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【小説】雄猫ぶーちょの生活 19 妄想の発情期

寒さが厳しさを増し、翌日は雪になるという日、午前中の外出から戻ると、めずらしくぶーちょが玄関で出迎えてくれた。やっぱり明日は雪だ、と私は思った。

でも、夫は、「ぶーちょが神経症になった」と言った。

夫によると、朝から興奮してずっと走り回り、手が付けられなかったという。そして今ようやくなだめられておとなしくなったそうだ。

雪のせいかもしれない、雪が降る予感で興奮したのかもしれない、と私が言うと、そんなことはない、と夫は反論した。でも、これまで雪のせいで興奮する猫もたくさんいた。

それからまた、最近発情期で雄猫がけんかしている声を聴いたのを思い出した。

発情期だ。ぶーちょは一年前に去勢している。一年前のこのころ、ぶーちょは発情期になり、あわてて獣医の予約を取り、去勢したのだ。でも、猫は一度発情期を経験すると、その記憶は一生消えない、という話をどこかで読んだか、聞いたかした。

ぶーちょはそれから夜までずっと天袋にこもり、眠った。昼ごはんも夜食も食べなかった。ぶーちょの分の夜食は、縞尾が全部食べてしまった。

夜遅くになって天袋から降りてきたぶーちょは、すっかり正気の顔になっていた。走ってドライフードのある場所に行くと、むしゃむしゃ食べた。

ぶーちょは、妄想の発情期を経験したのだ。


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