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【新訳】双子のナニーは闇堕ちSE #8

Slot Canyon

ザイオン国立公園からブライスキャニオンへ向かう途中だった。モーテルのロビーに掛かった写真を見て、「ここはどこ?」とフロントで聞くと、「スロットキャニオン(Slot Canyon)」とのこと。面白そうだったので、すぐに行くことにした。

モーテルの隣には小さなアウトドアショップがあり、品揃えが抜群だった。そこでキャメルバック(CamelBak)と、砂地用のオレンジ色のアルマイト加工(酸化皮膜処理)されたペグを4本購入。

翌朝、買ったばかりのキャメルバックに氷を詰めて出発。ハイウェイ12号沿いにあった小さな看板を頼りに、「ドライフォーク・スロットキャニオン(The Dry Fork Slot Canyons)」へ向かった。目的地までは26マイルの未舗装路。
「このバイクで行けるか?」と一瞬迷ったが、考えても仕方ないので進む。案の定、悪路に苦戦し、すぐにバテて木陰で一休み。そこでひらめき、荷物をその場にデポして軽くしてから再出発。おかげで少しは楽になった。

それでも悪路との格闘は4時間続いた。トリップメーターを見ると、実際の距離よりも5マイル以上オーバー。どれだけタイヤが空転したんだか…。ようやく駐車場に到着し、グローブを外すと手のマメが潰れていた。ハーレーのグリップとレバーは私の手には太すぎる。普通に走るなら問題ないが、悪路では厳しい。

サドルバッグからキャメルバックを取り出し、トレイルに入る。360°見渡す限り荒野。どこにキャニオンがあるのか分からないが、置き石が並ぶ道を頼りに歩く。
しばらくすると、履き慣れていないブーツが靴擦れを起こし、痛みが増す。一時間ほど歩いたところで、大地がパックリ裂けているのが見えた。これがスロットキャニオンだった。

裂け目の中は、人一人がやっと通れるほどの狭い迷路。上から差し込む木漏れ日が、ミルフィーユのように幾層にも重なった岩肌を照らしていた。オレンジから紫へと移り変わるグラデーションが幻想的で、夢中でシャッターを切る。

しばらく進むと「そろそろ戻るか」と引き返そうとしたが、そこで気づいた。
これは“迷路みたい”ではなく、本物の迷路だ。

なんとか抜け出し、地上に出たものの、360°見渡しても見覚えのある景色がない。頼りになるのは、地平線のかなたにうっすらと見える山だけ。

「え?どこから来たっけ?」

勘を頼りに歩き出し、ふと振り返る。
「……あれ?置き石が、ない」

嫌な予感がする。とりあえず来た道を戻ろう。

「来た道って……」

「……」

これが『遭難』か。

心細さが一気に押し寄せる。そして次に来たのは、強烈な「恐怖」。

すぐにiPhoneを取り出す。

圏外。

GPSは生きているが、キャッシュに残っている地図はざっくりしすぎていて役に立たない。

キャメルバックには水がたっぷりある。見晴らしは良いから、誰かが通れば分かるはず。でも、今日このキャニオンで一人も会っていないんだよな…。

太陽が落ちるまではまだ時間がある。無闇に動くより、ここで待つほうがいいだろう。そう思い、その場にしゃがみ込んだ。ふと、駐車場に停まっていた車のことを思い出す。

時間が永遠のように感じられたその時——近くで人の声が聞こえた!
思い切り叫ぶ。

Help me! I am lost!(助けて!道に迷った!)

すると、地面からモグラたたきのモグラのように、二つの頭がひょこっと現れた。
こうして助かったものの、帰りの未舗装路はさらに過酷。モーテルに着いてグローブを外すと、血豆が潰れて手が血だらけだった。全身が痛む。

——そして、この遭難騒ぎは人生で最後ではなかった。


バンジーゾーン

カナダ・ビクトリア島、ビクトリアとナナイモの間に「バンジーゾーン」というアトラクションがある。1993年、初めての一人旅でここを訪れた。その名の通り、目的はバンジージャンプ。しかし、一番印象に残ったのは、その後の帰り道だった。

ハイウェイ沿いのバス停でバスを待っていると、通り過ぎた車が急にバックしてきた。巨大なアメ車が目の前で停まり、運転席の男が「乗れ」と手招きしている。

どのガイドブックにも「ヒッチハイクはするな」と書かれているし、陰惨な事件の例も山ほど読んでいる。でも…なぜか断れなかった。

2ドアクーペのシートを倒し、後部座席に乗り込む。前には、見た目いかついマッチョな二人組。一人は茶色い紙袋に入った酒をあおっていた。

——結局、ただのいい奴らだった。

それから数年後、バイクで二度目のバンジーゾーンへ。1993年は私一人しか客がいなかったが、今回はそこそこ賑わっていた。二回連続ジャンプで割引があったので、迷わずチケットを購入。

「ヘソまでディップ、バックエントリーで」と注文。見事にヘソまで川に突っ込んだ。

二回目はカメラ片手に飛ぶことにし、順番を待っていた。その時、すすり泣く女性が目に入る。「怖いのは一回目だけだよ~」と微笑ましく見守る。しかし、周りの空気がやけに重い。

私はその女性をじっと見ていたが、周囲の人たちは目をそらしていた。

よく「鈍い」とか「アンテナが壊れている」と言われるが、この時は分かった。「ああ、みんな優しいんだ」と。

「見ないであげる」その優しさに感動し、私もそっと目をそらした。


つづきは【新訳】双子のナニーは闇堕ちSE #9へ。(毎日17時更新)

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本作はAIににより校正しました。オリジナルはこちらです。

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