【小説】雄猫ぶーちょの生活 15 ぶーちょのお母さん
ぶーちょを引き取って以来、ぶーちょのお母さんの住む遊歩道のやぶの中に、毎日ドライフードと水を届けている。ぶーちょをいただいたお礼である。ぶーちょのお母さんはいることもあるがいないこともある。ぶーちょのいとこやらおばさんたちが出てくることもある。
先日、ぶーちょのお母さんが出てきて、ヤマボウシの種を渡された。ぶーちょへのビデオレターがその中に録画されているそうだ。
「こほん(困った顔)、これ、本当に録画されるのかしら(お母さんの顔が大写しになる)。
福千代さん、(と姿勢を正して、ぶーちょの正式名称で呼びかけた)
あなたとお別れして以来、たくさんの太陽が出て、沈みました。寒い冬もこれで二回目ですね。でも、あなたのことは一度も忘れたことはありません。これまでたくさんの仔猫を生みましたが、あなたは私の最後の子供でしたから。
というのも、あの後すぐ、人間たちがやってきて、避妊手術を受けさせてくれたからです。
かごに入れられて病院に連れて行かれました。何をされるのかわからなかったので、どきどきしました。あなたも去勢手術を受けたらしいですが、怖かったでしょう。怖かったのを別にすれば、もう子育てをしなくていいので、助かりました。
福千代さん、
人間の家族とうまくいっていますか。人間のお父さん、お母さんの言うことをよく聞いて、いい猫にしていますか。
乳児のころのあなたは、本当に落ち着きがなく、あちこちバタバタ動いていました。おまけにおっちょこちょいなので、外の厳しい環境で生きていけるのか心配でした。私は一晩考えて、あなたを人間に託すことにしました。
家猫になり、家の中で安全に暮らすことがあなたにとって一番いいと考えたのです。
次の日、まだ目もよく見えないあなたをやぶに連れ出し、遊歩道を通る人間に見つかるようにしました。たくさんの人が通りましたが、たいていは、まあ可愛い、というだけで通り過ぎました。
そのうちの何人かは、ああ、どうしよう、あんなに小さくて、このまま生きて行けるわけはない、助けてあげたい、と考えるのですが、決断できないでいるのです。
そういうわけで、一日目は失敗でした。二日目、犬を連れた若い人間の女性が、あなたに触りました。そこに、あなたの飼い主になる人が現れたのです。犬がいるのでうちでは飼えない、という若い女性に、じゃあ、私が、と言ってくれたのです。
あなたは、よたよたとその人の足元に走っていきました。
赤いカーディガンにくるまれたちっぽけなあなたは、人間に抱かれて行きました。遠ざかる姿を、私はやぶの陰から見ていました。
福千代さん、
あなたのおっちょこちょいは相変わらずだそうですね。これまでお風呂に二回も落ちたとか。そういう時は、どうか、落ち着いて冷静になって行動してください。
人間のお父さん、お母さんの言うことをよく聞いて、立派な家猫になってください。間違っても爪を出した前足で人間や、先住猫の縞尾さんをたたいてはいけません。本当にいけません。縞尾さんを尊敬してあげてください。あなたのようなおっちょこちょいを家族として受け入れてくれたのですから。
それでは、幸せにね。」