【小説】ぶーちょの生活-1
やんのかステップ
最近仔猫の間で流行っているらしい「やんのかステップ」をぶーちょも覚えた。二三日前から私たち人間に対してやるようになったのだ。
ぶーちょは五月の終わりころ、駅近くの遊歩道の隅の、斑入り榊の生垣の下にいた。私を見つけると嬉しそうに走ってきた。その時まだ瞳は青く、手のひらに乗るくらいのサイズだった。生後三週間くらいだろう、と獣医さんは言った。
それから五十六日がたったので、今三か月弱の仔猫だ。
「やんのかステップ」というのは、進行方向に対して90度首を曲げ、敵をにらみつけながら、横飛びするものなのだが、最近盛んにそのステップがYouTubeの猫動画に現れるようになった。春に生まれた仔猫たちを保護した人間たちが、アップしているのだ。
ぶーちょがどうやってそのステップを覚えたのか、わからない。いつも私が見ているYouTubeの猫動画を参考にしたのか、それとも仔猫のDNAにすでに入っているものなのか。
先住猫の縞尾は今年の春に十二歳になる大人なので、仔猫の激しい遊びには付き合いきれないのか、相手にしない。そこでぶーちょは、何をやっても怒られない人間を仮想敵にして遊んでいる。