
【新訳】双子のナニーは闇堕ちSE #3
タイムカプセル
バイクは結局、ウィルの住むラクロスの隣町、スパルタの中古ディーラーで見つけた。探していたモデルの中古(走行距離3000マイル)を見つけて即決。支払いはシティバンクから送金したが、処理に時間がかかり、その間はウィルの家でのんびり過ごすことにした。
ある日、ウィルが木製の器を持ってきて、「タイムカプセル」だと言って手渡してきた。中を見ると、ウィル宛の叔父からの手紙、ツルの折り紙、そしてカエル、ペンギン、最後にカニの折り紙が入っていた。
カニの折り紙を見た瞬間、「これ、絶対に自分が折ったやつだ」と確信した。こんなものを折るのは、祖母か父か、そして自分くらいしかいない。カニを手に取った途端、1995年の秋、初めてこの家を訪れた記憶が鮮明に蘇った。
1995年 秋
「I never be busy.」(「ひまだから」)
1995年、バイクで北米を3ヶ月間ツーリングした。費用はざっと350万円。100万円は祖母に借り、父からは現金ではなく、100万円分のクーポンをもらった。これは、父の勤めていた川崎製鉄が支給した旅行代理店・近畿ツーリストのクーポンで、立派な足付きの碁盤とセットになっていた。ちなみに、父はその後、1年間の有給休暇を終え、55歳で早期退職した。祖父も同じ会社に勤めていたが、コネ入社だったらしい。ただ、そのコネは自分には何の意味もなかった。
子供の頃、父に「将来はサラリーマンになりたい」と言ったら、ちょうど書いていた「目標シート」を見せられた。四半期ごとに書かされるもので、「こんな面倒なこと、お前には無理だ」と説明された。その紙は長い間、小学校の卒業文集に挟まっていたので、今でも記憶に残っている。
旅の資金の残り100万円は、自分で貯めた。バイトは3つ掛け持ち。日経新聞の印刷所、サンリオ本社の清掃、バイク屋SCS。だが、それでも旅の途中で資金が尽き、祖母に追加で借りることになった。コレクトコールで電話して、シティバンクに振り込んでもらった。
祖母にオレオレ詐欺をかけるなら、まずコレクトコール、そして振込先はシティバンク。まあ、もう他界してしまったが、感謝しかない。いつも「出世払いで」と言うと、「期待してますよ」と笑っていた。自分もそれなりに出世したつもりだけど、結局、返済は間に合わなかった。
当時の為替レートは1ドル85円。このタイミングを逃さなかったのは正解だった。今なら円安で1ドル158円だから、同じ旅をするには1000万円でも足りないかもしれない。その代わり、当時ほど外国人観光客であふれてはいないだろう。
それに、当時のバイトの高時給も、今では派遣が主流になり、なかなか見つけにくい。そう考えると、自分は恵まれていたのかもしれない。
ウィルとの出会い
資金繰りのため、叔父にも借金を頼んだが断られた。その代わりに、餞別として2つの電話番号と手書きの地図を渡された。その1つがウィルだった。
ロサンゼルスでバイクを買い、ウィルの住むウィスコンシンまで約1ヶ月かけて旅した。途中で彼に電話し、叔父の名前と現在地を伝えると、即答で「来い」。
用意していたメモを読みながら、「お言葉に甘えて伺います。ご都合の良い時間を教えていただけますか?」と聞くと、「いつでもいいよ」と返ってきた。
とはいえ、電話したのはノースダコタ州のデビルズタワー付近。いつ到着できるか読めず、長く待たせるのも悪いな…と考えながら、もう一度「ご都合の良い時間を…」と尋ねた。そのとき、ウィルが言った言葉は今でも覚えている。
「I never be busy.」(「ひまだから」)

手書きの地図
叔父がくれた地図は、長旅でボロボロになり、雨に濡れて滲んでいた。スマホもナビもない時代、多くの人に道を尋ねながら進み、ついに「ウィルを知っている」という人に出会った。その人が先導してくれ、「この先だよ」と教えてくれたものの、人里離れた細い道を行ったり来たりしても、目的地は見つからなかった。
最終的に、ウィルの妻・ベスが迎えに来てくれて、ようやくたどり着いた。
今思えば、こうした不便さが人との交流を生み、旅をより面白くしてくれたのかもしれない。今でもバイクツーリングではそのスタイルを続けている。スマホやナビを持ってはいるが、基本は使わない。毎晩、翌日のルートを手書きでメモし、バイクのタンクに貼る。運転中にルート検索をしないから安全だし、夜にじっくりプランを練るから退屈しない。
マリア
初めてウィルの家を訪れたとき、迎えてくれたのはベスと2歳にも満たない子供たち、ノアとゾーイだった。まだ言葉を話せない彼らは、英語に疲れた自分にはちょうどいい相手だった。2014年に出会う双子のエミリオとチャーリーもそうだったな、と思う。
ベスは、子供たちと遊ぶ自分を見て、「さすがキンダーガルテン(幼稚園)の家ね」と笑った。母方の家が幼稚園を経営していて、叔父が園長をしていることを知っていたからだろう。
そんな和やかな雰囲気の中、リビングのベビーサークルで子供たちと遊んでいると、ウィルが帰ってきた。隣には、ペネロペ・クルスばりの超絶美人。
そのときのウィルの第一印象? まったく覚えていない。マリアのことしか頭になかった。
つづきは【新訳】双子のナニーは闇堕ちSE #4へ。(毎日17時更新)