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平成個人史#3 青春編

 つれづれつづり三回目。時代は平成中期、中高生くらい。前回予告した通り恋のお話をしましょう。ただし、皆さまが期待しているような明るく楽しい話でもなければ、頬が紅潮する官能的な展開もありません。ただただ屈折して陰鬱とした、失恋と呼ぶことすらおこがましい、報われない物語です。

 青春編などと銘を打ったものの、その名前から想像できるような明るい時代では決してありませんでした。部活に熱中するわけでもなく、友達と遊ぶわけでもなく、いつも何か情熱を傾けられるものを探していながらも、あらゆるものに否定的で悲観的に生きていました。
 友達は相変わらず女の子ばかりでしたが、やはり思春期となると大手を振って仲良くできるわけではありません。自分が女性的な振る舞いでもしていれば別だったと思いますが、普通の男の子に見られていたためよくからかわれましたし、おそらく本当に女の子と付き合っていたと思っていた人もいたでしょう。仲良くしてくれた女の子達にはとても感謝していますが、あらぬ噂でもし恋の芽などを摘んでいたらと思うと申し訳なくもあります。
 そして、いつかどうにかなるだろうと思っていた男性への興味は尽きることなく、中学生では行き場のないフラストレーションに悶々とする日々でした。何よりインターネットが全ての家庭に行き渡っているわけではなく、携帯電話も塾通いの子が持っているくらいの普及率だったので、そういった情報を入手する手段はありませんでした。ゲイ雑誌などという発想もありません。テレビでちょっとだけ映る男の人の裸にドキドキしたりとか、ビデオにたまたま録画できていたものを繰り返し見たりだとか、そういうほほえましいものでした。当時は漫画を描くことに熱中していたので自分で少しだけ描いてみたりもしましたが、男の子…まして成人男性など全く上手く描けなかったので満足できる成果はなく、早々に諦めました。
 とりあえずそういう秘密もあり、心から信頼できる人はいませんでした。女の子達と仲良くはしても「やっぱり自分は一番ではない」と常々実感していましたしね。
 結局私は自分の創作の中に閉じこもり、自分が作ったキャラクター達が紙の中で楽しくしているのを眺めているのが好きだったのでした。所謂中二病を拗らせた結果、自分がすごい魔力の持ち主で別の世界と行き来して活躍する という妄想もしていました。心から信頼できる友達が欲しかっただけなので理想の親友 みたいなキャラも考えました。けれど分別のある中二病でしたので誰にも秘密だし、それをにおわせる事もしなかったのはグッジョブと言う他ありません。家にあった飾り物の小刀とお土産にもらった勾玉と、京都の晴明神社で買った水鏡のお守りをアイテムとしていたのは三種の神器として鉄板であるものの、よく全部そろえたなと今でも感心しています。

 さて。同い年の男の子なんて馬鹿でガキでくだらない というまさしく思春期女子のようなことを考えていましたが、初めて好きになったのは同い年の男の子でした。背が高くスラッとした体型のスポーツマンで、明るくて誰にでも優しくて、笑った顔がとても眩しい男の子でした。誰にでも優しい彼は僕にももちろん優しくて、そういうつもりがないと分かっていても好きになってしまう事は止められません。実らぬ恋だとは分かっていました。女の子の間ではあんまり評判が良くなかったのですが、そんなことはもう全く気にならず胸はときめき続きます。不随意筋なのですから止められるわけがないのです。
 とかく私は気持ち悪い男なので、彼からもらったガムは包みを大事にしまっておきましたし、彼に勧められて借りた有名バンドのCDは全くピンとこないのにべた褒めして返却しました。ただ近くに居られればそれでよかったし、遠くからでも眺めていられればそれで幸せでした。勘違いさせ体育系男子にありがちの過剰なボディタッチも生きていく励みになりました。何より嬉しかったのがたまたま高校も同じだったという事です。学科が違っても同じ中学出身というのは大きなアドバンテージになりますからね。
 もちろん、結局それは大いなる地獄に落ちるための一歩だったのですが。

 高校に進んだ僕はやっぱりオタク趣味の合う女の子と仲良くなるのですが、まぁクラスになじめず辛い日々でした。中学は同じ小学校だった子が多くて「あいつはこういうやつ」と分かっていたのでからかわれることはあってもさほど酷いものではなかったのですが、高校はかなり奇異な目を向けられることが多く、なかなか居づらい環境でした。彼はもちろん人気者で、明るく楽しい友達といつも一緒でした。僕の状況を知ってか知らずか、一人でいることの多かった僕に声をかけてお昼に呼んでくれたりということもありました。ただ、そんな優しさに勝手に傷付いていきます。

 ああ、彼はこんなにも優しい。
 友達もとってもいい人だ。
 けど、僕の友達じゃない。
 話も全然合わない。
 全く別の世界の人なんだ。
 なんで自分はその世界に居ないんだろう。
 こんな風に、普通に、みんなと笑いあえたらよかったのに。

 そして、高校一年の夏ごろ彼に彼女ができました。
 彼と同じクラスの女の子。その子がどんな子なのかは知りませんでした。名前も知らない。話したこともない。ただ、あまりかわいいわけではない、普通の、その辺にいる、女の子。そのころにはもう彼ともほとんど交流がなかったので、どういうきっかけだったのかも知りません。何が好きだったのかも知りません。悲しいとか寂しいとか羨ましいとかずるいとか、そういう気持ちもあまり湧きませんでした。あぁ、そうか、と。ただそれだけ。
 彼と自分は見ている世界があまりにも違いすぎる。求めるものも、描く将来の展望も、何もかもが。それはもう仕方がないこととして諦められるようになりました。
 そんな風に折り合いをつけられたのはきっと、ゲイの世界を知っていたからかもしれません。高校入学と同時に自宅にインターネット回線を引き、自分専用のPCを手に入れ、夏ごろにはそういうサイトに出入りするようになりました。世界には自分と同じような人がたくさんいる。在るがままで、今の自分のままで。
 それは大いなる救いでした。ネット越しの関係ではありましたが好きになったり付き合う事になったり ということもあり、卒業式でも結局彼と話をした記憶がありません。その頃にはもうどうでもいい人だったんだと思います。手に入られないなら、要らない。

 こうして私の初恋は終わりました。そして異世界中二病についてもエンディングを迎えます。

「卒業式の日に全てが決着し、異世界とのリンクは切れました。私はもう二度とあの世界に行くことはできません。黒幕だった同級生(理想の親友)の彼は誰の記憶にもなく卒業アルバムにも載っていない。覚えているのはたった一人私だけ。けど、いつか忘れてしまうかもしれません。異世界での戦いのことも、信頼していた仲間たちの事も、朝方に見た夢のようにおぼろげになって消えていくのです。ただきっと、この想いだけが古傷のようにずっと残っていくのでしょう」
 という設定にして、今後はそういう事を考えることなく、けれどもあの世界はきっとどこかにあるかもしれない という情緒も残しつつ、そっと筆をおきました。

 さよなら中二病の私。そしてこんにちは同性愛者の私。

 次回、性欲と愛欲にまみれた泥沼の恋愛模様が……ない! というお話です。

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