タル・ベーラ「ニーチェの馬」(2011)
「サタン・タンゴ」(1994)で自殺した少女が「ニーチェの馬」(2011)で成人した娘に生まれ変わりました。
同じように貧しい農家の娘で、同じように不毛な土地を空虚に眺めています。毎日、片手の不自由な父親の着替えを手伝い、イモをひとつ食べ、強風の中を井戸の水くみに出ます。なんと単調でつらい毎日。しかも、井戸の水がなくなるという試練を受けます。強風のためにどこにも行けない父と娘は、エサも水も口にしなくなったウマ同様、自然のなすがままに消えていくのでしょう。ネズミ駆除剤を飲んで静かに横たわった「サタン・タンゴ」の少女の内面を表現したナレーションからすると、自然と一体化した彼らは、こちらが考える以上に穏やかな気持ちなのかもしれません。タル・ベーラ監督独特の延々と続く長回しも、ここでは内容と見事にマッチしています。生きることの尊さを実感させてもらいました。
「サタン・タンゴ」のナレーション。
彼女はやさしく自分に言い聞かせた。
天使は自分を見て、理解してくれている。
彼女は穏やかな気持ちになり、木、道、雨、夜すべてが静かに呼吸しているのを感じた。
これまで起きたことはすべて良かったと彼女は思った。
結局、すべては単純だった。
彼女は前の日のことを思い出して微笑んだ。
そして物事がどのようにつながっているのかを悟った。
出来事は偶然によってつながっているのではないと感じた。
出来事の間には言葉にできないほど美しい意味があり、自分が孤独ではないことを知った。
父も母も兄弟も医者もネコもアカシアも泥道も空も夜も彼女に頼っていたし、彼女自身もすべてのことに頼っていた。
悩むことは何もなかった。
彼女の天使が自分のためにお膳立てしてくれていたことを彼女は知った。
2013年12月8日