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星のあばれ龍がやって来た話


小学校6年生の春

また私の学校に転校生がやってきた。


彼の名前は 星龍太くん


私が住んでいた家の近くに越してきた。



小学校6年生なのに随分と背が高く



170センチ近くあったのを覚えている。



最初の頃は、すごくおとなしそうな子だと思ったけど


おとなしかったのは、たった数日間だけで



彼の凶暴さが暴れ龍のごとく姿を現した。




とてつもなく荒れていて


先生達も手がつけられない状態でした。



彼は体格も良く、力も大人顔負け




さらに並外れた抜群の運動神経の持ち主


男子の体育の授業を見たとき、



彼のボールで人を殺せるんじゃないかって言うくらい豪速球を投げて、相手を蹴散らしていました。



その瞬間、同じクラスの男子じゃなくて本当に良かったと考えていました。


それくらい彼は強くて圧倒的な存在感がありました。




彼は隣のクラスの6年1組に在籍していました。



毎日毎日誰かをいじめのターゲットとして狙いを定め、暴力をふるい暴れていて


男子に対しては暴力を

女子に対しては暴言を

浴びせており


そんな彼をみんな恐れていました。


私もひょんなことでターゲットにされて


当時太ってた私を見てゴリラゴリラと連呼し
あざ笑っていました。


私の妹のクラスにわざわざ来て、ゴリラの妹だと騒ぎ立て



妹から

「お姉ちゃんのせいであいつからゴリラの妹って言われてる」と攻められた時がありました。



本当にこのクソみたいな男がいるせいで



小学校最後の生活が台無しだ。



たまったもんじゃない、退学して欲しいとさえ思っていました。




奴は、人のことを傷つけ攻撃し得意げに笑ってました。



特に衝撃的なエピソードが



節分の時に6年生と3年生がペアになって豆まきをする行事がありました。



みんなで楽しく豆まきをしていると



体育館の真ん中の方で男の子が叫び声をあげました。


「あー僕の豆だ!やめてよーやめろ!!」


よく見ると、星龍太が3年生のペアの男の子の豆を笑いながら、踏みつけて砕いていました。



みんな騒然となり



6年1組の担任の先生が


「龍くんやめなさい!やめなさいってば!!」


と彼の腕を引っ張ります。



でも彼は、止めずにゲラゲラ笑って



豆が全部なくなるまで砕いていました。



男の子は、わんわん泣いています。



その様子を見ないように下を向いて悲しんでいるクラスメイトがいました。



彼女の名前はまーちゃん


その泣いている男の子は、まーちゃんの弟でした。


何もしていないのに、まーちゃんも私と同様、

星龍太からゾンビと言う変なあだ名をつけられて標的にされていました。


そして豆まきの日

自分のペアがまーちゃんの弟だからと言うことで


理不尽に彼は、豆を粉々にしていました。



まーちゃん自身とても優しい性格でしたが、自分の意思をあまり言わない大人しい子だったので何かと誤解され、他の人達からもいじめられていました。



私は心が痛くなりましたが 


何も言えず、


ただ、まーちゃんの横に黙って座っていました。



また、卒業間近の時、体育館で卒業式の


全体練習があったのですが


星龍太が先生に態度が悪いと怒られた時



彼は、


「気持ち悪いんだよクソ野郎」


と大声で叫びながら体育館を後にしました。

みんなその様子を見て唖然とし、シーンとしてしまいました。

その後も、何度も何度も問題行動を起こし、



彼はいつも校長室に呼び出されていました。




聞くところによると、彼は私が住んでいた市内の学校を転々としており、

転校先のクラスを何度も学級崩壊をさせていた張本人でした。

もう手に負えないから、二度と学校に来るな



市内のほとんどの学校から追い出されては

たらい回しにされ、


転校するという日々の繰り返しだったみたいです。




ですが、そんな彼を私の学校の先生達は



見捨てませんでした。



特に6年1組の担任の先生が彼を根気強く接し



時には強く叱り、時には励まし



彼を受け入れていました。



実際私たちは、彼がいることで面倒なことに巻き込まれていたので



「あの人退学させてください、ウンザリです」


と何度も先生に頼んだけど



先生達は困り顔をしつつ、あきらめず生徒指導していました。



私は、そんな先生達を今でも誇りに思っています。


切り捨てようと思ったら簡単に切り捨てられたと思いますが、先生達は、確かに真剣に彼を正面から受け止めていました。


この事実は、嘘偽りはありません。




彼にもその熱意が届いたのか、最後の文集に


こうに書かれています。


題名 「友達」 星龍太


自分は、優しい周りの人達に迷惑かけて悪いことばっかりしてきた。


でもそんな時、担任の先生が自分の悪いところを認めれば大丈夫だからと何度も励ましてくれて本当に嬉しかった。


またみんなに迷惑をかけてしまうのが嫌で学校に行かないと思った時もあるけど、1人になるのが嫌でがんばって努力をした。


悪いことをして校長室で怒られていると、

僕のことを止められなくてごめんと謝ってくる 


優しい友達やこのクラスに出会えてよかった。




こんな風に綴られていました。

私はみんなの文集を読むのが好きだったので

全員分読んでいて、



彼の文集を読んだ時は、かなり驚きました。


そしてこの文集を読んだクラスメイトもすごい感動したと話題になりました。


それから小学校を卒業し、


私と星くんは同じ地元の公立中学校に入学しました。



彼は、小学校の時と変わらず



中学になっても何度も問題行動を起こして、


彼の事をよく知らない
他の小学校出身の子達から白い目で見られ


だんだん孤立していきました。


私が入った中学校はとても大きな中学校で

1組から7組まであり、


学校自体が広い上、ほぼ接点がなかったので


どんな学校生活を送ったのか正直わかりません。


唯一分かることは、彼は、運動神経が抜群だったので野球部に所属し部活などを精力的に頑張っていた事です。




いつの時期か分かりませんが、



彼が大きな暴力事件を起こしました。




廊下で彼がとある女の子と口論になって騒いでいた時


偶然その場に居合わせた


秀才のKくんと星くんの目が合ってしまい、



「お前何見てるんだ?」と喧嘩を売る星くんに対し

Kくんは、

「はあ?」と言い返したらしく



星くんは、それに激怒し一緒にいたもう1人の男子と



2人がかりでK君をボコボコに殴ってしまいました。

その後一悶着起き、Kくんのご両親は大激怒



「自分の息子をこんなバカがいる学校に通わせたくない」と言い放ち

2 、3日しないうちにKくんを転校させてしまいました。


このKくんのご両親の素早い対応には



ぼう然としました。





それがきっかけかなんだかよく覚えてませんが



星くんは、学校から姿を消しました。

そして彼が最後に学校に来たのが卒業式の日



金髪姿で学校に登校し、卒業証書をもらいに壇上に上がりました。


久しぶりに見て、髪色が変わって驚いたけど

その他は全く変わっていませんでした。


卒業式が終わった後、母と私は、ラーメンを食べに行きました。


店内に入り、店員さんが席まで案内した席の隣には星君とその友達がいました。



私と母は、ぎょっとして、思わず


「席を変えてください」と店員さんに申し出た。


店員さんに席を案内されて

「席を変えてください」と言うのは生まれて初めてだったので、



そんなことを言った自分に対してもびっくりした。


母も星君のことを私伝えに聞いていて

彼の事をよく知っていたので目を丸くした。

正直、彼とは過去にいろいろ言われて嫌な感情があって、

卒業式終わった後なのに気分が悪いなと感じていました。



彼の様子をチラチラ見ると、


星くんは、後輩と楽しそうに話し、うまいうまいと笑いラーメンをすすっていました。


別にこっちに何か言ってくるわけでもなく



笑顔で後輩達と何か話しています。





意外だなあ.....。


学校の外での穏やかな顔、穏やかな笑顔



こういう表情を見たのは初めてでした。




ギャップと言うやつですかね。


彼はラーメンを食べ終わると、後輩たちのラーメン代を払っていました。



へぇ〜

結構後輩思いなとこあるじゃん。

また彼の意外な行動を見て、

私と母はお互いの目を見合いました。


てっきり彼の事だから、

お金を払わず逃げてしまうのではないかと疑ってさえいました。


今まで彼の荒れた行動を見てきたので、こんな風に人に優しくできるのか



何か不思議な感情が生まれました。


彼の家庭環境はよくわかんなかったけど、

おそらく私と一緒で良くなかったんだと


勝手にそう思っています。



何か自分の父に似ていると思ったし、



星くんは、学校にいる時、すごく不安そうで困った顔をして落ち着きがなかった。


目にも覇気がなく沈んでいた。


だけど、友達といる時はなんだか輝いて見えたし、人をいじめること以外は、ごく普通の体育が好きな優しい男の子なんだと思っている。


たまたま同じ地域、同じ学校に通っただけでそんなに濃い接点は無いのだが、なぜか彼はすごく印象に残っている。



今どこで何してんのかわからないけど、

達者で暮らしていることを願う。

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