アバンタイトル
『Fate/Grand Order』とTYPE-MOON様をはじめ、多くの皆様へ敬意を込めて――。
貴方はFGOをプレイしたことがありますか?
Fateを知ってますか?
もし、聖杯が手に入ったら、どんなことを願いますか?
私は……。
私は、やっぱり駄目だ。
こういうの、苦手だな……(笑)。
率直に言います。
私は聖杯を手に入れて、最後に何か面白いものが見たいと願いました。
それでふと、思ったんです。ああ、私の好きな人が活躍する聖杯戦争なんてどうだろうって。
FGOでは絶対メインキャラなんかになれないような、そんな人が活躍する聖杯戦争です。
きっと最後まで残れないと思うけど。
というか、序盤で敗退しそうだけど。活躍できる気がしないけど……。
それでも、彼が奮闘するところを見てみたいって、あの時、咄嗟に思ったんです。
笑っちゃうけど……。
これはその、記録です。
って言っても、私に文才はないから。笑っちゃうくらい。
だから、そこまで聖杯にお願いしました。
貴方が今読んでるのは、きっと、私じゃない誰かが書いた文章です。
正直、つまらないかもしれません。
私よりはマシだろうけど、文才がある人を聖杯が選んでくれたかもわかりません。
……こんなこと言ったら失礼か(笑)。
すいません。
なんか、どうまとめたらいいのかわからないけど。
えっと……、そうだな。
なにかの縁を通じてこの記録にたどり着いてくれたのなら。貴方が。
それは、いいなって。
不思議とらしくもなくセンチメンタルなこと感じてて……。
……あー、語彙力(笑)。
だから、なんか……。
よかったら、読んでください。
――こんなんでいいですか?
*
西暦二〇二〇年八月一五日、土曜日。
日本。東京都豊島区南池袋――。
その日は朝からよく晴れていた。
冷房のきいた愛車から降りてまださほど立っていないというのに、待ち合わせの場所に十五分ほど早く着いた頃にはもう、Tシャツが汗でぐっしょりと湿っていた。
でも、ギャツビー で汗を拭く前から、気分はそう悪くなかった。むしろ、少し弾んでいた。
彼女に会うのは一カ月ぶりだった。いや、そのはずだった。
LINE *2 はそれなりにしていたけれど、コロナコロナ でなんだかんだちゃんと会うのは久しぶりのはずだったのだ。
スマホ を見る。彼女からの連絡はない。いつもの感じなら、あと十分十五分でくるはずだった。
Twitter を開き、タイムラインをさかのぼる。
これから見に行く映画のツイート が飛び飛びに流れていく。
本当は春に見に行く予定だった。でも、それもコロナで延期になってしまい、その日やっと公開だった。
『Fate/stay night [Heaven's Feel]』 、その最終章『Ⅲ.spring song』。
ここまで追ってきたし、Fateは好きだから、映画自体もすごく楽しみだった。それに、やっぱり久しぶりに彼女とちゃんと会えるのが、彼女とお互いに好きな作品の映画を一緒に楽しめるのが、楽しみだった。楽しみだった……。
でも、その日、彼女は待ち合わせの場所に来なかった。
約束の時間を五分過ぎても、十分過ぎても、予約していた回の上映開始時間を過ぎても来なかった。彼女からの連絡も来なかったし、既読もつかなかった。
次の日も、その次の日も、来なっかった。どこにも、来なかった。いつまでも、つかなかった。
彼女との時間は、訪れなかった。
まだ、あの映画は見ていない。
あの日から、一度もFGOにログインしていない。
夏イベも、水着ガチャも、映画の礼装も、もうFGOに触れる気にもならなかった。
FGOの連続ログインも、彼女とのラインも、あの日から止まってしまった。
あの日から――。