ポルシェ。

気付けば3月だ。気付けば、って、もちろん気付いてたけど2021年の3月だ。

12月くらいからドタバタと忙しくて、仕事の「忙しい」ってのは終わりが見えないマラソンみたいで、割ともう呼吸も限界で身体中が悲鳴を上げて立ち止まっちゃいたいんだけどゴールが見えない、終われない、走り続けるしかない、みたいな感じ。12月からずっとそんな感じで、もしこれがマラソンだったらgooglemap上に綺麗な日本一周が描けているに違いない。


色んな仕事が並行してると、いつもよく仕事をしている人、新しい人、ちょっと変わった考え方の人、古典的な人、色んな人と日々会話をすることになる。フィルムディレクターはフィルムクラフトを生業にしているんだからクラフトの話だけスタッフとしていればいいのではと思うけど、全くそんなことはなくてめちゃくちゃ雑談をしなきゃいけない。コツコツ孤独に作業して、仕事が終わったらドライにはいサヨナラと言えたらどんなに楽だろう。ましてや、ある程度ネタっぽい話の一つや二つできないといけない雰囲気さえあったりする。僕に生き別れの妹がいて両親が元傭兵で世界中の戦場を渡り歩いて、チベットの奥地で高熱を出して死の淵をさまよったときに村の長老が大樹に祈りを捧げたら奇跡的に熱が下がったなんてエピソードがあれば良かったのに、僕の35年間はごくごく普通の当たり障りない人生だ。


話が脱線したけど、まぁ色んな人と話さなくちゃいけない。最近見た映画、面白かったエピソード、家庭の話、仕事の話、ネタはその時々で。


で、年に数回は必ずある話。

「監督ってやっぱ高い車に乗ってスタジオに来てほしいよね」

「ドーンと稼いでパーっと派手な格好で、時代錯誤なバブリー感出してほしい」


みたいな。そこまで直接的に言う人は少ないけど、一種の「成功者の証」みたいなものを日常生活でも提示しててほしい、みたいな。いやみなさん冗談で言ってるんですけどね。


CMディレクターと言えば高給取りで高い外車に乗ってでっかい家に住んで若いモデルと不倫して離婚して家を手放すハメになるまでがワンセット。誰だそんな悪しき慣習を作ったのは。僕は車も持ってないし家も賃貸だし若いモデルの仕事がほとんどないぞ、なんで男ばっかりなんだ、たまには若い水着の女の子を10人くらい並べて南の島で撮影したい。


僕の業界もすごく世論に染まってきて

「みんな土日はなるべく休みましょう」

「車を運転するのはやめましょう、車両部に発注しましょう」

「予算は守りましょう」

「会社の規律を守りましょう」

「スタジオでタバコは吸えません」

「連絡が取れない監督は2度と使わない」

「遅刻する監督も2度と使わない」

「めんどくさい監督も2度と使わない」

「キレる監督も2度と使わない」

「ギャラにうるさい監督も2度と使わない」

なんてことを言われているかもしれない。


そんなこんなで、僕の職業も御多分に洩れず「安心安全クリーンな人物像」を求められてる一方で、「1000万オーバーのポルシェを3年ごとに乗り換える」みたいなアメリカンドリームまっしぐらな人物像を口に出す人もいる。


でもまぁどっちも本心で、仕事上の扱いやすさと職業上の体面的なイメージってことなんだろう。それが同一人物に宿るかどうかは別として。


芸人とか俳優の世界もそうなのかもしれない。ちょっと売れたらそんな両極端なイメージを求められる。もちろんどっちも叶えられればいいんだけど、僕にはまだポルシェが買えないから中古車サイトを巡回しながら利便性のある国産車と見栄えのする安くて古い外車を見比べたりしてる。そんな暇があったら、寝るか仕事するか映画の一本でも観ればいいんだろうけど。


さて。今月いっぱいはまだマラソンが続く。多分ゴールは3末だ。そんで自粛期間も3末頃になりそうだ。一気に弾けて4月に遊ぼうものなら病気になるんだろうか。できれば、今年はロケがたくさんしたい。自主でも仕事でも、変わった風景をたくさん撮りたい。街を歩けば、風景が変わっていることに驚くばかりだ。田舎はどうだ、海外はどうだ、色んな風景を見て回りたい。

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