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2023 極私的山開き
2023年4月30日が極私的山開きの日だった。
晴れの天気予報なるも朝から小雨が降り、二本杉は寒かった。
駐車場は多くの車が停まり、たくさんの登山客で賑わいを見せていた。
足ならしとして、雁俣山への道を辿る。
根性なしの自分は山頂を目指すのではなく、
某所で開花(?)予定の銀ちゃんこと「銀龍草(ぎんりゅうそう)」を探しに行くのだ。
今回は濡れた落ち葉の影で、白く輝くレインコートを羽織ったような、
おそらく身長3㎝くらいの銀ちゃんが顔を出し、
頭をうなだれていた。もう10日も経てば、たくさんの銀ちゃん家族の群生が出現し、一つ目小僧のような顔をもたげるのだ。
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「ユウレイソウ」という不名誉な別名を持つ銀ちゃんも、もちろん植物の一種で、光合成をせずに育つので色は輝く白銀色。栄養は或る森の昆虫から得ていると大学の研究者が発表している。森には不思議な植物も多いが、その不思議君達を研究する不思議君も多数いて僕のような、妖しい愛好家も多数居る。そうして森をさ迷ううちに1時間は経過した。
ほとんどの登山者はカタクリの開花を目当てに
山頂を目指しているのだが、杉木立の暗がりで這いつくばる
僕の姿を怪しみながらも、さっさっと歩みを進めていた。
「カタクリの花は咲いてましたか?」と聞かれるたびに
返答に困る、銀ちゃん友の会代表の僕であった。
さて、次に目指すはハチケン谷。
ようやく雨も止み、空が曇って来た。
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アケビの花は満開だった。
秋にアケビの実が弾けるような勢いで
雨に濡れたアケビの紫の花々が弾けている。
彼女らはとても元気なのだ。
このアケビの茂みは、見れば見る程、楽しく騒がしい。
そうして秋に、実がなるのを楽しみに茂みに向かうと
いつも先客が居て、アケビの殻だけが地面に落ちている。
(僕だけの秘密の場所と信じるのが大間違い!)
そうして、久しぶりのハチケン谷。
ゲート前の空き地は車で満車状態だった。
山芍薬の開花を目指して石の詰まった
固い林道を登る。
以前はゲート前のスペースは
花壇のように花が咲き乱れて
蝶も乱舞していたが今は静かだ。何もない。
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歩みを進めて行くうちに
山芍薬の可憐な姿が
山の斜面に顔をのぞかせる。
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平たく広げた緑の葉の上に
短くスッと白い花を咲かせている。
そっと丸く、手の平の上に包み込むような花弁。
白い花弁は薄く大きい、まるで蓮の花のようだ。
うす暗い杉木立の奥、
ごつごつ苔むした緑の岩の間に、
ぽっぽっと、白い「ともしび」が点灯する景色を想像する。
霧のかかる山道を歩くと、
その、ぽっ、ぽっという白い灯りが
幻想的にも見える。
聞くに、その花びらには、
紅く染まるものもあるそうで
白くかすむ景色の中に、赤く灯る印が点滅すると、
そこは森の精霊が棲む
神聖な場所の証なのかもしれない。
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気が付くと、
登り始めて2時間は経っていた。
こんなゆるゆる山歩きの
極私的山開きの一日。
とても山頂に辿り着けそうにもないので、
林道を引き返す。
川底の白い石を洗いながら流れる川のせせらぎ。
最初から終わりまで頭上で聞こえる野鳥のさえずり。
水害で道が崩落し、
登れる山の数は減ったけど、
五家荘は林道を歩くだけでも
気分が癒される山なのだ。
山開きで、普段はみんなやって来るのに
今年は何故、誰も登って来ない?と
山の神様も寂しがっているのだろう。