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【小説】雄猫ぶーちょの生活 20 一夜の自由

我が家には猫が二頭いる。十三年前に保護した雄猫の縞尾と、一昨年保護したぶーちょ(福千代)だ。縞尾は小さいころから先住猫の藤尾に教育され、外にも連れ出してもらえた。そのころは、猫ドアは一日中開けっぱなしだった。

ところが、ぶーちょはおっちょこちょいで落ち着きのない仔猫だった。恐ろしくて外には出せない。運よく、保護したとき生後二三週間だったので、このまま外には出さないことにした。

そして、夜、ぶーちょが奥の夫の部屋で寝た後、廊下と居間の間にあるドアを閉め、縞尾のためだけに猫ドアを開けることにした。それがぶーちょには不満だった。また、毎晩毎晩ぶーちょを夫の部屋に誘導するのも大変だった。

そこで、考えた。

夜、ぶーちょを夫の部屋に誘導しないで、居間のドアを解放したら、どうなるだろうか。そうなると猫ドアは一晩中閉まったままにしなければならない。縞尾は怒るだろうか。

試しに、次の日の朝に外出の予定がない夜、居間のドアを解放してみた。九時になると、縞尾がちょっとぐずり始めた。そこで、庭に面したガラス戸を開けてやると、長い夜の散歩に出かけた。

ぶーちょはというと天袋からイカ耳で警戒し外に出ていく縞尾を見ていた。

三十分ほどで縞尾は帰ってきた。

縞尾と一緒にベッドに入り、しばらく本を読んでいると、ぶーちょが天袋から降り、ベッドにやってきた。一緒に寝るつもりかな、と思ったが、枕元でしばし考え込んで、それから、これは違う、という顔をして、飛び降りた。

ベッドの足元にぶーちょのピンと立ったゆらゆらするしっぽが見えた。それから、そのしっぽは部屋から出ていった。天袋には戻らなかった。

夫の話によると、ぶーちょはすぐにベッドにもぐりこみ、寝たそうだ。

縞尾も、朝まで出かけることもなく、ベッドで寝たり、自分の湯たんぽ付き猫ベッドで寝たりして過ごした。

なんだ、大丈夫だったんだ。


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