
【新訳】双子のナニーは闇堕ちSE #2
アーティチョーク
ウィルとその家族と再会したのは、15年ぶりだった。ウィルも奥さんのベスも変わらなかったが、赤ん坊だったノアとゾーイの成長ぶりには驚いた。
バックヤードのテラスに通されると、テーブルの上にはアーティチョークが山積みになっていた。
ちょっと話は遡るが、母は植物好きで、iPhoneの写真フォルダは植物だらけだった。ある日、散歩から帰ってきて、公園の植物園でアーティチョークを見つけたと写真を見せてくれたことがある。「アメリカのスーパーで売ってるのを見たことあるよ」と言うと、母は「食べてみたいんだけど、日本のスーパーでは見かけないのよね」と言っていた。
そんな話をしていた私も、この日初めてアーティチョークを食べた。ほとんど味がなく、かすかに豆のような香り。食感はタケノコの穂先みたいだった。ウィルが「メルトバターをつけると美味しい」と教えてくれたが、可食部が少なく、すぐにテーブルの上がアーティチョークのゴミの山になった。
オルト・ブリンカー家との再会の宴が終わると、ウィルが「長旅で疲れただろう」とベッドへ案内してくれた。寝る前に、アーティチョークの写真を添えて「無事着きました」と母にメールを送り、そのまま深い眠りについた。
グループは嫌い
ウィスコンシン州ラクロスにあるハーレーディーラーへ、ウィルの車で向かった。店に入ると、サービスカウンターで店員が客を待っている。ウィルはカウンターをスルーして店内を見渡し、奥の雛壇に目をつけると、一直線に駆け寄った。そして、店のボスと握手を交わし、すぐに話し始めた。まるで旧友に会ったかのような馴染みっぷりに驚いた。
私はバイクに目を奪われ、一台ずつじっくり見て回っていた。すると、ウィルが戻ってきて、店のボスを紹介してくれた。欲しいモデルは決まっていたので、それを伝えると、話はそのバイクが展示してある場所へ移動。プライスカードを見たウィルが「高っ!レンタルにしたら?」と言い、ボスは「レンタルはトライク(三輪車)しかない」と返した。思わず言った。
「No no no no no. I don’t like it.(ノー、ノー、ノー、ノー、ノー。そんなの嫌だ)」
ボスは「ツアーに参加するならレンタルしてもいいんじゃない?」と言っているようだったが、いまいちピンとこなかった。すると、ウィルがすかさず代弁した。
「He don’t like group.(こいつ、グループが苦手なんだ)」
“doesn’t” じゃなくて “don’t” を使ったのが妙に気になった。「代弁してますよ」ってニュアンスなのかもしれない。まさにその通りで、ツアーにはまったく興味がなかった。
「どこまで行くの?」と聞くと、ボスが「I90, スタージス」と答えた。
「What is Sturgis?(スタージスって何?)」
すると、ウィルが説明してくれた。
「Sturgis is a festival, a convention, a lifestyle, and a culture all rolled into one.(スタージスは、フェスであり、コンベンションであり、ライフスタイルであり、文化そのものだ)」
……全然ピンとこなかった。
その後、ウィルが「もう少し安いのは?」と店内を歩き始めると、ボスは立ち去り、若い店員がついてきた。私は「FXCWC ソフテイルロッカーC」を見つけた。デザインは好きだったが、長距離ツーリング向きではない。プライスカードがなかったので値段を聞くと、店員はボスのところへ行き、彼を連れて戻ってきた。
ボスは一言。「それは君には売れない」
ウィルが「なぜだ!?」と詰めると、ボスは淡々と答えた。
「Harley-Davidson’s policy(ハーレーダビッドソンの方針)」
その顔は半分微笑み、半分冷ややかだった。
ウィルは「帰るぞ」と言い、店を出た。車の中で、普段は無口なウィルがマシンガントークを繰り広げた。どうやら、ディーラーの態度が気に入らなかったらしい。
身分証を見せてください
その夜は外食だった。約束の時間まで余裕があったので「どこか行きたい?」と聞かれ、アウトドアショップをリクエスト。ウィルが連れて行ってくれたのは「ガンダー」。日本で言うカインズのような大型店だった。ただ決定的に違うのは、ショーウインドウの中に本物の銃が並んでいることだった。
その後、ベストバイでベライゾンのSIMを買い、イタリアンダイナーへ向かった。すでにベス、ノア、ゾーイが席についていた。
メニューを渡されたが、よく分からないのでウィルにお任せ。
「みんな車で来た?」と聞くと、全員「Yes」。それを確認してから「じゃあワイン飲んでいい?」と聞くと、ウィルとベスが顔を見合わせ、しばらく考えてから「もちろん」と答えた。
ウエイトレスに「ワインはどこ?」と聞くと、彼女はにっこりしてこう言った。
「Can you show me your ID, sir?(身分証を見せていただけますか?)」
その瞬間、ウィルとベスが大喜び。「彼、こう見えて40超えてるんだよ!」とウエイトレスに説明しながら爆笑していた。私はバッグからパスポートを取り出して見せた。
最終的に、ベスが白ワインのボトルを注文。彼女は躊躇なくグラスを傾けた。
「帰り、車どうするの?置いていくの?それとも運転代行?」と聞くと、また大笑いされた。
「リリーフピッチャー(救援投手)」になぞらえて「リリーフドライバー」と造語で言ってみたら、これも妙にウケた。
食事中、話題は自然とハーレーディーラーでの出来事に。ウィルが説明すると、ベスは「そんな差別的な態度、アメリカの恥だわ!」と憤慨し、ノアも「Oh, it’s an international issue(これは国際問題だ)」と笑っていた。
たかだかバイクを買いに行っただけなのに、話がずいぶんスケールアップしていた。
店を出ると、ベスは普通に車に乗って帰っていった。……結構飲んでたけど。
つづきは【新訳】双子のナニーは闇堕ちSE #3へ。(毎日17時更新)
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