家族相談の現場から
自己中心的な父親とひきこもりの息子との関係に悩む母親
■相談内容
息子は精神の障がいがあり、障害年金2級を受給しています。家族は夫(70代)と3人暮らしです。息子は感情や行動のコントロールが難しい部分があり、対人関係が困難な場合があります。
父親(夫)は定年退職し在宅での生活です。以前から短気で怒りっぽく、暴力を振るうこともありました。息子の病気を理解しようとする気持ちがなく、働けない息子を、ふがいなく思い、また世間体も悪いと考え、息子に対して否定的です。母親(妻)に対しては、息子の育て方が悪い、しつけができていないと非難します。
息子は2階の自室に、ひきこもって過ごし、食事は母が持ち運んでいます。息子は、階下にいる父親とできるだけ顔を合わさないようにしていますが、トイレが1階にあるので、トイレ使用時は父親と顔を合わさないようにするなど、母子でビクビクしています。
父親は、息子や母親が音をたてたり、何か気に入らないことがあると、「お前達は、この家にいる資格がない」と罵声を浴びせたりもします。この性格は以前からのもので、一時は自分たち(母と子)が家を出ることも考えたのですが、経済的な理由のため不可能でした。
定年後、この父親の自己中心的なところは、ますますひどくなるようです。一度警察の人に来てもらったことがあり、しばらくは、おさまったのですが、また、元のようになっています。他の子どもたちは独立し、家に寄り付きませんし、親族とも絶縁状態になっています。
息子は、以前デイサービスに行ったり、就労支援センターに行ったりしていたこともあるのですが、どちらもスタッフの人達と、上手くいかずセンターへ行けなくなりました。また、グループホームに入居していた時もあったのですが、問題を起こし退所させられました。現在の状態では、一人暮らしをさせることは無理だと思います。息子は、父に対する憎しみを募らせており、父親のいないところで「殺したろうか」「首絞めたろうか」と言っております。
この先、どうなるのか、何が起こるのか心配です。
訪問看護をお願いすることも考えたのですが、父親は、よその人が家の中に入ることを嫌っており、そんなことをすると、あとで何を言い出すか、何をされるか心配でできません。
■対応内容
お母さんが、ご主人と息子さんの間に入って、毎日ハラハラしながら生活しておられ、ご苦労されている様子で、つらい思いをされていると思います。
できれば、家族が当事者への接し方を学び、協力しあって、当事者の回復を高めるようにしたいのですが、ご主人は、気難しく、威圧的な方のようです。少しでも、母子に対する接し方を改めていただくよう、お母さんがご主人に、感謝の言葉をかけられてはいかがでしょう。
「私や息子が、この家に暮らしておれるのは、あなたのおかげ」とか、どんな小さなことでも言葉にして、感謝の思いを伝えられたら、少しは、気持ちも和らいでこられるかもしれません。
家族だけでは、どうにもならない時は、第三者の助けが必要です。今のままでは、ご主人にも、良くない状態のように思います。外部の人に家の中に入ってこられるのは、はじめは抵抗があるかもしれませんが、家の中に新しい風を入れるつもりで、訪問看護を試されてはいかがでしょう。私(家族相談員)の知っている例では、当事者の方も、家族の方も、訪問看護師の方が来られるのを心待ちにしておられ、当事者の方が、お茶の準備をして待っておられると聞きました。何か、新しいことを試みられると良いと思います。他の方にも相談され、今の状態を打ち破る方法を見つけて下さい。
■編集担当からのコメント
この相談者は、自己中心的で本人の病気に理解のない父親をかかえる母親です。父親は働けない本人をふがいないと思い、「育て方が悪い」と相談者を非難します。相談者はただでさえひきこもりの本人の対応で大変なのに、本人と父親は仲が悪くいつも板挟みになり困惑している…皆さんの身近でもよく耳にする話だと思いますが、このような困難な事例にもよく対応されています。
相談員が受ける相談は一朝一夕に結論の出ることばかりではありません。むしろ答えの出ない相談のほうが多いです。この理解のない父親の考えを変えることはそう簡単ではないでしょう。まずはじっくりと相談者に向き合い、そのつらさに寄り添うことが当面の対応方法かと思えます。すぐに具体的な解決方法を示せなくても、時間をかけてゆっくり話を聴くことで、家族の状況が変化することを期待しつつ相談を続けていきましょう。
(出典)精神障がい者家族相談事例集 公益社団法人全国精神保健福祉会連合会