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新しい場所で

マスタークラス(講習会)のピアニストが急遽来れなくなったので、日曜日夜から代役で来て欲しい、という連絡があったのが金曜日の午後。

夜帰宅してから提出されていた課題曲を見ると、すぐに弾ける定番協奏曲、知ってはいても多少は練習時間が必要なピアノの比重の大きいソナタに加え、知らない曲も数曲あって、先ずは限られた準備時間の配分に頭を巡らす。

ここのマスタークラスは特別なクラスで、事前選考を経て奨学金を得た優秀な若いヴァイオリニストが参加しているので、皆完成度の高い状態で持ってくるし、金曜の夜にはスポンサーを招いた演奏会(ライブストリーミング付き)なので、何とか形にしなければならない。

週末お天気がいいのでハイキングに行こうとか、久しぶりに女子トーク満喫しようとか考えていたのが一気に吹き飛ぶと同時に、この短期間でどこまで出来るか、という新たなチャレンジにワクワクする気持ちも湧いてくる。

6年前にはじめてマスタークラスの伴奏ピアニストのお仕事をする事になった時も、「ピアニストが足りないからとにかく来て!」と呼ばれて 何が何だかわからない状況で始まって、その連鎖で今では年に10コースほど関わることになった。

相手がプロの演奏家でも学生でも、共演というのは、ただ一緒に弾くだけでなく、ほんの一瞬の間合いの取り方や音の出し方で、色々なことを感じ、反応し合いながら奏でていく過程なので、マスタークラスのお仕事とは、Ingolfの言わんとする事を私なりに理解して、演奏でそこに導ける様にアシスタントする役割と理解している。

元々妹2人がヴァイオリンを習っていたこともあり、発表会やコンクールの伴奏、ホームパーティで一緒に弾くのは純粋に楽しかったし、妹が弾きやすいようにという気持ちが働いて、耳を傾けて音を重ねて行く事が自然になったのかも知れない。

ヴァイオリニストのIngolfと出会ってからは、彼の豊かな音色やホールの残響に即座に対応する柔軟性、本番に対する軽やかな心構え、音楽だけでなく森羅万象への祝福の様な、基本的な在り方までも、一緒に演奏していると伝わってきて、いつも気づきをもらっている。

言葉を介さないからこその、とてもインテンシブなコミュニケーションは、疲れる事もあるし、良い相乗効果で素晴らしく豊かな時間になる事もある。

今回のマスタークラスは主催者曰く、関わった全ての人にとって、後者のパターンで忘れ難い貴重な体験となった。若い世代にこんなにも才能に溢れた、音楽家としても人としても素晴らしい人材が育っている事に驚くと同時に、一緒に考え、感じ、本番の緊張感を共にし、笑いあう中で、彼らの真剣でひたむきなエネルギーに触れて、自分の課題も見えて来た。次回以降のお仕事の依頼も頂けて、頑張った甲斐もあった。

この様な機会を与えてくれた巡り合わせに感謝すると共に、これからも成長し続けたいと思う。

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