【小説】仔猫ぶーちょの生活-6 にゃあとなかない
ぶーちょは無口だ。ほとんどなかない。たまにタオルハンカチと格闘して激昂すると、「ききき」となくことはある。「にゃあ」ではない。
ところが、一回目のワクチンを接種しに動物病院に行った帰り、洗濯ネットに包まれて入っていたキャリーバッグの中から、一声か二声、「にゃあ」とはっきりないているのが聞こえた。猫らしいなき声だった。よほど心細かったのだろうか。
二回目のワクチンをつい最近打ちに行ったが、もうなかなかった。それどころか、ワクチンの前の触診の時、獣医さんの指にかみついた。「あらあ、まだ乳歯なのね」と言われたことに腹を立てたのかどうか。
注射と言えば、保護してすぐ、風邪をひいたので動物病院に行ったとき、抗生物質の注射をした。まさにぶーちょの猫生初の注射である。小さな首筋に針が入ると、よほどびっくりしたのか、「きゃあ」と飛び上がった。
ワクチンを打った時は、二回とも無言だった。一回目のワクチンは抗生物質の注射から一カ月、二回目のワクチンは一回目のワクチンから一カ月空いていたが、覚えていたのだろうか。そして、注射というものを学習したのだろうか。
ぶーちょはすごく賢いのかもしれない。