように暴言を繰り返したのち、お決まりの暴力で警察が来宅し、娘を有無も言わせず警察署へ連行しました。両親が呼び出しを受けて警察署へ向かったのですが、その場で突きつけられた衝撃の事実は、一瞬わが目を疑ったと言います。警察から突き付けられた事実というのはこうです。
 「そこには、昨年、某所で男性に暴力行為を働いている女性の姿が映し出されていました。まぎれもないわが子でした。この男性から傷害で訴えが提出されており、ついては、この場で本人を逮捕します」ということでした。
 翌日、私共家族会の事務所に電話が入り、法律相談できる弁護士の手配を依頼されたので、その事態を受け止めて手配を終えました。彼女は措置入院となり、約2か月入院しました。退院後の現在は、自宅で比較的安定した生活を送っています。

■相談事例から学ぶ


 今回の事例から我々が学ぶべきことは多岐にわたりました。
 相談者の両親は、相談と同時に家族会に入会し、他の会員と交流を深めてきていました。 相談者の事例についても、退院後の家族会例会において、この問題について意見を交わしました。そこで、相談者(親)が考えを次のように述べました。
 「娘の病状から判断し、私は、このまま病院に置くことによって、むしろ回復が遅れると判断したということです。同時に薬さえ服用してくれるならば、徐々に急性期からの脱出をはかることも可能ではないかと思った」
 その際、他の参加者からは「治療者の判断に従い、回復への緒につくまでは、病院側の判断を優先すべきではないか」という意見も出され、相談者の考え方に疑問符を投げかけました。
 相談担当者としては、その場において仮に服薬拒否になるとの場面を想定すると、暴力行為を助長してしまうことになりはしまいかというアドバイスが必要であったと思っています。
 不幸にして、事態は一層悪化の方向に展開しました。ついには暴力行為、警察への通報(この方の場合、当事者自ら通報措置を取るのが通例でした)となり、当事者がその場で確保され連行されることになりました。
 過去の暴力行為にあった「逮捕され、拘留、検察へ」という流れに対して、両親から犯罪者のレッテルを張らせてはいけないという強い思いがあり、家族会の相談室へ弁護士を紹介してほしいという依頼があったので、直ちに両親と弁護士との相談時間を設定し、必要な対策をとることになりました。
 弁護士との相談から、告訴側との示談交渉(告訴取り下げを含め)を進めるとともに、強制入院の措置をとり、今回は治療に専念することになりました。

■その後


 この両親は、その後も例会に参加され、当事者が3か月後に退院したことを報告し、現在、安定した生活を送っていることなどをお話しくださいました。
 退院後、当事者が、薬の服用について医師の指示を忠実に守り実行していることに、家族はとても感謝しているということでした。同時に、家族として、娘である当事者が病者であるという立場を理解し、今、当事者が抱えている生活のしづらさ・困難さに、家族も積極的に向き合って傾聴していこうとしていることが表明されています。
 そして、この事例は、家族会が、個別の相談事項を所属する家族会員それぞれが共有することの大切さを証明しているのではないかと痛感しました。

■編集担当からのコメント


 この事例の重要なポイントは、「日を置かないで、面談する機会を持った」ことだと思います。暴言、暴力に悩む家族はとても多いのですが、その緊迫感が相談機関にはなかなか伝わらないのが現状です。家族の苦しい状況を即座に察し、相談に乗り弁護士を紹介する具体的支援をした相談員の方に頭が下がります。
 まだ若い娘を初めて精神科病院に入院させた親の気持は、あまりに悲しく可哀そうでならないという思いが強いのは、共感できることでもあります。そのため本人の訴えに応じて退院させてしまうことも少なくありません。相談した家族は相談員の対応に信頼感を持たれたのでしょう。すぐに家族会に入り、心境を語り、家族会もそれに応えています。この家族はこれから家族会でいろいろなことを学んでいかれるでしょう。
 今は服薬し安定しているとのこと、良かったと思うと同時に、実際には遅れている再発予防と医療中断に対する迅速な対応という視点での、精神科医療の体制づくりの重要性を改めて感じました。

(出典)精神障がい者家族相談事例集 公益社団法人全国精神保健福祉会連合会

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