コロワイドによる大戸屋HDのTOB成立、IFRSでの減損テストに耐えられる未来を描けるか
2020/9/9、コロワイドによる大戸屋のTOB成立が発表されました。
コロワイドからの発表はこちら ↓
株式会社大戸屋ホールディングス(証券コード:2705)の株式に対する 公開買付けの結果に関するお知らせ
ことし5月。当時約19%の大戸屋株式を保有するコロワイドが株主提案をしている時期にTOBまで見越して株を買っておけばよかったなーという思いは横に置きつつ、このコロナの逆風が吹き荒れる飲食業界で、なぜにコロワイドは大戸屋買収にこだわるのか、買収後、大戸屋は上場を維持されるようですが、大戸屋の業績はどのように推移していくのか。また、会計的な観点では、コロワイドはIFRS(国際会計基準)を採用しており、1年に1回必ずのれんの減損テストが求めらるところ、減損テストに耐えられる将来計画を描くことができるのか、考えてみたいと思います。
大戸屋の過去の業績推移
まず、大戸屋の有価証券報告書からひろった過去の業績推移は下表のとおりです。
売上、利益ともに減少傾向、直近2020/3期は消費増税、新型コロナ、人件費高騰などもあって赤字転落です。もう少し細かく見ていきます。
大戸屋は直営店約150店に対してFC店が300店の計450店という店舗構成です。上のセグメント情報からは見えませんが、国内直営事業は2期連続の赤字です。国内FC事業はオーナーからのロイヤルティ(売上の5%)と大戸屋が一括仕入れした食材をFC店へ転売する事業から成り立っています。単純計算になりますが、国内FC事業の売上75億円のうち約15億円がロイヤルティ(直営店売上135億円×店舗数2倍×5%=13.5億円と試算)、食材販売60億円強(有報の仕入実績から、国内FC事業の仕入実績60億円に若干の利益上乗せ)がその内訳になろうかと思います。利益の11億円はほぼほぼロイヤルティなんでしょう。国内直営事業の立て直しが課題である点は明らかです。
TOB価格と取得により発生するのれん
コロワイドのTOBによる財務への影響は開示されていませんが、試算すると株式47%部分の取得価額は約104億円(19%部分は3,081円より安く買っているはずでキャッシュアウトはもう少し少ないはず)で、うちのれんが約96億円(広義のれん。実際にはPPAでFC契約などの無形資産も識別されるはず)と、取得価額のほぼほぼがのれんという、もはや狂気の沙汰としか思えません。
のれんの裏付けは何か。コロワイドと大戸屋が対立する背景にある「セントラルキッチンの導入」による効率化により大戸屋の収益性を向上させることがまず挙げられます。また、大戸屋もコロワイドの既存セントラルキッチン(以下CK)を利用することで、コロワイドの既存事業にもスケールメリットがあり、その点も定量化して、96億円にカウントしているはずです。
コロワイドと大戸屋のPLの比較
コロワイド(CK方式)と大戸屋(店舗内調理方式)のPLを見て、原価率と人件費率までは似ているように思いますが、中身は異なります。コロワイドの売上原価にはCKコスト含みますが、大戸屋の売上原価にはFCへ販売する食材仕入れの原価も含まれます(有報の仕入実績情報から試算した直営店舗の食材のみの原価率27%です)。大戸屋も苦しいですが、コロワイドの収益性もいいわけではありません。
のれんの根拠の検証
コロワイドの2020/7/9のプレスリリース「株式会社大戸屋ホールディングス株式(証券コード : 2705)に対する 公開買付けの開始に関するお知らせ」によると、第三者機関がDCF法で算定した大戸屋の株価のレンジは2,817円~3,346円とされ、そのレンジ内である3,081円がTOB買付価格となりました。この1株3,081円で企業価値を計算すると約220億円。この220億円という企業価値がどれくらいの将来キャッシュフローをベースにDCFで計算されているのかざっくり試算すると、下表のようになりました。
かなり粗い試算ですが、おおよそ毎期FCFが15億円が毎期計上されるような事業計画でないとこの企業価値は正当化されません(のれんの減損テストでも同じ)。冒頭の大戸屋のハイライト情報を見てもFCF(営業CF-投資CF)で15億円出ているのは2016/3期のみです(2016/3期も創業者逝去に伴う保険金の受取り約10億円を含む数値であり、実質的に達成期はなしです)。これだけ見ると、のれんを正当化するだけの事業計画の達成には厳しいのではないかと思ってしまいます。
次に、大戸屋がCKを導入したときにどれくらいのPL改善が見込めるのかを考えてみます。スタートは上記のPLで、CKを導入時の将来事業計画を作成し、そこから企業価値を求める方法です。
しかし、コロワイドと大戸屋の開示情報はあるものの、まずコロワイドはグループの中でCKの情報が少なく(CK会社であるコロワイドMDの決算公告くらい)、コロワイドも大戸屋も、直営事業とFC事業の分離、食材の卸売り、国内・海外、本社費と各要素に分解して事業計画を検証していくことは、開示情報だけからはかなり困難です。CKの拡充投資の必要性(DCFにどうCPEXを織り込むか)なんかも未知です。
そこで、ちょっとアプローチを変えて、今回の買収の目的が以下の2点だという仮説のもと、影響額を試算してみたいと思います。
①CK導入による大戸屋の直営事業の収益性改善
②コロワイド既存事業でのスケールメリットの享受による改善
改善率自体に明確な裏付けはありません。例えば直営店の原価率を今より3%改善すれば、現在価値で54億円の価値がある。例えばコロワイドCKで大戸屋分も食材を一括で仕入れることで0.3%ボリュームディスカウントを得られたとしたならば44億円の価値がある。というように、考えてみるとイメージしやすいかなという程度です(合計が98億円でのれんにあうように作りに行ってますが、、)。
店内調理方式の大戸屋の店舗スタッフには、調理スタッフとホールスタッフどのくらいの比率でいるのかもわかりませんが、店舗での仕込みなどにかける調理時間が短くなることで、人件費はかなり削減できるのでは思います(現在27%の人件費率が3%下がるイメージができるか)。
(ちょっと一息)大戸屋の中期経営計画(2020/5策定)
大戸屋も今年5月、「中期経営計画の策定に関するお知らせ」にあるとおり、 中計を作成しています。コロワイドのTOB開始のお知らせの中にも、本中計のことが書かれていますが、あまりに酷評されている(・・・「経営管理及び財務的視点からの記載を一切欠いている」・・等の記載あり)ことから、チラ見してみました。
壮大で(見た目は)きれいにまとめられている44ページにわたる中期経営計画の中で経営数値に触れられているのはわずか3ページのみです。
約40ページにわたって書かれた、グランドメニューの改善などの施策がどうこの経営数値目標に結び付くのかはまったく書かれていません。コロワイドが「経営管理及び財務的視点からの記載を一切欠いている」と断じたのはそのとおりだと思います。よくこんなぺら3ページの経営数値目標でよく株主に応援してくださいと言えるなと。。しかも3年後のROEは5.6%。大戸屋の資本コストが何%か(経営者が何%と思って経営しているのか)は開示されていませんが、株主の価値を棄損しつづける計画を良く出してきたなと。。
これだけでは面白くないので、もう少し分解してみました。分解したのは直営既存店の売上高改善1,912百万円とEBITDA改善1,076百万円のところです。
既存店の売上を「客数の増加、粗利改善、デリバリー等の施策」で19億円増加させ、EBITDAで10億円増加させるようですが、客数でどれくらい改善しないといけないかというと、既存店の客数を14%増加させないといけない。3年度にその姿になるようにということですが、月次の売上・客数のレポートを見てもなかなか達成へのハードルは高い。お客さんがお店に来てくれたとして、店舗の調理のオペレーション、調理時間を今よりも15%も改善できるのでしょうか?CKを使わず仕込みから店舗調理にこだわる大戸屋の痛みはすべて店舗スタッフにそのしわ寄せがいっています。過重労働を緩和するためのスタッフの採用ができるのか、人件費の増加はどこまで織り込まれているのか(上の数字には織り込まれていなさそう)。店舗でおいしいものを作るう理想はいいですが、店舗の現実を見ない大戸屋の闇の部分を垣間見れました。
おわりに
この記事を書くにあたって、昨日大戸屋の店舗にお昼ご飯を食べに行きました。
お店に入ったのは13時を過ぎていましたが、待たされることはなかったものの、まあまあお客さんは入っていました。お店もきれいだし、料理もおいしかったです。口コミでよく書かれる「大戸屋は高い」という感じもしなかったです(大体のメニューが1,000円未満)。
ただ、正直、店舗調理にこだわる意味はよく理解できませんでした。CK方式採用するチェーン店でもそれなりにおいしい料理を提供してくれます。店舗調理じゃなきゃ食べない!というお客さんはいったいどれだけいるんでしょうか?いい食材にこだわり、ちゃんとお店で作ったおいしいものを食べたいと思ったときにはわざわざ大戸屋にはいかない。少なくとも私は。
店舗調理にこだわったチェーン店であることは一種の差別化の要因であったとしても、その点を顧客に訴求し価格を上げることができないという時点で、「強み」でもなんでもない。だからあんな収益性も低く、ROEも低い。
一方でコロワイドはなぜにこれほど大戸屋を欲しがるのか。飲食チェーンにとってCKを利用したスケールメリットでコストを削減していくしか、生きていく道がないという、戦略に潔さ良さを感じました。
PS
私が行った大戸屋ではタブレットで注文をとる仕組みになっているのですが、メインのメニューを選んだあと、トッピングを選ぶ画面を通らないと注文画面に行き着けない(私の使い方が悪いだけかもしれないですが、初見の客にとっては少なくともそうでした)。客単価上げるのに必死やな。。という感想を持ったのと、コロナ対応で座席の数を絞っている点も、短期的には業績回復は厳しそうだなと思いました。
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