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【新訳】双子のナニーは闇堕ちSE #6

教会学校

小学生の頃、4年間ほど母の実家で暮らしていた。いわゆる「マスオさん」状態だった。父は海外出張が多く、ほとんど家にいなかった。彼の仕事はプラントエンジニアリングで、海外に製鉄工場を建設することだった。

母が「そんなことをしたら、海外に鉄鋼のシェアを取られちゃうんじゃない?」と言うと、父はあっさり「そうだ。でも、うちがやらなくても他の会社がやるだけだ」と答えていた。そんな会話を覚えている。たまに帰ってきたかと思えば、亀の甲羅や蝶の羽細工のタペストリーなど、妙なお土産を置いて、またすぐ出ていった。

母の実家は幼稚園と教会をやっていたので、日曜日は「教会学校」と呼ばれる子ども向けの礼拝に強制参加させられていた。そこで先生をしていたのが安倍さんだった。何を教わったのかはまったく覚えていないが、4年間通ったおかげで「種まきのたとえ」や「ギデオンの士師」など、聖書の言葉はいくつか耳に残っている。

会社で休日出勤を強要されたとき、上司にこう言ったことがある。

「イスラエルでは、日曜日に働くことを法律で禁止しています。なぜか知ってますか? それは、エジプトで奴隷だった時代、休みなく働かされた屈辱があったからです。たとえ自分の意思でも休みなく働くのは、仕事の奴隷になるのと同じですよ。」

完全に教会学校の影響だ。

もう一人、村田さんという先生もいた。電電公社(後の〇〇〇)の役人だった。この人の話で今でも覚えているものがある。聖書由来かどうかは不明だが、こんな話だ。

「お神輿はたくさんの人が担いでいる。でも、上に乗って掛け声だけかけてる人もいる。ふざけてぶら下がる者もいる。少しなら問題ないが、それを見て真似する人が増えたらどうなるか。あるラインを超えたとき、一気に全員が神輿の下敷きになる。」

私はこの話が妙に気に入って、今でもいろんな場面で比喩として使っている。(実はこの話を書くために、ここまで2ページも使った。)

振り返ってみると、あれほど苦痛だった教会学校も、今の自分の糧になっている。楽しい思い出もあった。その最たるものがクリスマスだった。劇をやったり、夜の礼拝後にケーキと紅茶が振る舞われる小さなパーティがあった。

私は紅茶に角砂糖を4つ入れるのが好きだった。甘さもさることながら、かき混ぜて溶かす作業が楽しかったのだ。それを見て、安倍さんの奥さんが言った。

「砂糖は一つでも十分甘いよ」

試してみると、確かにそうだった。でも、私は思った。「なぜ一つにする必要が?」 砂糖ならいくらでもあるのに。

奥さんに尋ねると、彼女は笑いながら「お砂糖の摂りすぎは体に良くないのよ」と答えた。その瞬間、私はひらめいた。

「なら、いっそゼロの方がいい」

以来、紅茶にもコーヒーにも砂糖を入れなくなった。何事も極端な性格は、すでにこの頃からできあがっていたのだと思う。


ボストン

ボストンにある安倍さんの家を訪ねた。事前に電話はしたものの、ほぼアポなしだった。それでも歓迎してくれ、奥さんが「何か困っていることは?」と聞いてくれた。ちょうど日本語の本を読み切ってしまっていたので、「日本語の小説があれば…」と言うと、数冊渡してくれた。その中に『窓ぎわのトットちゃん』があったのを覚えている。

ボストンには**ENIAC(エニアック)**という、コンピュータ史に必ず出てくる元祖コンピュータが展示された博物館があった。それを見に行った。ビル3階分ほどの巨大な機械。でも、これはほんの一部らしい。スペックは電卓以下だろう。見学者は私だけだった。1999年に閉館し、今はもうない。

博物館の土産コーナーで「Any」と書かれたキーボードのボタンが売られていた。横には「Finally u can.(ついに押せる)」というメモ。ツボった。 全部買い占めたが、後に友人に配っても誰にもウケなかった。作った人は、世間のリテラシーが上がったと勘違いして、在庫補充してないか心配になった。

安倍さん一家は、ボストンで家族3人で暮らしていた。でも、叔父によると、彼には出資者がいて、今住んでいる立派な家も無償で提供されているらしい。奥さんが出資者の家でメイドをしていた縁で、安倍さんの話をしたところ気に入られたとか。本人から聞いた話ではないので、真相は不明。

夕食後、安倍さんの娘(小学校高学年)がアメリカンジョークを披露してくれた。


A man calls 911 and says, “My house is on fire!”
(男が911に電話して「家が火事だ!」と言う)
The operator asks, “How do you know?”
(オペレーターが「どうしてわかるんですか?」と聞く)
The man replies, “Well, my wife just told me, ‘If you don’t stop playing with those matches, I’m going to call the Fire Department!’”
(男は答える。「さっき妻に『そのマッチで遊ぶのをやめないと消防署に電話するわよ!』って言われたんだ」)


娘は大笑いしていたが、私にはよくわからなかった。解説を頼むと「言われた通りになったところが面白い」とのこと。安倍さんも「むしろ気の毒な話では?」と私に同意してくれた。

次にもう一本。


A call comes into the fire department.
(消防署に電話がかかってくる)
“Fire! Fire!”
(「火事だ! 火事だ!」)
The operator calmly replies, “Where is it?”
(オペレーターが冷静に「どこですか?」と聞く)
“It’s here!”
(「ここだ!」)
“Where is here?”
(「ここってどこ?」)
“The fire department!”
(「消防署だ!」)
“So, you’re asking us to put it out?”
(「つまり、消火してほしいと?」)
“Why?”
(「なんで?」)
“Well, you’re the Fire Department, aren’t you?”
(「だって、あんたら消防署だろ?」)


こちらはさらにわからなかった。安倍さんも「センテンスは理解できても、アメリカンジョークのノリは難しい」と言う。

そこで、日本のジョークを披露した。


ラーメン屋にて
「おばちゃん、スープに指が入ってるんだけど!」
「大丈夫。熱くないから」


これはウケた。もっと披露したかったが、思いつかなかった。

「英語も日本語も話せていいですね」と言うと、安倍さんは「本当にそう思いますか? 日本語、変でしょ?」と言い、少し間を置いてこう続けた。

「英語も変なんですよ。両方使えるけど、どちらも完璧にはなれないんです。」

滞在2泊。翌朝の土砂降りの中、「お世話になりました」とボストンを後にした。


つづきは【新訳】双子のナニーは闇堕ちSE #7へ。(毎日17時更新)

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本作はAIににより校正しました。オリジナルはこちらです。

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