おやすみ私_ヘッダー2

おやすみ私、また来世。 #14

 五月に入っても震災の影響は続いていた。テレビは通常の番組に戻っていたが、ニュースでは相変わらず被災と被爆について語られていた。生まれ故郷ではなかったが、知った土地が甚大な被害を受けたこともあって、僕の気持ちは沈んだままだった。俗に言うエア被災はずっと続いていた。それでも僕と彼女は、震災前と何も変わらず、週に一度は御茶ノ水のファーストフードで、みらい観測クラブの集会を続けていた。被災の不安からお互いの存在を確かめるように、それまで以上に頻繁に会った。
 彼女が浪人生であることもあり、彼女の通う予備校の課題を二人で解くことも少なくなかった。それでも気がつくと、彼女は世界に蔓延る陰謀論や幽霊と宇宙人──世間ではオカルトとして片付けられる話題についての自論を饒舌に語った。それは彼女にとっての息抜きであり、心を奮い立たせるための言動でもあった。
「──福島の原発の上空にね、UFOが現れていたらしいの」
「あぁ、何か災害が起こるとUFOが出現するって、どこかで聞いたことがあるな」
「そう。それは世界中で確認されてる。9.11のときも、貿易センタービルの上空にUFOが現れたって当時話題になった。それは今でもYoutubeで確認することができる」
「やっぱり、UFOは野次馬的に見に来ているのかな? 黙って見てないで助けてくれればいいのに」
「そうね──ところでジン君、チェルノブイリ原発事故は知ってるよね?」
「もちろん教科書に載るくらいだから、どんなものかは知ってるよ」
「今回の東電の原発事故が、最終的にどのくらいの規模になるかはまだわからないけど、チェルノブイリは史上最大規模の人為的災害として記録されている。だけど、実際はもっと大きな事故になっていたとも言われているの。当時、核爆発寸前だったチェルノブイリの原子炉は、放射性レベルが三〇シーベルトもあった。これが爆発すれば、ヨーロッパの半分は吹き飛ぶほどの威力だったらしい。でも、そうはならなかった──」
 そう言って彼女は一瞬溜めを作ってから、言葉を続けた。
「爆発寸前に、どこからともなくUFOが現れて、原子炉に向かって紅い光を照射した。すると三〇シーベルトもあった放射性レベルが、一気に八シーベルトにまで減少した。だから被害はあの程度で済んだって言われてる。海外では割と取り上げられる話題だけど、日本で報道されることはなかったみたい──今回、福島の原発一号機にUFOが現れたのも理由は同じ」
「それと同じことが起きたってこと?」
「そう。福島上空にUFOが現れてから、原子炉の放射性レベルが減少したらしいの。もしそれがなかったなら、もっと酷い事故になっていたかもしれない──チェルノブイリのときと同じで、国内では黙殺されているけれど、海外の記者はしきりにそれに反応してる」
「過去にそんなことが起こってたのなら、そう思うのも当然だろうね──それにしても、光線だけで放射性レベルを一瞬で減少させるなんて、とてつもなく高度なテクノロジーだな。そこまでできるなら、放射性レベルを0にまでできなかったのかな?」
「たぶんできたと思う。でも、それを0にしなかったのは、原発を使った人類に対しての戒め。それと、そうしてしまうと、彼ら自身の存在を公にしなければならないだろうから、ぎりぎりのところで止めたのかもしれない」
「宇宙人の存在を公にするには、まだ時期じゃないってこと?」
「うん。まだ人類全体がそれを受け容れるレベルには達してない」
「そっか……オカルト通ならともかく、いつになったら皆が受け容れられるレベルになるんだろうね」
「それは一〇年後かもしれないし、二〇年後かもしれない。でも、三〇年まではいかないと思う。今はそうやって、毎年UFOや異星人についていろんな情報が流されていて、ある日突然、宇宙人はいますって発表されても、皆が驚かないように、少しずつ世間に耐性をつけている最中。わざわざ情報の中に撹乱するディスインフォメーションがあること自体、UFOや異星人の存在の信憑性を逆に高めてる」 
「なるほどね」
 相変わらず、それは突拍子もない話にも思えたが、彼女の話にはそれを裏付ける情報が盛り込まれ、そうかもしれないという可能性を飛躍的に高めていた。それは彼女の哲学と言えた。
「──でも、それだけ聞くと、異星人は地球人を助けてくれるみたいで安心した。映画やゲームみたいに、異星人の総攻撃を受けて地球滅亡みたいなことにはならないんだね」
「うーん、実はそうでもない──地球には遥か昔から何種族かの異星人が来ていて、その中には敵対的で危険な種族もいる。家畜の血を抜くキャトルミューティレーションをしたり、人をさらって人体実験まがいのことをするアブダクションをしているのは、皆がイメージする宇宙人像の代表格でもあるグレイタイプだと言われてる」
「そうなんだ……そう言われると、グレイは悪いやつに思えてきたな」
「まぁ、本気で地球を侵略しようと考えてたり、人類を滅亡させたりしようとしない分、彼らのやってることはまだまだ可愛い方だと思うけどね──で、そんなある意味、人類に敵対する異星人から地球を護ってくれているのが、うしかい座から来たという宇宙最高峰の文明を持った異星人。彼らを恐れて、悪意のある異星人は地球に手を出せないでいる。その技術は私たちが想像もできないほどに高度で、時間の概念をも解き明かしている」
「すごいな……時間の概念を解き明かすって、それって自由に過去や未来に行けるってこと?」
「そう。彼らにとって時間は過去から未来へ一方通行に流れていくものでなく、過去も未来も自在に行き来できるもの──私たちの想像だと、無闇に過去に戻ると、タイムパラドクスが起こって未来が変わる、なんて思わてるけど、日常的にタイムトラベルをしている彼らからしてみれば、それは杞憂でしかない。それどころか、案外そんなことは起こらないのかもしれない。かつて二〇〇〇年初頭に話題になった未来人ジョン・タイターは、生まれたばかりの自分自身と二年ほど暮らしていたと言っている。本人同士が同時に存在できることを考えると、世界はいくつもあることが想像できる。タイターはタイムマシンの原理や理論を説明する中で、エヴェレットの多世界解釈──エヴェレット・ホイーラー・モデルは、ある意味間違いではないと言った。彼が過去での任務を完了し、二〇三六年に帰還するときにも、世界線や結果は無限のものだというメッセージを残してるしね」
「それってどういうこと? 世界は無限にあって、どんな選択をしても、元の未来には何も影響がないってこと?」
「たぶん。マルチバース理論のひとつである母娘宇宙(daughter universe theory)では、選択した数だけ、どんどん宇宙が枝分かれしていくという理論。これが正しい宇宙の法則かはわからないけれど、この理論であれば、それぞれ枝分かれした世界に、お互いが干渉することはない。いわゆるパラレルワールド」
「あぁ、確かに。それだとパラドクスが起きるように思えるけど、そのときはもう別の世界に変わってるから、元の世界には関係ないってことだね」
「そう。枝分かれした分だけ、それぞれの未来がある」
「じゃあ、過去や未来に飛んだ先には、過去や未来の自分自身もいるってことだよね?」
「おそらく。世界が分岐してコピーされたとき、自分自身もコピーされる。だからその世界にとって、過去や未来からきた自分自身……仮にXとすると、Xはその宇宙では全くの別人。だから、その宇宙ではパラドクスは起こらない。Xと干渉した、という新しく分岐した並行世界が生まれるだけ」
「あぁ……『ドラえもんだらけ』は、きっとそれなんだろうな」
「──ドラえもんが未来に行って、二時間先のドラえもんたちに宿題を手伝わせる話?」
「そう、よく知ってるね」
「ネットで知っただけで、実際に読んだことはないんだけど──で、元々の枝分かれする前の宇宙を観測することができないと、その宇宙が分岐した世界かどうかはわからない。そういう現実があるけど、そのうしかい座の異星人たちは、全ての並行世界を観測できる上に、それを自由に移動できる技術を持っているらしい。それこそがタイムトラベルなんだと思う」
「なるほど……なんとなく理屈はわかったけど、高度すぎていろいろと想像がつかないな」
「うん。地球の歴史で言ったら、彼らにとって私たちは原始人レベル。うーん、ミドリムシレベルかも──だからこそ保護してくれているのかもしれない」
「まぁ、それだけの技術差があったら戦争どころか喧嘩にすらならないもんな」
「そう。そのテクノロジーは物質の概念も超越してて、すでに肉体を捨てるほどに進化しているはず」
「それは、あおりちゃんのいう精神生命体ってこと?」
「うん。普段は精神体として存在していて精神世界に住んでる。必要なときにだけ、その環境にあった肉体に乗り移って行動する」
「まるで『AVATAR』だね」
「そう、そんな感じ。最終的に重要なのは精神だけ。それさえ残れば、死という概念はなくなる。精神体こそが生命の究極の形。肉体がなければ、日々劣化していくこともなく、怪我もしなければ病気になることもない。意識で繋がり合う精神体は誰もが平等で、他人の顔色を伺ったり、駆け引きしたりもしない。妬みや嫉みもなく、誰も争うこともない。誰もが穏やかに、永遠に生きていくことができる」
「──究極、ねぇ」
 僕はそこまで精神体にこだわる彼女の気持ちに到達できないでいた。それは死後の世界に対して懐疑的な自分がいたからかもしれない。死んだら無になる。魂も精神も、何もかも消えてしまう。心のどこかで、そう思うくらいに僕はまだ世俗的だった。そして何の迷いもなく、死後は皆が幸福な精神体になると信じる彼女を、どこか寂しくも思った。

┃神@zinjingin・2011/5/21
┃今日は中野で『立式Ⅲ』演ってたんだな。
┃いろいろあってチケット取ってなかったから
┃来月の新木場を楽しみにする。

┃あおり@aoriene・2011/5/21
┃9月の原宿以来?

┃神@zinjingin・2011/5/21
┃あー、それはずいぶん久しぶりな気がするわけだ。

神@zinjingin・2011/5/25
『ルル/ときめきハッカー』購入。
groovisionsのジャケットデザインが凝ってる。

┃神@zinjingin・2011/5/25
┃『YAKUSIMARU BODY HACK』
┃リアルタイムで生体データを配信するってスゴイな!
┃でも、なんかいやらしい感覚で観てしまうのはナゼだろう。

┃あおり@aoriene・2011/5/25
┃サイテー!

┃神@zinjingin・2011/5/25
┃(´・ω・`)

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