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子どもの立場からみえること

みんなねっとサロンのなかで子どもの立場のみなさまからのお悩みが多く寄せられています。
これに関連した当会で発行している月刊みんなねっとの2018年5月号に参考になる記事ございますので、(P5~P13)をこちらに紹介いたします。

子どもの立場からみえること

埼玉県立大学保健医療福祉学部看護学科
教授 横山恵子

精神疾患により医療機関にかかっている患者数は、近年大幅に増加しています。厚生労働省の平成26(2014)年患者調査によると、精神疾患の患者数は392万4千人で、その疾患の内訳は、うつ病、統合失調症、不安障害、認知症の順に多く、近年は、うつ病や認知症の著しい増加がみられます。精神障がい者の6~8割が家族と同居しており、家族が実質的に患者のケアを担っているのが現状です。

そのような中、医療や福祉の場で精神障がい者家族への支援が注目される時代になってきました。これまで支援者は家族を本人の介護者として捉えて、家族の困難に目がいきませんでしたが、やっと家族を生活者として捉え、家族支援が重要であると考えるようになりました。また、家族によるピアサポートも始まり、最近では、支援者のパートナーとしての家族という捉え方もされています。

家族には、親、配偶者、きょうだいなど、様々な立場の家族がいます。しかし、精神医療や福祉の中では、家族というと、それは主に親や兄弟をさす言葉でした。特に、子どもは家族でありながら、支援の対象外に置かれてきました。

精神障がいを持つ親に育てられた子どもの存在が初めてクローズアップされたのは、2008年に中村ユキさんのマンガ「わが家の母はビューキです」の出版です。その後、精神科医である夏苅郁子先生や糸川昌成先生が子どもの立場の家族であることを表明され、自分の体験を精力的に講演されるなどして、精神障がいを持つ親に育てられた子どもの存在がやっと社会に認められるようになりました。

子育てをする精神障がい者の数は把握されていませんが、日本の精神科病院入院患者の調査では、統合失調症圏の女性入院患者の36%に婚姻関係があり、33%に出産経験がありました。入院時に婚姻関係が継続していた者は約半数であり、離婚率の高さがあります。2003年に入院、外来、施設入所の精神疾患患者の調査では、患者の約半数に結婚歴があったという報告があります。一度医療に繋がってもその後中断されてしまった方や、一度も精神科を受診したことのない未治療の方も含めれば、その実数はとても多いと思われます。さらに、統合失調症以外の気分障害やアルコール依存症などの精神疾患を含めると、その数は計り知れません。

しかし、子どもの存在が知られるようになっても、精神障がいを持つ親に育てられた、子どもたちの生活の実態はほとんど知られていないのが現状です。ドイツでは、こうした子どもたちを「忘れられたリスクグループ」と呼んでいるそうです。

子どもの抱える困難⑴-精神疾患のハイリスク

親は病気のために子どもの養育が不十分になり、離婚や失職などで、貧困の問題も出現しがちです。子どもは親の病気に気づきにくく、ストレスを感じながら成長します。親の症状によって周囲との人間関係を阻害されることも多く、家から逃げ出せない子どもにとって、親の急性期症状や病状に伴う体験は恐怖であり、心の傷となります。それは、最愛の親を喪失して行く過程でもあります。

多くの子どもは、大人から親の病気についてきちんと説明されていません。そのため、病気は人に知られてはいけないものと認識され、子どもは精神疾患へのセルフスティグマ(内なる偏見)を付与されます。親の病気を語ることは家の中でもタブーであり、誰にも話せないまま、孤立して成長します。子どもの感情は、心の底に押し込められたまま、心の傷は癒されることなく、記憶にふたをした状態で大人になります。

子どもは、早い時期から介護者(ケアラー)の役割を担わされます。子どもであることをあきらめ、炊事や洗濯、掃除などの家事をしたり、下のきょうだいの面倒を見たり、時には病気の親自身の世話も引き受けるしっかり者として成長していきます。この時期、自律神経失調症やうつ病、摂食障害を経験する子どももあり、精神障がいの親を持つ子どもは、成長途上において精神疾患のハイリスクな状態にあります。
近年、精神障がいを持ちながらも、治療を受け、子育てしている当事者は珍しくなくなりました。人を愛し、結婚し、子どもを育てることは、人が生きる上で大切なことです。障がいを理由に制限されることがあってはなりません。親が自分の手で子どもを育て、子どもと共に成長できるよう、親と子の支援の充実を早急に図る必要があると考えます。

子どもの抱える困難⑵-大人になっても続く生きづらさ

周囲からはしっかり者に見える子どもたちですが、大人になってからも、様々な困難を抱えています。親の理不尽さを憎みながらも、病気の親を心配し、親のケアを続けています。
子どもたちの多くは、成長過程で、誰からも助けてもらえなかった体験を持ちます。大人は信用できない存在であり、当然、人に頼るという体験はできずに成長します。周囲から「しっかり者の優等生」というレッテルを貼られ、その期待どおりにふるまってきた子どもたちは、誰にも頼れない生き癖を持ちます。内面では、自信がなく、自分たちを「自己否定と劣等感」のかたまりだと言います。外側の印象とのギャップは、困難につながります。さまざまな問題を一人で抱え込みやすく、仕事や家庭において苦労しています。ありのままの自分を出せない苦しさを抱えて、孤立し、同じ子どもとつながりたいと願っています。

精神疾患の親をもつ子どもの会(こどもぴあ)」の設立まで

精神疾患の親をもつ子どもとの、初めての出会いは2013年でした。成人した子どもの立場の家族3人に出会い、子どもの体験を聞かせて頂きました。子どもたちは大人になっても孤立し、社会から隠されていることを知り、子どもたちの集う場が必要であると思いました。
子どもの立場の家族のグループを作るために、「家族による家族学習会(以下、家族学習会)」の開催を考えました。家族学習会は、家族同士の回復に焦点を当て、家族自身のリカバリーのきっかけとなる取り組みです。全国の家族会で取り組み始めていますが、家族学習会の担当者・参加者は親が中心であるため、立場の違う子どもたちが参加しても、グループ内で共感が得られにくい状況がありました。

3人に協力をいただき、2015年に、子どもの立場の家族学習会を初めて開催し、2016年、2017年と3年間、延べ5クール実施してきました。親の学習会で用いる家族心理教育テキストはマッチしないため、ライフサイクルに沿って話し合えるオリジナルのテキストを作りました。家族学習会では、幼児期から小学生、中学生、高校生、成人して、というように、ライフサイクルに沿って、体験を語り合っていきます。心の奥にしまいこんでいた過去の記憶が思い出されて、辛い気持が起きることもありますが、新たな発見もします。年齢は、20代から60代まで幅広い方々が参加しましたが、話しづらいということもなく進行していました。恋愛や結婚、子育て、親の介護についても、語り合いますので、多様な年代の参加者がいることで、将来に起こりうることについても予測でき、とても参考になるようでした。

家族学習会は、担当者も参加者も同時にエンパワメントされ、元気になるプログラムです。参加者からは、「過去の日々、自分の思いを振り返る機会になった」「親に対する違う見方、よい面の発見ができた」「抑えていた感情があふれ、楽になった。最近穏やかな顔をしていると言われる
」「これからは自分のことを考えたい」と感想を述べています。
担当者は、これまでの自分では考えられない活動だと言います。参加者が回を重ねるごとに元気になる姿を目の当たりにできるのは、担当者にとって嬉しい経験でした。自分の体験が役立つことで、自信も回復します。担当者も、「辛かったことを思い出し、涙が出て、すっきりした。自分の感情が出せるようになった」と話します。「子どもの立場同士で話せる場が必要」「人の良い所を見ようとするようになった」「これからも自分のできる事をしたい」「子どもに関わる支援者に、体験を知ってもらうことは、社会を変える力になる」と話しました。

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精神疾患の親をもつ子どもの会(こどもぴあ)」の発会式の参加者(2018 年1 月21 日)。正面左から、小林さん(副代表)、坂本さん(代表)、長谷川さん(副代表)

このように、子どもの立場の家族学習会を開催した結果、家族学習会を経験した18人の子どもたちが運営メンバーとなりました。その中から、名前を出しても良いという20代前半の若いメンバー3人が、代表・副代表となり、2018年1月に「精神疾患の親をもつ子どもの会(こどもぴあ)」を正式に設立しました。新聞の記事に掲載された設立の会での集合写真には、多くの仲間が映っています。隠さない姿を見た人たちは、皆驚いていました。名前も顔も出している代表・副代表の3人は、新聞で紹介されてから、ラジオやテレビなど、様々なマスコミの取材を受けています。

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昨年の12月に、子どもの体験を集めた、「精神障がいのある親に育てられた子どもの語り困難の理解とリカバリーへの支援(明石書店)」という本を出版しました。その中には、ライフサイクルにおける子どもの困難と、子どもたちのリカバリーが書かれています。孤立していた子どもたちが、仲間とつながり、さらに仲間を支援することで、力を得ている過程が、9人の子どもの体験として書かれていますので、是非読んでいただければと思います。

子どもたちによる新たな活動

家族学習会は小グループによる5回1クールの開催で、参加者の数は限られています。家族学習会の担当者を経験して、グループ進行に慣れてきたこともあり、2017年7月から、「精神疾患を持つ親に育てられた子どもの集い」を定期的に開催しています。子どもたちは、今まさに苦しんでいる小さな子どもたちも救いたいと考えるようになりました。
2017年からは子どものグループのホームページを立ち上げるとともに、「精神に障害がある人の配偶者・パートナーの支援を考える会(以下、配偶者の会)」と連携した活動を始めました。それは、配偶者と一緒に参加した子どもたちとのグループを持つことです。
対象は、未成年の高校生や中学生、高学年の小学生です。20代から50代の方がグループを担当していますが、参加した子どもたちは、せきを切ったように自分たちの辛い現状を話しました。家族学習会もそうでしたが、年齢が離れていることでの違和感がありませんでした。子どもたちには、将来には希望があること、今はそのためにしっかり勉強するようにというメッセージを送っていました。
配偶者の会で支援されることで、父親あるいは母親が家族の中で安定した存在となり、家族のコミュニケーションが図られることで、子どもが安心して生活できる環境作りができます。成人した子どもたちは、こうした直接的な支援を今後も積極的に行っていきたいと考えています。

これからの家族会の姿

子どもの立場の会、配偶者の会は、みんなねっとに直接つながらせて頂いています。子どもの立場の家族が、家族会に行ったとき、親の立場の方から「若いあんたが頑張らなくてどうするの。もっと頑張りなさい」と言われたそうです。親の立場の家族は、励ましたつもりだったのでしょうが、自分が甘えているのかもしれないと思え、辛くなったと話します。同じ家族でありながら、立場の違う家族への理解が、まだまだできていないのだと思います。家族会に、親、きょうだい、配偶者、子ども、様々な立場の家族が集うことができれば、自分の家族相互の理解にもつながるのではないかと思います。
家族会は高齢化しているといわれますが。様々な立場の家族が加わることで、家族会員の多様性や若返りが生じ、新しい活動も生まれるのではないかと思います。当事者の疾患も同様です。現在の家族会の会員の抱える当事者の8割は統合失調症ですが、精神疾患には様々な疾患があります。子どもの集いには、統合失調症だけでなく、気分障害、アルコール依存症、パーソナリティ障害など様々な疾患の親を持つ子どもが集まりますが、親の病気の違いは問題にならないようです。病気の親との生活での困難という点では、共通した体験なのだと思います。今後は、多様な疾患の当事者を持つ家族が受け入れられる家族会に変化したいものです。これからの家族会が、立場の違う家族同士での集える会を持ちながら、ともに繋がれる家族会になればいいなと思います。

子どもの立場から見た家族の役割

子どもの会に繋がってくる子どもたちの中には、大変高い割合で、看護師、精神保健福祉士、臨床心理士などの支援者がいます。「精神疾患の親をもつ子どもの会(こどもぴあ)」会の代表者である坂本拓さんが、2017年10月の地方版リカバリーフォーラム地方分科会(大阪)で話した言葉が印象的でした。
坂本さんは、精神保健福祉士として地域の相談支援機関に勤めている青年です。坂本さんのお母さんはうつ病、パニック障害です。誰かに相談したことは一度もなく、学校が終わるとアルバイトと家事をし、母の不安や辛い気持ちを朝まで聞いていたそうです。自分の役割は「母に寄り添う」事で、それは自分にしかできないと考えていました。就職して支援者としての自信がつくと、今度は母の為の「支援」を自分が何もできないことに悩み始めました。

「母に会えば、『辛い』『お金がない』という話ばかり。仕事だったら支援できるのに、母に寄り添うつもりが、甘えているだけに見えてしまう自分がいます。支援者として経験を積んでわかったのは、家族は家族。支援者にはなれないということです。家族だからわかることはたくさんありますが、家族には支援の限界があります。面倒を見るのが家族の役割ではありません」「私のような支援者はたくさんいます。弱音のようで恥ずかしいかも知れないけど、辛いって言って、逃げ出していいんです。私たち支援者がどこかで必ずキャッチします。私は誰にも頼って来なかったし、役に立つ大人なんていないと思っていましたが、大人になった私は人の役に立ちたい、協力したいと思っています。そう思っている人が親の周りにもいるはずです」と。
支援者となった子どもだからこそ実感した、「家族は家族。支援者にはなれない」という言葉には説得力があり、私の心に響きました。これは子どもだけでなく、抱え込みがちになる家族のすべてに言えることではないでしょうか。

リカバリーとは、自分の「尊厳」「希望」「人生」「生活」を取り戻すことです。子どもは仲間の中で、辛かった過去の自分に向き合うことで、自分がどのように育ってきたのか、どのような影響を受けたのかが客観的に見えてきました。困難な体験をしてきたからこそ、自分の力で生きるたくましさと優しさを持っていること、嫌いだった病気の親も、親なりに不器用ながらも自分を愛してくれていた姿への気付きは、親子の関係を取り戻すきっかけとなるのではないかと考えます。リカバリーは、ゴールではなく、プロセスです。子どもたちは、つながり、語り合い、希望を取り戻し、これからの人生を主体的に歩んでいくことでしょう。
(よこやまけいこ)


関連書籍

「精神障がいのある親に育てられた子どもの語り困難の理解とリカバリーへの支援」出版社 :明石書店

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「静かなる変革者たち 精神障がいのある親に育てられ、成長して支援職に就いた子どもたちの語り」出版社 : ペンコム

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