よっつめのスタート
平成後期。平成20年代。あの日の夜。
あの日の夜のことはどんな記憶よりも鮮明に脳裏に残っている
決して華やかで幸せをもたらす記憶ではない
それでもわたしにとっては一生涯忘れてはいけないと刻んだ記憶
会場入り口に展示されていた高校生の時に描いていた夢をマップにした彼自作の作品も覚えてる
その奥の部屋に照れくさそうに微笑む彼の写真も覚えている
その写真の彼は花でいっぱいに飾られた壇の中心に置かれた四角い箱に中で静かに目を閉じていたことも覚えている
恐らく痛々しく残ったであろう首の傷は綺麗に隠されていた
不謹慎ながら本当に綺麗な顔をしていた
苦しかったよね
辛かったよね
怖かったよね
知らなかったよ
こんなにも安らかな顔ができるのね
どうしてわたしはここで上からあなたを眺めているんだろうとおもったら
止めどなく涙が溢れてきた
自分がなにに泣いているのかもわからずにわたしはそこから動けなかった
帰る際、彼の御父様がわたしの手を強く強く痛いほど強く握りしめて
「キミは生きろ、絶対に」
とわたしに告げた
わたしは泣きながら
「生きます」
と告げた
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わたしの人生にはいくつかの分岐点がある
ひとつめは、日本に帰国したとき
ふたつめは、結婚をしたとき
みっつめは、ゲイとして生きていこうと決意したとき
よっつめは、マイノリティであることが自身を苦しめてしまっているヒトに手を差し伸べていこうという思いがその夜芽生えたとき
もしもわたしの経験や学んできた知識や
更にそこにゲイというセクシャリティであるが故の
不条理や喜びや慈しみの体験が
誰かの道しるべに少しでもなるのならば
喜んで差し出そう
わたしがいまできるすべてを
捧げていこうという思いは
ただただキャリアを追い求めたベンチャービジネスの道から
精神障害者支援の道を歩かせた
よっつめのスタート
それがわたしの、平成後期
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