Vtuber最古の「関係性売り」 Vスカ番外編
(本記事は「Vtuberってアニメで良くないスカ?」の番外編記事となっております)
今回は現在のVtuberを語る上で欠かせない「関係性売り」の原点とも言える「天魔機忍ver.G」について述べていく。
生ける伝説「天魔機忍ver.G」
Vtuber初期(※1)は絶え間ないキャラ付けが行われていた。「親分キャラ」「下ネタキャラ」「サイコパスキャラ」「癒やしキャラ」「狂人キャラ」「ママキャラ」「健気なキャラ」、、、上げていけば切りがない。
とにかく当時「キャラ化」というのは、今のVtuber業界でいうところの「関係性売り」(=てぇてぇ関係)くらいには必要不可欠な要素だった。そして今回取り上げる四人は、多くのVtuberが誕生し次々とキャラ付けが行われた2017年年始の真っ只中に誕生した方々だ。
※1.Vスカ第二章を参照。主に3D勢が活躍していた2017年年末からにじさんじが台頭する2018年春までを指す。
第一項『天魔機忍ver.Gとは』
まず、本記事の主役「天魔機忍ver.G」について説明する。これは個人勢同士のグループ名であり、各メンバーの頭文字を取ったものである。以下に各メンバーの名前と説明を一言だけ記載する。名前からニコニコ大百科の記事に飛べるので、詳細が知りたい方はそちらをご覧頂きたい。
天︰ぜったい天使くるみちゃん
赤髪のツインテールを引っさげた力強い歌唱力の持ち主。←推し
魔:あっくん大魔王
魔王めいた風貌とは裏腹の優しいビビリ。←推し
機:ニーツ(メカ少女Vtuber)
青を基調としたモデルのメカ少女、物理(演算)に強い。←推し
忍:乾伸一郎(忍者Vtuber)
動画と下ネタに定評のあるイケメン忍者。←推し
(ver.)G:バーチャルゴリラ
魅力的な低音ボイスの、哀愁たっぷりのゴリラ。←推し
第二項『関係性売りの誕生』
初期のトップVtuberは複数の企業勢が占め、V同士のつながりは今のにじさんじやホロライブに比べれば弱かった。かつ、コラボにおいての立ち位置は依存関係というより友情関係に近かった。そんな中で「コラボの強み」(=関係性売り)を存分に発揮したのがこの「天魔機忍ver.G」だった。
彼らは個人勢でデビュー時期がほぼ同時期だったため、横のつながりも強くコラボも気軽に行えた。それが関係性売り誕生の一助となった。
第三項『世界観の尊重』
初期のVtuberはファンによるキャラ化が著しく、その分Vtuber側も独自の世界観を形成し活動していた。したがって、コラボするにあたってそれぞれの世界観が共有できないという問題があった。今のホロライブやにじさんじのコラボ配信からすれば、「アホみたいなことで悩んでるなあ」と思うかもしれないが、世界観というのはキャラ化に欠かせない要素であり、重要なものだったのだ。
しかし、「天魔機忍ver.G」はゲームを仲立ちにしてコラボを行なったため、世界観を気にすること無くコラボすることができた。このコラボ形式はのちのVtuberの主流となった。
第四項『模倣できない関係性』
ただ一つ、現在の関係性売りと異なる点がある。それは「てぇてぇ」に代表されるような、性別を強く意識した――百合や薔薇(※1)も含めた――関係性に対して、この四人のコラボは「個性」(=キャラ)によるところが大きいということだ。
「てぇてぇ」の例は、ホロライブで言う猫又おかゆと戌神ころねの「おかころ」やにじさんじで言う郡道美玲と神田笑一の「ぐんかん」などなど。これらは前述したように、性別を抜きにしては語れない関係である。その反面、互換性が高い。別のキャラで真似しようと思えばある程度はできてしまう。初見の人からすれば「おかころ」も「性癖コンビ」(※2)も同じ百合ということには変わりないし、ぶっちゃけ同じである。内容を知っている人からすれば全くの別ものだが。
一方「天魔機忍ver.G」は「天使」「魔王」「メカ」「忍者」「ゴリラ」といった、絵本から飛び出したような個性的な面々だ。これは模倣のしようがない。五つのピースがぴったりとハマったようなイメージだ。大人数だからというのもあるだろうが、このような関係性は今ではあまり見られない。
これほど相性がいいのは普通のYouTuberでも珍しいだろう。「天魔機忍ver.G」はVtuberだからこその面白さを発掘したグループでもあるのだ。
「あっくん大魔王」と「ぜったい天使くるみちゃん」の「あっくる」もなかったわけではないが、この「あっくる」も不遇な顛末を被ったことで、他の関係性売りと一線を画すものになった。
※1.「百合」とは女性キャラ同士の恋愛関係を表すオタク用語である。対して、「薔薇」は男性キャラ同士の恋愛関係を指す。
※2.にじさんじの健屋花那と白雪巴のコンビ
第五項『悲劇的な結末』
実を言うと、「天魔機忍ver.G」としてのコラボは10回にも満たない。加えて言えば「ぜったい天使くるみちゃん」は活動開始から一ヶ月弱しか活動できなかった。ではなぜここまで語り継がれるのか。
それは前身である「天魔機忍」が悲劇的な結末を迎えたからである。2018年2月14日、突如「ぜったい天使くるみちゃん」のアカウントが乗っ取られて消えてしまった。何とか連絡は取り合えたものの、彼女の今後の活動は難しい状況に。
そうして、絶頂期の真っ只中にいた「天魔機忍」だったが、この出来事によって解散を迫られた。しかし、その3日後「天魔機忍ver.G」のコラボが行われた。バーチャルゴリラ氏が合流したグループである。「ぜったい天使くるみちゃん」は惜しくも不在だったが、タイトルに「天」の文字は残されていた。
心理学的に言えばツァイガルニク効果と言うそうだが、人間という生き物は続きが見たい生き物である。仲睦まじいコラボが唐突に不穏な終了を迎えたからこそファンは続きを待ち望み、長い間語り継いでいるのだ。
第六項『続く物語』
とはいえ、「天魔機忍ver.G」が完全に終わったわけではない。2018年年末のV紅白には5人で登場している。このとき歌った「1/6の夢旅人2002」は、かつて「ぜったい天使くるみちゃん」が歌い、「あっくん大魔王」も思いを込めて歌った曲で、「天魔機忍ver.G」にとっては思い入れのある一曲だった。
再会を果たした「天魔機忍ver.G」に、ファンは言葉では言い表せないような感慨深いものをひしひしと感じた。ぜひ聴いていただきたい。
「天魔機忍ver.G」がグループとして配信してくれることはこの上なく喜ばしいことだ。だが、ファンとしては5人がどこかで仲良く笑いあっているのならそれで構わない。
第七項『まとめ』
「天魔機忍ver.G」は関係性売りの原点とも言えるグループであり、「世界観」という障害を乗り越え、Vtuberコラボの先駆けとなったグループでもある。あれほど個性的で相性の良いグループは後にも先にも滅多に出ないことだろう。
つまり、彼らは「キャラ化」を存分に活かすだけでなく「関係性売り」の発展にも貢献した、業界における転換点だったのかもしれない。
前身である「天魔機忍」は不穏な形で幕を閉じてしまったが、新たに誕生した「天魔機忍ver.G」は今でも不定期で活動している。
最後に
最後に「天魔機忍ver.G」をテーマにした記事を紹介しておく。
ぜひ忌憚なき意見を聞かせていただけるとありがたい。以上だ。